僕の書いてる曲は、要約したら「孤独」と「暴力性」かもしれないですね

──そんな3人が組んでいるétéに対する世間のイメージって「心の痛みや生きる葛藤を歌う人たち」だと思うんですよ。こういうフランクな一面を感じないというか。
オキタ:うんうん。
──改めて、バンドの立ち位置ってどうだと思います?
小室:難しいことをやっているバンドだと思われているだろうし、独創的だとも思われているだろうなって。
オキタ:そうだね。難しいことをやっているっていうのは、テクニック的な面もそうなんですけど、誰かが切り開いたところを進んでないみたいな意味でも、難しいことをやってそうだな、みたいな。ある種、少し距離を取られて見られてはいるかなとは思いますね。
──どういう3人だと思われているんでしょうね。
オキタ:「めっちゃ我の強い僕とそれを支えているイカしたメンバー」みたいな感じじゃないですかね(笑)。
──アハハハ、なんか分かる。
オキタ:ふふふ。多分、外から見たらそんな感じだと思います。
──バンド界隈ではどうなんでしょう。
小室:インストバンドとかテクニカル系のバンドよりも、ストレートな邦ロックバンドの人たちの方が聴いてくれてるよね。難しいことをやっててもそう聴こえさせてないのもあるし、歌に重きを置いてアレンジとかもしているっていうのもあって。ストレートな歌もの界隈のバンドに見られている気がする。
オキタ:そうだね。あと最近は、僕らが知らないところでヘヴィ・メタルとかハード・コア界隈の人達に聴かれているなって思いますね。出会う先々でそっち系の子に声をかけてもらったり、ライヴに呼んでもらったりとかもあります。
──バンドの方向性が確立したのは、2017年に発表した「眠れる街の中で」が大きいですか?
オキタ:そうですね。あれが初めてポエトリーリーディング・メインのちゃんとした尺の曲というか。「こういうことをやっているぜ」みたいな起点となったのは「眠れる街の中で」ですね。
──ブランディングって何か意識されてます?
ヤマダ:演奏面もアレンジもなんでもできるんだなっていう風には見られたいですね。実際にできている自負がありますし。
オキタ:ブランディングという訳じゃないですけど、僕らは作品ごとの音楽性の幅が結構広くて。その中でも今作で言えば「ヘヴィーミュージック×ヒップホップ」というのをひとつ主軸にしました。まあ……今、ヒップホップはだいぶ市民権を得ていますけど、それでも聴かない人は聴かないというか。聴きづらい音楽でもあるじゃないですか。ある種カウンターである音楽にリスペクトを持った上で、僕らなりにもっとアップデートしていけたらと思っています。そういう意味でも何か1つのジャンルを絞らない“トーキョーニュースクール”という言い方をして、「僕らが更新するぜ」みたいなことを1つの指標として打ち出してます。
──歌っている根本で言うと?
オキタ:自分の中で思っていることをしっかり掘り下げて描くみたいな。そうしているうちに他者との溝だったり関わりだったり、っていうのが浮き彫りになってくるみたいなイメージです。あとは何より、正しい日本語と美しい表現で自分のことを描くのが1つの根本ですね。
──んー、もっと具体的に聞きたいんですよ。例えば、スピッツの草野マサムネさんは「歌やポエムの永遠のテーマは、セックスとデス(死)」と言ってて。
オキタ:ああ、言ってましたね。
──オキタさんが書く曲は、言葉にすると何のことを歌っているのかなって。
オキタ:言い切るとしたらってことですよね?難しいな……要約したら「孤独」と「暴力性」かもしれないですね。言葉にできないことを、どうにか言語化するのを根底に置いてて。言葉にできないことって、どうしようもなくなったら「ア゛ーー!!」ってなるしかないと思うんですよ。
──感情の雄叫びというかね。
オキタ:そういうものを言葉にする。ある意味の暴力性と言葉にならないような孤独だったり、そういう抽象的な概念みたいなのを言葉にしようとしている。だからこそ「孤独」と「暴力性」の2つかなと思います。
──その孤独っていつから抱えているんですか?
オキタ:いつ認識したのかは定かではないんですけど、ずっと抱えていますね。基本的に他者とは分かり合えないと思っているので。言葉では足りないし、言葉以上のものはない。そういう意味で「絶対に通じ合えないし、触れ合えない」部分があった上で、それに対して自分はどう思うかみたいな。そうやって孤独を掘り下げて曲にしてますね。
──その作業ってメンタル的にキツイですか?
