やりたいからやりまーす、みたいな人に早くなりたい
――汲めども尽きぬ創作意欲ですね。アルバムの曲はどうやって絞っていったのでしょうか。
眉村:曲の強さで言ったら、もしかしたらもっと強いのまで省いちゃったかもしれないです。全体のバランスを考えました。それと、やっぱり意見をたくさん聞きました。これまで主観だけで選んできたけど、今回は人の意見を聞いてみようと思って。本当に外に届けたいから。自分の価値観が変ってことに気づいているので(笑)。
――そう変われるのが眉村さんのすごいところですよね。
眉村:いや、そうなりたくなかったところもあるんですよ。自分だけの色で染めたものを勝手に聴いてほしいし、いつかはそうなりたいけど、まだ外に届いてないのに色が濃くて入りづらいのはもったいないじゃないですか。そう考えたときに、そういえば宣伝のプロがここにいましたと思って。

――トイズファクトリーの人に意見を聞いてみようと。
眉村:耳を傾けました(笑)。前にテイラー・スウィフトが16曲入りのアルバムを出した時に、Xでやっぱ15曲追加で出しますって言って、全部で31曲出したじゃないですか。アルバムの曲数が少ないほど1曲あたりの再生数が上がるこの時代に。でも、そんなのも関係ないほどの億リスナーがいるからできるんですよね。やりたいからやりまーす、みたいな人に早くなりたいから、私はいまやるべきことをやろうと。そこまでいったら暴れてやると思ってます。
――眉村さんの傍若無人なふるまいが見たいですね(笑)。
眉村:武道館ワンマンで自信がつきそうなときにコロナだったり、前回のツアーファイナルがソールドしないとかで、見たくないけど現実の数字を見ちゃって、傍若無人になる前に、もう一度ちゃんとやらないとって思ってるんですよね。ただ、今回のアルバムも最初からずっと変わらない部分もあって。自分が聴いていて気持ちいいという部分は絶対に譲らないようにしてます。

――「幸福ミュージック」は眉村さんの作るポップスがネクストステージに進んだ感があります。
眉村:嬉しい。これは結構勢いで作れました。スリーピースバンドを目指したので、じつは音数が少ない曲で。ドラム、ベース、ギターの3種類しかいないから、ひとつひとつを丁寧に弾かないとバレるなって気づきがあったりして、そこもやってみてよかったところです。
――眉村さんといえば歌声やトラックメイク、それからアコギの弾き語りのイメージがありますけど、アルバムはエレキギターが印象的な曲がいくつかありました。
眉村:Cream Guitarsという会社からエレキギターを借りてるんですね。社長がめちゃデコった一点ものを使ってほしいということで。それでギターのモチベが超上がったんです。そのあたりから対バン相手を見たりしていて、ああやってフレーズめっちゃ弾くやつやりたいと思うようになったので、「幸福ミュージック」と「Homesick」はCream Guitarsで作りました。フレーズとかリフとかギターソロは自分できないんで…みたいな感じでここまできたんですけど、やってみたら結構いけた(笑)。ここらへんからひとつ扉が開いたなという感覚がありました。「Homesick」が最初にリフをやってみた曲なんですけど、初めてということもあって、ちょっとベトっとしているんですよね。それがいい感じのガレージ感を出せていてラッキーでした。
――そういった演奏やアレンジ面の変化も、いろんな人に届いてほしいという意欲と覚悟を感じます。
眉村:でか美さんもラジオで褒めてくれてました! ちあきちゃんはあんな感じの人なのに、まだちゃんと売れようとする曲を書くのがすごいって(笑)。
――そこはずっと変わらないですよね。
眉村:有名な人のアーティストのライブを見に行くと、自分とはなにが違うんだろうというのをよく考えるんです。でも、そういう目線で見たとて、私の歌は負けてないと思うんですよ。自分で言うのもなんですけど、歌はスタジアム級だと思います。だからあとは……いい服着たらいいのかな? この前、ボロボロのブーツを履いてたら、野呂佳代さんに「あんたそういうところから綺麗にしなさい」って言われたし(笑)。たしかに芸能人はいい服着てるよなって。
――歌の力だけじゃなくて、種々の要因が複雑に絡まり合った総合力が必要な世界じゃないですか。その意味で「幸福ミュージック」のMVは振り切った感もあり、驚きました。
眉村:総合力上がってます?
――上がってますよ。とても愛らしいし、あんなふうにダンスを踊るのをライブで見てみたいと思う人もいると思うんです。
眉村:監督がかわいく撮る才能がすごくおありで(笑)。ライブを見る側の思いって……例えば安室(奈美恵)ちゃんのオタクがテレビに出てたのを見たんですけど、「いつもライブが完璧なのに、歌詞を間違えてるDVDがあって、これが宝物なんです」って言ってたんですね。安室ちゃんからしたらきっとそうではないと思うんですよ。

――間違えたわけだから。
眉村:でも、ファンはそういうレア感が嬉しいんだと思ったときに、自分が見てほしいものとみんなが見たいものは違うんだなと気づいたりして。怒っていた時期の『SAI』ツアーでは、ここのアレンジを超変えるとか、ここの繋ぎが超かっこいいから聴いてよって気持ちでやってたけど、繋ぎ部分の感想ポストが少ない日もあるし、変えたところに気づいてもらってない日もあったり(笑)。でも、MCでふざけてる動画に、「ちちゃんかわいい」とかってたくさんいいねがついたりしてるんですよ。その時はなんでだろうって思ってたけど、次第に、まぁ、人によるかって。
――人による。最強の結論ですよね(笑)。そこを人に委ねた上で、総合力を高めていくかどうかですよね。
眉村:だから私、5万円のアイロンを買っちゃいました。
――えー!
眉村:髪の毛をサラサラにするとかわいいと気づいて(笑)。プー・ルイに一番いいアイロンを教えてもらいました。そうしたら、なんかかわいくなったね、みたいに言われることが増えて。おっしゃ総合力1上がり、みたいな。スタジアムとかドームとかでやってる人はみんな超綺麗に輝いてますからね。そういうところからの影響はデカいのかもと思うようになりました。だから、喋る言葉も考えるようになりましたし。それはラジオをやるようになって変わったところでもありますけど。
