暑苦しいと思われたい
──“キミはキレイだ” と “スーパースター” が再レコーディングで収録されていますが、この2曲を改めて取り上げたのはなぜですか。
明神 : ファースト・アルバム収録の "キミはキレイだ" と "スーパースター"は、宅録の要素が入っちゃっていて、完全に1からレコーディング・スタジオで綺麗な音で録りたかったんです。未だにライヴではこの2曲を楽しみにしてくれているお客さんが多いので、ちゃんとレコーディングしようと思って(笑)。
──ファーストの音源だとちょっとお行儀よい感じがするとか?
小林:いや、むしろ逆で、昔の録音の方が弾けてる感じがします。サウンド的にも圧倒的に進化しているし、演奏のポテンシャルも上がってるはずなんですけど、やっぱり新しく録った方がまとまりますよね。ライヴでは1サビが終わった後にギター・ソロを弾いているんですけど、ファーストにはそれが入ってなくて。それをそのまま入れたりとか結構弾けたつもりなんですけど、キレイに聴こえますね(笑)。
──キレイだけど大人しくはないですよね。
明神:そうですね。キレイなものに偏りたくないというか。決してこの9曲って全部キレイなストーリーではないので。最初に届く声は泥臭いものであってほしいというのは、自然に意識していたかもしれないです。
──“四角いブルー“はどこかふわっとした歌い回し、堂々巡りしているような歌詞とタイトルの「四角」との対比が印象的です。どんなときにできた曲ですか。
明神:四角っていうのは、ひとり暮らしの部屋のなか、自分のなかでの世界なんですけど、そこでもがいている自分をただ曲にしたというか。ツアーがなくなって、なんかもどかしいなっていう気持ちを言葉とメロディにしていった感じです。
小林:この曲のデモはロック色が強くて、こんな感じにしたいっていうリファレンスみたいなものを聴かせてもらったんですけど、自分の中では90年代の歌謡曲っぽいメロディのロック・バンドの曲が好きで、そういう曲のギター・リフとか、音色もエフェクティヴな音にしたいって提案をして作りました。今まで、デモからコード進行が変わることってほとんどなかったんですけど、“林檎79号線” と “四角いブルー” は結構コード進行を変えていて。明神が作る曲は基本的にメジャー、7th、マイナーっていう感じなんですけど、この2曲には、9thの響きとかジャズ的な裏コードっぽい解釈を含ませました。
明神:9thコードって普段使わないので、楽曲の幅が広がりました。ただ、逆にライヴでそのコードを押さえるのが苦手なので、そこは弾きたくないっていう気持ちがあります(笑)。
小林:練習しろよ(笑)。
明神:カポを付けるとこの辺 (10フレットぐらい) まで行かないといけないので。自分はアコギから入ってるので、カポを使った方が弾きやすいんです。
──ちなみに、ライヴでギターを弾くときクリップチューナーって付けます?
小林:僕は付けてないです。
明神 : 僕は弾き語りのときは付けますけど、基本チューナーは足元ですね。
小林:おもしろいこと訊きますね(笑)。

──ヘッドにクリップチューナー付けてるのって見た目があんまり好きじゃなくて…(笑)。
小林:カッコ悪いですよね⁉ 僕もあんまり好きじゃない(笑)。
明神:学園祭みたいだよね。
小林:僕ははじめた頃から言ってますけど、三輪さん(スピッツの三輪テツヤ)とかHISASHI さん(GLAY)が付けてるの見たことないし。あとあれって、ネックの振動で音を取るわけじゃないですか? 単純に家の中と違って他の音とかも鳴っている中での操作性もあるので、フット・スイッチにしています。
明神:この前、楽器屋でギターの弦を買ったら抽選で同じクリップチューナーが2つ当たったんで、今度あげます(笑)。
──いや、大丈夫です(笑)。便利なんでしょうけど何かギターの造形美が損なわれる気がするんですよね。
小林:そうなんですよ。ヘッドが素の状態っていうのが、造り手の人もカッコイイと思ってるわけじゃないですか? ライトなんか点いてたらチカチカして絶対やだなって(笑)。……この話大丈夫かな? 炎上しないかな。
明神:ははははは(笑)。

──“ふぁっきゅーせんきゅー“は、タイトルからしてPARIS on the City!らしいなっていう印象です。
明神:音楽をやってると、楽しいことだけじゃなくて苦しいこともあって。でもどちらも生み出してるのは自分達だなっていう気持ちを歌にしたいなと思っていたんです。でも実はそんなことを考えちゃってる自分もなんか嫌で。そういう自分に対して “ふぁっきゅー“、 でもありがとうっていう気持ちを表したくて作った曲です。
小林:これは最高に楽しかったです。明神からもらったデモが軽めのポップ・ソングででも速いっていう感じだったんですけど、自分でギターを入れたときに8ビートゴリゴリのロックが超楽しくて。パワーコードを弾くだけで、ELLEGARDENとかGLAYとか聴いてた高校生みたいになっちゃって、デモから2時間ぐらいで完成してメンバーに「超ヤバいのができたから聴いて」って送ったら、なんかあんまりで。
明神:(笑)。
小林:でも結果的にみんな受け入れてくれてゴリゴリのロックでいくぞっていう感じでやりました。
──次の“間違った“も速いですよね。
