不純物の少ない海水をすくっている感じ
──谷さんは音楽以外にも漫画などにも詳しいじゃないですか。意図して取り入れようとしているんですか。それとも単純に好きなんですか。
谷:まず好きじゃないものはインプットできないですね。それに音楽でも漫画でも小説でもインプットできる時期とできない時期があります。だからその塩梅はコントロールして、インプットの時期とアウトプットの時期は完全に分かれています。そこのバランスを見失うとスランプに陥る気がしますし。
──その時期はどう分けているんですか?
谷:分けるというか、自然に移り変わりがきますね。バカみたいにインプットする時期がくるんです。そこからインスピレーションが湧いてきて、また作ってみたいな。さっきの出原の理論が僕にも当てはまっていて、触れていない作品にとやかく言うのは違うと思うんです。僕も今まで、タイトルやジャケだけみて触れてこなかった作品がたくさんあったんですよね。でも後から聴いたらめっちゃかっこよかったこともありますし、食わず嫌いは単純に損だなと思います。
──結構インプットの幅も広いですよね。 TwitterでTWICEやNewJeansの楽曲を購入したつぶやきも見ました。
谷:K-POPやアイドルソングも全然聴いてこなかったんですよ。でも聴いてみたらやっぱり良いんですよね。だから良いものには良いと、ちゃんと言えるようになりたいんですよ。良いものに対してちゃんと声を上げないと、カルチャーは縮小しちゃうと思います。それに、好きなものを発信していればいいこともあるんです。だから良いことがあればすぐTwitterに書いてすぐ共有しちゃいますね。
──ネットは見る方ですか?
谷:結構チェックしてますね。僕は元々2ちゃんねるやニコニコ動画みたいなネットカルチャーが愛おしくて好きだったんですよ。いまでも「オモコロ」とかもめっちゃ好きですし(笑)。割とセンシティブなお笑いが好きなんですよね。
──最近気になっているものはありますか?
谷:最近は金属バットのYouTubeチャンネルをずっと見ています。
──金属バットのネタはブラックなものや皮肉を含むものも多いですよね。個人的に、最近はそういうネタをやり辛くなっているなというのを感じていまして。
谷:彼らのネタのようなものを笑えない状況の方が笑えないと思うんですよね。むやみやたらに傷付けるのはよくないですけど、エンターテイメントとして捉えることができないくらい余裕がないんだなと思うと、悲しい世の中だなと思いますね。
──話は変わりますが、5月10日にはメジャー・ファーストEP 『Mix Wave』がリリースされました。タイトルにはどんな意味を込めたんですか?
谷:既存の3曲と新曲4曲を収録しているんですけど、並べたときにバラバラだったので、最初に「ミックステープ」という言葉が浮かんだんです。それから海にひっかけて『Mix Wave』にしました。新曲はそれぞれリード曲のバンド内コンペをして、出揃った曲たちです。
──今作に収録されている新曲は、これまで先行リリースされていたものよりも、さらに自由な印象を受けました。
谷:昨年リリースした“フーリッシュサマー”、“Left Alone feat. 土岐麻子”、“Miragesong”は東京でレコーディングしたので「東京三部作」って呼んでいるんですけど、今回の新曲は福岡のSTSスタジオで録ったんです。ゆったりした空気でレコーディングしたことが結果的によかったのかもしれないです。でも「東京三部作」を経たことで、足並みが揃って余裕が生まれた気がします。これを続けていけば、バンドとしてもどんどん強くなっていくと思います。
──各曲についても、訊きたいです。まず1曲目の“bubbles”は、まさにDeep Sea Diving Clubらしい印象でした。
谷:“bubbles”はベースの鳥飼さんが書いた曲なんですけど、同じく鳥飼さん作詞の“フーリッシュサマー”では僕が言いそうなことを書いているなと感じたんです。でもこの曲は逆で、僕が言いそうにない言葉を散りばめているなと個人的に感じました。鳥飼さんが作詞家としての人格を得たのかなと思います。でもこの曲が「バンドっぽい」と言われるのが嬉しくて、聴いてもらえる人にそう感じてもらえるのは、いろんなエッセンスが1つになったからだと思っていますね。
──歌詞も「Deep Sea Diving Club」というバンド名を表しているように思いました。
谷:そうですね。この曲はリード曲コンペの最終まで残っていて、僕は“bubbles”を推してたんですよ。最終的に“ゴースト”になったんですけど、バンドのテーマソングみたいだし、EPの最初はこれかなと。鳥飼さんの歌詞がロマンチックなんですよね。まあ、鳥飼さん本人そんな感じじゃないんですけど(笑)。耳障りも良いですし、不純物の少ない海水をすくっている感じですね。
