Alex Paxton 『Delicious』
LABEL : New Amsterdam
クラシック~現代音楽の革新的レーベル〈ニュー・アムステルダム〉の面目躍如たる1枚。トロンボーン奏者のアレックス・パクストンは、本作について説明する際「ハイパーポップ」というワードを使用しているが、本作はまさしくクラシック~現代音楽がハイパーポップに接近した傑作といえる。かのジャンルはもはや飽和状態で、当初は特異に映ったそのテクスチャーも、今や拡散と浸透の過程でマンネリ化の一途を辿っているが、本作はそういったものとは無縁だ。ハイパーポップと表現して想定されるようなガチャガチャしたサウンドもありつつ、ここにはクラシック~現代音楽、そしてジャズのイディオムに根差したボキャブラリーの豊かさがテクスチャーにバリエーションを与えており、飛躍しつつも地に足の着いた表現になっているところが奥深い。メロディーこそが自身のサウンドの核心であると述べるアレックス・パクストンには、ボーダレスな活動を期待したいところだ。
David Handler 『Life Like Violence』
LABEL : Cantaloupe Music
アンビエント・テイストのエレクトロニクスとアンサンブルの絡みが見事な、ブルックリン在住のヴァイオリニスト、デヴィッド・ハンドラーの巧みな作曲能力を本作で確認できる。〈カンタロープ〉レーベルからのリリースということから、その実力が折り紙付きであることがわかるが、彼は音楽家としての目覚ましい活躍とは別に、ニューヨークに「音楽の場所」を作る活動も実施している。グリニッジ・ヴィレッジの中心部にあるLPRというスペースの共同設立者としても有名な彼は、ニューヨーカー誌に「音楽シーンのイアン・シュレーガー」と称され、「スタジオ54」のような伝説のクラブだけではなく、数々のブティック・ホテルを成功させてきたレジェンドの名前を冠されたこともある。LPRではチャーリーXCXやレディー・ガガから、ニルス・フラームやティム・ヘッカーまで、ジャンルを越えた音楽家たちがパフォーマンスをしている。そんな彼の集大成が本作であり、LPRを運営するボーダレスな感性が存分に活きた作品になっている。
Juri Seo, Latitude 49 『Obsolete Music』
LABEL : New Amsterdam
韓国生まれのアメリカ人作曲家・ピアニストであるジュリ・セオにとって、本作が〈ニュー・アムステルダム〉でのデビューとなる。すでに成熟したその筆致で構築されたサウンドを、2012年から始動したアンサンブルLatitude 49の演奏でリアライズし、瑞々しくエネルギッシュな感動を届けてくれた。特に「Rondeau」~「Fantasia」でのチェンバロや「Cantus Firmus」でのパイプ・オルガンの使い方が面白く、セオリーから逸脱しつつも、脱文脈的なアヴァンギャルドというわけでもなく、サウンドの中で必然性を持って独自の音色/響きを獲得していて、ユニークなキャラクターとして存在感を放っている。また、サウンドの構成が極めて個性的で、リズムやレイヤーがどんどん変貌してゆき、その賑やかな遊び心がキャッチーに響くのが現代的だ。