明神:でもじつは、“ふぁっきゅーせんきゅー“の方がBPMが速いんですよ。“間違った“は最初こんなにテンポが速くなくて、でもライヴをやりながらどんどん速くなっていった曲です。
──ライナーに「故郷の公民館や図書館のトイレによく貼ってある〈来たときよりも美しく〉というスローガンに想を得て作ったもの」とありますが、詳しく教えてもらえますか。
明神 : ザ・ブルーハーツの「リンダ リンダ」に〈ドブネズミみたいに 美しくなりたい〉ってあるじゃないですか? 上手い具合に同じような感じの歌詞が書けないかなと思っていて、ずっとメモしていてようやく形になったのが “間違った” です。〈来たときよりも美しく〉という解釈っていろいろあると思うんですけど、別に間違ったっていいやと思って、それをそのままサビに持ってきたんです。〈間違って間違って間違って間違って間違って〉で、次が〈間違った間違った間違った間違った間違った〉。メンバーから「全部 “間違って” に聴こえる」って怒られるんですけど、「いや、間違ってないよ」っていうやり取りが楽しいです(笑)。
──レコーディングするときって、歌詞を把握した上で演奏してるんですか。
小林 : ちょっとアレな話ですけど、僕においては歌詞は、いまこの段階で気付くみたいな感じです(笑)。阿久津さんは歌詞に対する意識が強いので耳コピした歌詞をノートに全部書いていたり、田中さんは感覚で聴いてると思うんですけど、僕は一番最初に会ったときから完成されすぎてて何も言うことはないなと思っていたので。
明神:でも、間違った解釈で曲を聴かれるのは変に気持ち良いんですよね。
──“四角いブルー“のことですか。
小林:そうです。〈針の音響く〉と歌っているのが〈春の音響く〉にしか聴こえなくて、前作『れあもの』に入っていた “春の夜” のイントロフレーズを、B’zでメロディがなくなった瞬間にギターがギュイーンって入ってくるようなノリでドヤ顔で弾いてるんですけど、〈針の音〉だったっていう(笑)。それも、ライナーノーツの取材のときにドヤ顔で喋ってその場で違うことを指摘されたんですよ。
明神:じつはそれは狙ってやっていて。〈針〉にするか〈春〉にするかめっちゃ迷ったんですけど、どっちにも聴こえるように歌ってます。“四角いブルー” 自体がそういうストーリーの作り方をしているので、どういう解釈をしてもらっても嬉しいです。
──もう1曲、“愛の爆心地” は極端なワードの組み合わせですが、どんなことを思って書いた曲なんでしょう。
明神:自分がアコースティック・ギターをはじめるきっかけになった身内の方がいて、その方がコロナで亡くなってしまったんです。まだ1度もPARIS on the City!の音源を聴いたりライヴも観てもらったことがなくて、いつかは観て欲しかったと思っていたんですけど、もう会えないし、しょうがないからそれを曲にするしかないっていうことで書きました。「どうしたらあなたに会えますか」っていう想いが裏テーマなんですけど、リスナーの人それぞれの大事な人、会えない人を思い浮かべてくれたらなと思っています。
──アルバムのなかでは、いちばんまっすぐな演奏な気がします。
小林:そうですね。いまの明神の話を聞いてからフレーズも考えたので。この曲でやれることはちょっと幻想的な感覚というか。僕も友だちが亡くなったりしたタイミングでそういうことを考えることがあって。なにか違う次元に行ってる世界観なんだけど、近い温かさもあるっていうところで、アルペジオで弾きました。アルペジオってちょっと怖いというか、死後の世界っぽいしでも優しく聴こえるというか。そういうところを意識してサビやAメロに入れています。ギターで目立ちたいというエゴよりも、「どうしたらこの曲が良くなるか?」というところに全部のベクトルが行くというか、明神が歌っている裏でこの音数の少なさで鳴ってれば、俺の役割最高だなみたいなところがいちばん表現できた曲です。このアルバムの中でいちばんやりがいを感じましたし、すごく好きな曲です。
──どんな1枚になったと感じていますか?
明神:全体的にうるさい曲が多い、暑苦しいアルバムになってます。逆に言うと、暑苦しいと思われたいし、そう思ってもらって大丈夫です。作ったときの自分たちの気持ちがそのまま表れているアルバムなので、そこに嘘はつきたくないし、自分たちがその期間を生きた証を残したいがために作ったアルバムです。
小林:僕たちが5年間やってきたなかで、やりたかったこと、好きなことが象徴されているアルバムだと思うし、1曲目から9曲目を聴いたらまた繰り返して聴きたくなるようなアルバムになっているので、たくさん聴いてもらいたいです。自分は受験勉強のときにずっと同じアルバムばかり聴いていて、聴き終わると「ああ、これで1時間勉強したんだな」みたいにしていたんですけど、そうやって若い世代の子たちにも聴いてもらいたいですね。
明神:音楽を聴く方法って、いまはPCとかスマホとかになってると思うんですけど、ジャケットにあるようにCDが今作のテーマでもあって、なのに配信サイトのOTOTOYさんに取材していただいているんですけど(笑)。是非OTOTOYからも聴いてもらって、願わくばCDの良さも若い世代にわかってもらいたいです。