INTERVIEW : kein(玲央、眞呼)
keinが現代の世に放つ、メジャーデビューEP『PARADOXON DOLORIS』。独自性を極め、伝説的な存在感を持つkeinが2022年に復活を果たし、2023年にリリースされた1st フルアルバム『破戒と想像』から約 1年3ヶ月ぶりに作り上げたのは、メジャーと言うフィールドから解き放つ完全新作だ。この奇跡のような事態は、実に衝撃的でもある。実際に重厚感を持った今作に詰め込まれていたものは、人間や時代の業に目を向けたセンシティブな言葉と音。それは歪ながらも美しく、これぞkeinから純度高く抽出されたものだということを物語っていた。不変なものと、移りゆく時の中で変化をみせるもの。眞呼と玲央が語る“現在”、そして今のkeinが生み出したメジャーデビューEP『PARADOXON DOLORIS』とは?
インタビュー&文 : 平井綾子
常に異端でありたい、違和感を与えたい
――メジャーデビューEP『PARADOXON DOLORIS』制作の足掛かりとなったのは、どういったことだったのでしょうか?
玲央(Gt):まず、keinは2000年に一度解散しているんですけど、それ以前にあった既存曲を新録して昨年8月にフルアルバム『破戒と想像』という形でリリースしまして、一先ず再始動から一区切りついたところで翌年の動きを考えたときに、「年末に東名阪ぐらいでライブをやりたいよね」という話が持ち上がったんですよ。代り映えしないセットリストだとファンも退屈しちゃうと思ったんで、今年になって「5~6曲の作品を作ろうか」なんていう話をしながら、時期でいうと7月ぐらいに曲出しの締め切りを設けて、「どんな形でもいいんで、原曲を出してください」とメンバーにお願いしたんです。そうしたらみんな、ボコボコ出してくれたんですよ(笑)。
――おお!それは昨年のフルアルバム制作、言わばこれまでのkeinの楽曲に再度向き合う形でもあったかと思うのですが、そういった過程が大きく作用したといったところでしょうか。
玲央:そうですね。keinはフルアルバムを出したことがないバンドだったんで、フルアルバムを作ったことで「次にkeinで作品を作るんだったら、こういうものを作りたい」っていう意欲がたぶん各々の中にあったんだと思うんですよ。だから締め切りに間に合わせるために曲を作ったというよりも、「今だったらこういうことをやりたい」っていうものが自然発生的にどんどん出てきて、その中から選んだ楽曲が今回の『PARADOXON DOLORIS』には収録されているという形ですね。
――ちなみに、何曲くらい候補があったんですか?
玲央:10曲近くはあったかな。その中から5曲の枠にピースをはめていったんですけど、ちょうど選曲会が終わった後のスタジオで「こういう曲調の曲がもう1曲あったらいいな」っていう話をしていたんです。ただ、そのポジションになる原曲が今の候補の中にはないねっていう話をしていたときに、aieさん(Gt)が時計を見て「まだ2時間あるから、今から作りましょう。大丈夫です、いけます!」ってギターを弾き出して、そこにリズム隊が乗っかって、眞呼さん(Vo)もその場で仮歌を歌って。僕も負けじとaieさんを見ながらギターを考えながら弾いて、もうそこで8~9割決まったものを原曲に作っていったものが“Spiral”なんです。
――MVも収録されている、今回のリード曲ですね。
玲央:「MVはどの曲にする?」ってなったときに、一番今のkein、今のメンバーで作ったっていうのが反映されているのが“Spiral”だからっていう理由で選んだっていうのもありますね。だいぶアナログで、DTMが普及する前の作り方をしているんですけど、だからこそおもしろいよねと思って。
――曲の成り立ちを伺っているだけでも、バンドの臨場感が伝わってきました。
玲央:曲の作り方に関しても今やいろんなやり方がある中で〈これが絶対〉というのもないと思いますし、僕らよりも下の世代の人たちが自分たちに合うやり方を見つけてくれたらいいと思うんです。むしろ、年齢的にも僕たちはそれを伝えていかなきゃいけない世代だとも思っているので、そういった責任感や使命感を感じている中で今回はあえて最近流行りの作り方と真逆の方向に全振りしてみようと思ったのもありますね。
――そのようにして完成した“Spiral”は、一つひとつ音が重なっていく幕開けからソリッドさも内包した1曲になっていますね。
玲央:各々の良さがすごく詰まっているなというのが一点と、これぐらいのテンポ感でヘヴィーな質感の楽曲をここ最近やっているバンドがあまりいないよなって思うんですよ。基本、僕らって人がやっていることをやりたくないんですよね。〈kein〉というバンド名自体がドイツ語で否定的な意味がある通り、「今、これが流行ってるんだ。じゃあ、絶対やらないでおこう」っていう(笑)。すごくシンプルに言えば、カテゴライズされたくないんです。もう、常に異端でありたい……異端というよりも、もっと違和感を与えたいというか。そういう部分に、“Spiral”は見事にハマっているんじゃないかなと。
――眞呼さんは、“Spiral”に関してはどういった印象を持たれましたか?
眞呼:元気があるというか。急にスピードが上がったりするので、それに合わせて歌詞も含めてダイレクトに言いたいことをハメられたかな。これは復讐の話ではあるんですけど、人間は被害者でもあるし加害者でもある。倫理とか、罪状や規律に関しても、被害者だった側が加害者になり得る状況も含めているので。