互いの言いたいことが「なんとなく、分かる」関係性はとても素敵なもの
──一方、鍵盤を主軸とした1曲目“から部屋”は、曲の長さも短めで、ドラムレスの楽曲ですよね。
この曲は、最後に出来た曲なんです。本当は、ファーストEPの楽曲より、“花模様の傘”をリテイクして入れようかと思っていたんですけど、自分のなかでのもっと強い曲が欲しいなと思っていたところで、即興で作った曲なんです。先ほど、「生命力をテーマにすることで、姿勢に変化はありましたか?」と訊いてくださったところに繋がるんですけど、“から部屋”以外は、確かにわりと作り込んでいったし、エネルギーを使った実感はあります。でも、この“から部屋”は、すんなりと出たのに、いちばん生命力を感じた楽曲なんです。生命力って、押し出すものではないよな、と新鮮な実感を得られたのがまさにこの曲でした。
──メッセージ性も、かなりはっきりしていますしね。一方“Snowflake”は、アンビエントさをより高めた楽曲だなと感じていて、前作『Strange Bouquet』(2022)に収録されている“Minimize”をブラッシュアップしたような雰囲気があります。
そうですね。日本語が持つ譜割りの特性と英語の特性って全く違うし、よりリズムを楽しめるのは英語の方だと思っているんです。あとは、海外のリスナーの方もいらっしゃるので、そういう意味でも英詞の曲を入れたいなと思いました。
──英詞繋がりで言えば、最後の“Geranium”もそうですよね。前作との繋がりを表すかのように「bouquet」というワードも入っていたり、花がモチーフとして描かれたりしていますが、ゼラニウムという花を選んだのはなぜですか?
ゼラニウムは季節を通して咲くお花なので、人がなにかを成し遂げたり、作り上げたりしたものは、天候や季節に関わらず咲くんだという意味を宿して付けたタイトルです。この曲で描かれているブーケのイメージは、前作のブーケとはまた少し違うんですけど、この曲は「見落としてしまった、一度落ちた花びらを拾い集めて作ったブーケ」という意味で作りました。今作の大テーマとして『退廃してから作り直す』があるので、そういう意味合いも含まれています。
──最初の質問に戻るようですが、『退廃した建造物から』というテーマは、どこから生まれたものなんですか?
家の改装工事でベランダの塗装が全部剝がされて、コンクリートと鉄が丸見えになった時期があったんです。ある日、そのことをすっかり忘れていた時に、ふとカーテンを開けたら、ディストピア的な景色が目の前に現れた時にハッとして。その光景を見たときに、いま、自分がどこに住んでいるのかも分からなくなって、いままであった物が無いことへの恐怖と同時に、なぜか気持ちがスッキリとした感覚があったんです。“Hello”はその当時の情景をそのまま歌詞にしているんですけど、あの景色があったからこそ生まれたテーマだと思います。
──その上で、歌詞がよりリアル寄りになっているのが“なんとなく、分かる”と“エンパシー”だと感じているのですが、この2曲はどのような想いを込めて作った楽曲なんでしょうか?
まず“なんとなく、分かる”は、実は結婚式の歌なんです。人の結婚式で歌う機会があったんですけど、その時に、自分の曲のなかにウェディング・ソングって無いなとふと思って着手した楽曲です。でも、カップルだけの曲というわけではなく、人と人が、互いの言いたいことが「なんとなく、分かる」状況や関係性って、とても深くて素敵なものだなと思ったんです。なので、字面だけを見れば適当っぽさや曖昧さもあるかもしれませんが、すごく良い言葉だなと思って付けたタイトルです。コロナ禍を経て、ライヴやウェディングを通じて、同じ空間に人が集まって、同じ時間を過ごすことの喜びや有難さを感じると同時に、あの場では、言葉を交わさずとも、あなたと会うことを待っていたんだよ、という気持ちの共有が確かにあった。それが、とても尊いものだなと感じたんです。

──“エンパシー”は、想像力や共感という意味を宿した楽曲ですが。
シンパシーとエンパシーという言葉が並ぶことがよくあると思うんですけど、承認欲求や褒めてもらいたいという想いって、いつの時代を生きていたとしても根強くあるものだし、どうしても「(相手を受け入れることより先に)まず自分を受け入れてほしい」という欲求が先頭に立っている気がするんです。そういう面はきっと誰にでもあるだろうし、自尊心が大切なのは理解してはいますが、その考え方が先導するが故に、誰かへの思いやりや、本来なら好きになれるであろう人や物事に対して理解を深める機会を失ってしまっているような気がしているんです。なので、世の中の人たちが、ほんの少しでも、自分より相手のことを考える心の余裕を持てるようになったら、きっと環境は違えど、共生していけると思う。そういう気持ちを、歌詞にしました。
──この2曲は、今作のなかでも特に対比性があるなと思いましたし、この2曲間でユートピアとディストピアが表現されているなと思いました。自然的なモチーフの楽曲も多いなか、こうしたリアルに直結した楽曲を漏らさずに入れるというのは、猫田さんの強さの表れなんだなと感じました。今作のリリース・パーティーが9月にありますが、気持ち的にはどうですか?
前回はワンマンだったんですけど、今回は対バンです。さらに高橋くんにサポートをしてもらうのですが、リズムのあるソロ・ライヴははじめてなんですよ。前回はしっとりと聴いてもらっていたと思うんですけど、今回のライヴは活き活きとしつつ、作品同様より生命力溢れるライヴをお届けできると思うので、私もいまから楽しみです。

編集:梶野有希 / 石川幸穂
テーマは人間や植物の生命力
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ライヴ情報
猫田ねたこ セカンド・アルバム『dropss』リリース・パーティー〈てんてんてん〉
日付:2023年9月16日(土)
時間:開場11時 / 開演11時30分 会場:東京・大塚 Live House Hearts+
出演:猫田ねたこ / 紺野メイ / 高井息吹
チケット:前売り 3,400円 / 当日 4,000円 (共に+1ドリンク)
PROFILE : 猫田ねたこ
プログレッシブ・ポップ、オルタナティブ、ハードコア等の幅広いフィールドにて活動し、多数の海外公演を経て国内外への発信を続けるシンガーソングライター。プログレッシブ・ポップバンド「JYOCHO」、ピアノ・ロックバンド「heliotrope」ではボーカル/キーボードを担当。TSUTAYA企画のイベントVILLAGE VANGUARD製品へのCM曲を手掛ける等、楽曲提供も行っている。
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