「立ち位置」とおっしゃいましたけど、みんなそれがほしくて仕方なかったんだと思うんですよ
──今回の新曲「Gate」はどうやって制作が始まりました?
オキタ:ヒップホップのサンプリングっぽいビートの曲をやりたかったんですけど、頭の中に鳴っている音をLPとかサンプルパックから探すのはだるかったので、自分でピアノを弾いて「このくらいのBPMだからその倍で弾いて、引き伸ばしてみよう」とか。そこに歌を乗せて、それもサンプリングしてみたいな感じで作りました。
──ヤマダさんはお聴きになったときどうでした?
ヤマダ:オキタが「ヒップホップのビート」と言っていたじゃないですか。ビートに寄せてベースを作ったんですけど、もともと考えていたアイデアよりは、メタルコアに寄ったのかなと思いますね。もっとヒップホップよりシャッフルしたベースラインを考えていたんですけど、なんか違うなって。だんだん真ん中ぐらいによって来たのかなって。
オキタ:音数をかなり削いだよね。
ヤマダ:そうだね。
──小室さんはデモが届いたときいかがでしたか?
小室:苦戦するんだろうなと思いましたね。ずっとドラムのビートが元から入っていたので、それと同じことをやるだけだったら叩かなくてもいいし、逆にドラムを入れ過ぎちゃうと邪魔になっちゃうので、どういうアプローチで攻めるかだいぶ悩みました。激しいセクションはすぐできたんですけど、それ以外はレコーディング前日まで頭を悩ませました。
オキタ:デモの段階で打ち込みのサンプリングやシンベが入っていたので、なくてもいい要素を入れて、さらにブラッシュアップするのってかなり難しいと思うんですよ。苦戦してましたけど、とはいえ凝った甲斐があったなと思いましたね。
──今回はすべてポエトリーのみの歌唱ですけど、歌メロがない曲は「skepticism」とか「reflection」以来じゃないですか。
オキタ:そうですね。「Gate」はしっかり強度のあるラップ曲を作りたかったので、結果歌わなくて良かったなと思います。「サウンドプロダクション」と言ったら大袈裟ですけど、どういう曲を作るかをいままでよりも明瞭に聴こえるように考えて作りました。それこそヘヴィー・ミュージックとブーンバップっていうのを意識したかな。
──改めてどんなことを歌った曲なんですか?
オキタ:世間の動きを見ていて、去年は「混乱」と「分断」の年だったなと思うんです。それが浮き彫りになったというんですかね。みんなの行動範囲が極端に狭くなったがゆえに、自分の生活圏内じゃない範囲の情報を次々に取り入れるようになって。結果として自分の観測範囲ではないものへの言及だったり、それへの心の揺れ浮きだったり。そういうものにみんな混乱と疲弊をしてて。ろくでもないというか醜いものもいっぱいありましたし。去年の12月にソロ名義で出したEP『Blindness』でも同じようなことを言ったんですけど、自分を持つことがどれだけ大切かを、改めて自分でも痛感したのでそういうことを示唆的に書いた曲ですね。
──痛感したっていうことは、オキタさんも混乱と疲弊をしていたんですか。
オキタ:周りを見て痛感しました。とにかくみんな何かと繋がりたがっていて、何かを作るというよりか何か新しいものを取り込みたがっていて。そういう意味で自分の中のものを1つ言葉にするであったり、自分の中にあるものを知るみたいな作業っていうのを、みんな思ったよりも意外としないんだなと痛感しました。
──コロナになり、他者と分断したことで自分の立ち位置が分からなくなった人は多いと思うんですよね。
オキタ:「立ち位置」とおっしゃいましたけど、みんなそれがほしくて仕方なかったんだと思うんですよね。本当はそのままでも、自分は存在しているわけじゃないですか。社会的な立ち位置とかSNSでの立ち位置をみんな後付けで作りたがるというか。ただ、そんなものは本質じゃない。何か持ってきて自分がそれを身にまとうなら、自分の中にあるものをそのまま表現するなり相手の中にあるものを知る努力をするなり、そういうのが欠けていたがゆえの2020年だった。そういう風刺みたいなところも今回の曲に入っているのかなと思います。
──一番耳に残るパートに「たった数分間の純文学」というリリックを入れてますけど、「純文学」という言葉に込めた意味は何ですか。
オキタ:大衆性からのカウンターみたいな意味があります。今、ラップってめちゃめちゃ溢れているんですよ。その中で、リリックってどんどんおざなりになっていく1つなんですよね。僕は“読める歌詞”を作りたい人なので、歌詞だけ読んでも面白味があるというか。そういう自分のスタンスっていうのをある種明確に打ち立てたかった。そういう意味で「純文学」という言葉を選びましたね。
──オキタさんは、大衆音楽をやりたいと思います?
