Rebekka Karijord 『The Bell Tower』
LABEL : Bella Union
スウェーデンの音楽家レベッカ・カリユードの新作は、声楽とエレクトロニクスの融合がこれほどの次元に達したかと驚かされるレコードとなっている。初めて彼女自身が完全にプロデュースした作品で、統一された意志がアルバム全編を貫いている。「世界中から25人の女性、ノンバイナリー、および男性の歌手を録音し、個々の声と私自身の声からサンプル楽器を作った」というコメントからある通り、サンプル・ヴォイスがベースにあるのはホーリー・ハーンダンを思わせもするが、ヴォーカル・アンサンブル、ルームフル・オブ・ティースの見事な合唱によって、これまで世界に存在しえなかったヴォーカル・ミュージックになっている。〈ベラ・ユニオン〉はこれまでもクラシック~現代音楽のユニークな作品をリリースしてきたが、本作もその1枚といえるだろう。
Ringdown 『Lady On The Bike』
LABEL : Nonsuch
キャロライン・ショウのネクスト・アクションを予想できない。彼女は今回、エレクトロ・ポップ・デュオ、リングダウンとコラボレーションして見せた。リングダウンは、以前紹介した『Rectangles and Circumstance』に参加しているので、その縁だろうか。キャロライン・ショウは本作でストリングス、プリペアド・ピアノ、ドラム・プログラミング、ヴォーカル、シンセサイザー等、八面六臂の活躍をしているが、あくまでエレクトロ・ポップとしての要素を保ったまま、サウンドの中に的確に音色を落とし込んでいる役割をしており、その絶妙なセンスには舌を巻く。クラシック~現代音楽のフィールドから出発した彼女は、今や圧倒的に優秀な音楽家として活躍していることがわかる。このような作品をリリースする〈ノンサッチ〉の懐の広さには改めて尊敬の念を禁じ得ない。
Duval Timothy 『wishful thinking』
LABEL : Carrying Colour
類まれなるコラージュ・センスと音響的なアイディアで、エレクトロニクスとピアノの新たな地平を切り開いてみせた、ロンドンで華咲いた新時代のエクスペリメンタル・リリシズム。クラシック~現代音楽という枠組みを越えて、間違いなく年間ベスト級の1枚だろう。エンジニアに、ポスト・ダブステップの雄ジョーカーを招いているのが面白い。彼は今年、スクリレックス『F*ck U Skrillex You Think Ur Andy Warhol But Ur Not!! <3』、Aya『hexed!』といった話題作にエンジニアとして参加しており、また、本作にはヴィーガンも召喚されており「big flex」を共作する等、コラボレーションのセンスも興味深い。デュヴァル・ティモシ―は前作『Meeting With A Judas Tree』(2022年)で、すでにその才能が輝いていたが、本作のピアノ・サウンドは別次元。ピアノを主戦場にしているポスト・クラシカルの一部は、本作をもって決定的に古いものになってしまったとさえ思える。まさしくエポックメイキングな1枚。坂本龍一に聴かせたかった。