INTERVIEW 3 : 辻友貴(cinema staff)

辻友貴(cinema staff)
ギターロックバンド、cinema staffのギター兼リーダー。
バンド活動を行う傍ら、東京・新代田にて立ち飲み居酒屋「えるえふる」の経営、及び、インディーズ・レーベル「Like a Fool Records」の事業を行う。
──cinema staffとしては、メジャーに行く前は、メジャーを目指して活動されていたんですか?
やってみないとわからないっていう精神だったので、行きたかったです。地方出身なので、東京にも行ってみたいと思っていましたし。それがメンバーの総意でもありました。
──メジャーに進出してポニーキャニオンに所属してからは、インディーズとメジャーのギャップや違いを感じることはありましたか?
感じましたね。制作費の規模感が、1個上がる感じがありました。いわゆる宣伝周りも、テレビやラジオの出演や取材も増えたんですけど、とりあえずやれるものはやっていこうっていうスタイルで最初はやっていました。でも、途中から「こんなに忙しいのに、この仕事って意味あるのかな?」という気持ちにぶち当たってしまった。そこで言われたことを全部やるのは意味がないなって思ってしまったんですよね。結局僕らは、メジャーというものがどういうものか全然わかってなかったんですよね。とりあえず飲み込まれちゃったみたいな感じでした。
──なるほど。
ただ、うちらの場合、ポニーキャニオンの担当の方がめちゃくちゃ趣味が合う方だったんですよ。例えば、「スティーヴ・アルビニみたいな音像にしたい」っていったら「それ、良いね!」って言ってくれるみたいな。途中からは、その人がいるからメジャーでやっている感じでした。メジャーって2年ぐらいで担当が代わっていくのが通例だと思うんですけど、その人がずっと就いていてくれたんですよね。結局は、メジャー、インディーズというより、どんな人と一緒にやるかが大事だなって感じていますね。
──メジャーで活動していくなかで苦労されたことはありますか?
うちらのなかで完結できないことですかね。どうしてもいろんな人の意見が入ってしまって、予算が合わなくて妥協案みたいな形になったこともありましたし。僕らの場合は、長くメジャーにいさせてもらったおかげで、「じゃあこうしていこう」っていう提案が僕らの側からもできたんですよ。普通の契約だったら、2、3年で終了してしまうので、上手くいかなかったと思います。そこは僕らが完全に運がよかったところですね。
──立ち飲み居酒屋「えるえふる」をスタートさせたのは、いつころですか?
2015年ですね。
──ということは、メジャーに在籍しながらお店の経営をはじめられたんですね。
そうですね。僕以外も、ドラマーはYouTubeだったり、ベースは楽曲提供だったり、ボーカルは弾き語りをしたり、それぞれ自分のこともやれる環境を作りはじめました。バンドメンバーもそれぞれ30代になってくると「この給料でこのまま続けることは無理じゃない?」みたいな話にもなってきて。cinema staffだけで行くよりは、自分たちがやりたいことをそれぞれやってみて、それをバンドに持ち寄っていく流れができたらいいなって。
──メジャーのフィールドでそういう活動をするのは、すごく珍しい話のような気がします。
それもメジャーの担当の方がバランスを考えてくれてたんですよね。うちらが、こういう性格だっていうのもわかっていて「こういうことはやりたくないよね」みたいなことを判断してくれることもありましたし。うちらの場合は、メジャー側から「これをしてください」っていうものに対して、「嫌です」って突っぱねたことも結構あるんですよ。本当はそのレーンに乗っていたらもっと売れたのかもしれないですし、「それをやらなかったから売れなかったんだよ」って言われるかもしれないですけど、もし、そういうやりたくないことばかりやっていたら、バンド自体がバランスを崩してしまったと思うんですよ。だから、「あれをやらなくていま続けててよかったな」って思えています。ただ、そういうのを上手くやれる人もいっぱいいるし、それはアーティストによるのかなと。
──cinema staffにおいては、メジャーにいた時といない時の生活スタイルに変化はありますか?
そうですね。再度インディーズで活動をはじめたのが、ちょうどコロナ禍のタイミングでもあったんですよ。最初はコロナもあって落ち込んではいましたけど、cinema staffを1回リセットする期間にもなっていた。それぞれ自分のことができて、いまはバンドの状態がすごく良いですね。
──辻さんが現在やられている、Like a Fool Recordsのレーベル事業は、インディーズのアーティストをプッシュする活動じゃないですか。それをやろうと思ったのはなぜなんでしょう?
僕自身、もともとレコード屋をやりたいっていうのはずっと思っていたんですよ。バンドをやりはじめて、アーティストとしての目標とは別に、レコ屋をやりたいっていう願望ができたんです。もちろん、ずっとレコ屋やレーベルをやってる人のほうが知識もあるし、そこには絶対に勝てないことはわかってはいるんです。でも、僕みたいにアーティストとしてメジャーで活動していた経験があって、インディーズ・レーベルをやっている人ってそんなにいないのかなって気づいたんですよ。それだったら、ほかと違ったおもしろいことができそうだなと思ってはじめた感じですね。
──辻さんにとって、メジャーとインディーズの違いってなんだと思いますか?
メジャーは僕らが考えようもないところにアプローチしてくれる場所ではあると思うんです。もちろん僕らがやらせていただいたTVアニメ「進撃の巨人」のタイアップの話も本当にそうですし。そういうことをやって、新しい層に聴かれていく感じは、他とは違う快感がありました。実際、うちらも田舎からでてきて、「進撃の巨人のエンディングテーマやったんだよ」って言ったら、単純に親がすごく喜んでくれたんですよ。正直、やる前はそういうことはどうでもよかったんですけど、年を取ると親が喜んでくれるのは単純に嬉しい。実際にそういうことは、やらなかったらわからなかったことだと思います。
──現在感じている、インディーズで活動する良さはどの部分にありますか?
僕らの場合は、長く活動した分周りにデザイナーやカメラマン、スタイリスト、さらにいま僕らはTHISTIME RECORDSってインディー・レーベルと一緒にやらせてもらっているのですが、一緒にやる前からお互いの事知っていてお互い得意な分野を共有して話し合って活動できていて、その仲間と作品を作り上げれるのがすごく良いですね。メジャーだと、向こうで用意された人と一緒にやることも多いので、それはできなかったことかもしれないです。でもいまはメジャーでも、そういうのもOKなところもある感じがしているんですよ。メジャーとインディーの境目ってなくなってきてるじゃないですか。そこのバランスが広がりすぎて、それはそれでまた難しくなってるんだろうなとは思います。
──逆に、インディーズで活動する難しさはどう感じていますか。
僕らの頭のなかで考えている人にしか届かないところですかね。僕らの場合は、SNSが得意なメンバーがいるので、メンバー間で「それだといろんな人に届かないよ」って言ってくれたりするんですよ。それを、全然関係性ができてない人に言われたら嫌がるかもしれないですけど、メンバーだからこそ、そういうことを言われてもできるところはありますね。メンバーなら納得がいくというか。
──なるほど。これからメジャー進出の声がかかっているアーティストがいたら、辻さんならばどういうアドバイスをしますか?
「1回行ってみれば?」って言いますね。そこでダメだったらもう1回やればいいので。でも、あんまり期待しすぎるとしんどいと思います。正直、うちらは最初期待し過ぎちゃっていたんですよ。メジャーに行って売れると思っていたら、全然枚数変わらないぐらいの感じだったし。だから、そんなにメジャーに期待せずにやってみるのがいいのかなと思います。