オキタ:結果として、大衆的な見え方をしていれば良いかなと思います。僕らはカウンター的なマインドをどうしても捨てられない。ただ、それがメインストリームの外で勝手にやっているものっていうよりは、圧倒的に突き詰めた結果として大衆性の先にあるというか。自分たちの背中も見えるぜ、みたいな音楽を作りたい気持ちがありますね。
──バンドとして目指すべきビジョンってあります?
オキタ:誰にもできないことを続けていきたいと思っていて。その結果として、会場の規模だったり知名度が付いてきたら嬉しいですけど、なにより自分たちがこだわった音楽を作り続けるつもりなので。それをやるからには、明確に大勢の人に届いたら良いなと思いますね。
ヤマダ:社会問題に対して歌詞で言及することをいままでやってこなかったんですよ。それをちゃんと歌詞にするのは、すごいかっこいいなと思いましたね。今やらなきゃいけないことだし。最近の音楽の傾向としても、社会問題を取り上げる流れがあるじゃないですか。そういう意味でも時代性を捉えているし、ちゃんとすごい音楽になっているし、かっこいいなって。
──ちなみに先日MVが公開されましたけど、あれってどういうストーリーなんですか。
オキタ:監督の南虎我さん曰く、舞台は地球で白い服を着た人たちは白血球を表していて、女優の前田悠雅さんが赤い服を着た赤血球。いろんなものに振り回されてしまって必死に抗っている存在に、薬(ピストル)を打つみたいなイメージらしくて。傍観者みたいな視点ではあるんですけど、その中でも気づきを与えるみたいな意味合いもあったのかなと思いますね。
──……赤血球と白血球ですか。今までで一番意味深なMVですよね。
ヤマダ:ちゃんと脚本があるのははじめてだったよね。
オキタ:すごく良いMVができたなと思っています。何より、音楽的にもリリックでも「Gate」はめちゃくちゃこだわった曲にはなっていて。最初から最後までパンチラインなので、何度でも聴いてもらって自分の中で取り入れて反芻してもらえればなっていうのはありますね。
──今日のインタヴューは以上にしましょうかね?今日はありがとうございました。
オキタ:こちらこそ、ありがとうございました。
──親しみやすい3人でよかったです。
オキタ:アハハハ、良かった。
──他の媒体でも今作のインタビューは受けているんですか?
オキタ:これだけですね。まだあるのかな?
ヤマダ:今回のインタビューはこれだけじゃない?
オキタ:そっか。じゃあ独占インタビューです!
──独占ならば冒頭がアレで良かったのかと反省してますよ。「étéの3人は笑い話するんですか?」って。
オキタ:アハハハ。しかし普段の会話って本当に中身ないよね。
小室:コンビニでさ……(笑)。
オキタ:(思い出して)アハハハ!ツアー先でコンビニに寄ったら、響がタタタって駆け寄ってきて「見てみて!」言いながら、手に持った豆腐をプルプル揺らしてました。
小室:オキタは笑うだろうなって。
オキタ:あれは超面白かった。あとはスーパー銭湯にいるおじさんのモノマネね。
小室:(声真似をして)「ウ゛〜ぁ!」。
──絶対に伝わらないけど書いておきます。とにかくステージの印象とは全然違いますね。
オキタ:こんなところ見せないですよ。
──楽曲やステージの上でも、オキタさんは怒っていることが多いですからね。
オキタ:逆に、みんなは音楽でも色んな表現の上でも怒りを表に出さないんですよ。別に黙っていることないのにって思います。ムカついたら「俺はキレてる」と言えば良い。僕らはそうしてますね。
──なんか「これは言っちゃいけない」みたいな風潮がありますよね。
オキタ:最近の音楽は「連帯感を出していこう」みたいな流れを感じますね。あとは誹謗中傷が大きな波紋を呼んだこともあって、それとは関係ない言及もアーティストは遠慮し始めてる。それはそれで良いけど、思ったことがあるなら言えばいいし、それが最終的に自分の中での自分を身につけることにも繋がってくると思うんで。……ね?
ヤマダ:なんで俺に振るんだよ(笑)。
オキタ:だって最後に真面目な話をしちゃったから(照笑)。

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PROFILE
東京在住、オキタユウキ、ヤマダナオト、小室響による3ピース、été。自分は何者なんだろう。彼らもまた、そんな普遍の問いを音にするバンドだ。自分の影を探すように街をさまよい、その足音はビートになって、研ぎ澄まされていく五感とあふれ出る感情が絡まって詩となり、歌となって発せられる。音楽で救われるとは思っていない。けれど、自分自身の“ほんとう”や、まだ知らない自分を映す鏡になってくれることは、信じている。だからこそ、ひとつの形にとらわれないオルタナティヴなサウンドで、その旋律は歪にして美しく、またメロディとポエトリーリーディングを気ままに行き来しながら紡がれる。聴く者の耳に鋭く飛び込むオキタユウキの中性的なヴォーカルもあり、3人の音楽はとても痛切で、エゴイスティックにも響くけれど、気づけばその不規則な呼吸に共振していることに気づくだろう。ここにはきっと、今をさまようあなたやわたしの姿も映っている。
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