オキタ:僕は慎重に言葉を選ぶタイプなので、書いては消してを繰り返しながら推敲して、時間をかけて歌詞を書く。そういう意味でメンタル的に疲れるのはありますね。
──自分の作った音楽が誰かの心に届いたとき、その思いは浄化されますか。
オキタ:んー……僕は他の人のことを考えて歌詞を書いていないんですよ。自分の為に書いた曲で「救われた」と言ってくれる人もいますし、「心の中を言い当てられたような気持になった」と言う人もいて。そういう反応は面白いなと思いますね。ただ、それで僕の心が報われたというよりか、曲は書き終えた時点で、その感情に折り合いをつけている。誰かがリアクションしてくれたことで、自分の気持ちまで浄化されることはないですね。
──うんうん。
オキタ:なんか……ずっと怒ってますし(笑)。
──その言葉は楽曲から受けるイメージ通りで嬉しいというか。そこで満たされないのが、オキタユウキらしいというか。
オキタ:ハハハハ、ありがとうございます。
──2人はオキタさんの書く曲について、何か変化は感じます?
ヤマダ:初期と比べてみれば、サウンドはすごい変わったと思います。だけど歌ってる内容はそこまで変わってないかな。やっぱり内容は一貫してるなって思いますね。
小室:僕がétéに入った当初に比べて、変拍子が減ってきた気がしますね。言葉を伝えやすくするためもあると思うし、曲自体が聴きやすくなったかな。
オキタ:そうだね。伝え方が上手になったから、変拍子がいらなくなったのもある。
──作曲スキルが向上すると、難しいことをやろうとするものじゃないんですか?
オキタ:難しい曲ってずっと聴いていると、ちょっとした違和感が積み重なってストレスになるんです。確かに1曲の中で拍子がどんどん変わる曲は作っていたんですけど、別に難しいことを見せつけたいわけではなくて、楽曲全体としての良さみたいなのを伝えたいので。聴いている上でのストレスみたいなものはなるべく減らそうとはしていますね。
──作り方が変化してきたのは、どのあたりが境だと思います?
オキタ:もっと外に向けるというか、キャッチーでストレスがない曲を意識するようになったのは『Apathy』からですね。
──オキタさんの中で、作った曲を一番届けたい人は誰ですか。
オキタ:そういう意味では、ずっと自分に向けて曲を作っているところはあります。明確に誰かに届けたい相手、いま苦しんでいる人たちだったり、そういうマインドはたまたま持ち合わせてないですね。
──ヤマダさんは、音を奏でる上で何が根幹にあります?
ヤマダ:昔からポップスが好きなので、その影響は強いです。2人から「そのフレーズは、ちょいダサだよね」と言われるんですけど、それを楽しみながら織り交ぜてます。このバンドじゃないとできないと思うんですよ。普通のポップスバンドがそういうフレーズを弾いたら、普通のポップスのフレーズなんですけど、こういうバンドで弾くとなんかおもしろいみたいな。音楽用語的には「ペンタトニック・スケール」のフレーズとかを提案するのがおもしろいですね。
オキタ:ちょいダサって僕ら的に言うと、軽音部の中高生だった頃に弾いていて楽しいみたいなフレーズ(笑)。一小節二小節で完結する、すごく分かりやすいフレーズを毎回入れてきますね。
──小室さんはドラムを叩く上で、表現の根底にあるものってなんですか。
小室:「歌ものでこんなにやるの?」 みたいなことだったり、他のドラマーがやっていないような新しいことを常に考えてフレーズを作ってますね。ただビート叩いてるだけで、同じようなフレーズを叩いている人は結構いるんですけど……それで楽しいのかな?って思っちゃう。同じサビでも僕はフレーズを変えるので、あんまり周りがやっていないことをやりたい気持ちは常にありますね。やっぱりドラマーにモテたいっていうのが、僕は第一にあるので(笑)。
オキタ:手数が多いドラマーって、フュージュンみたいな音楽を通っている人が多いんです。だけど響はそういうノリじゃないというか、シンプルに派手なんですよね。だから伝わりやすいんだと思います。
──小室さんのドラミングって、なかなかできないことなんですか。
オキタ:そうですね。そもそも結構大変なので、普通はやりたがらないと思います。響自身もめっちゃ苦戦しているんですけど、簡略化したがらないんで。
小室:Mなのかもね。苦しいのが気持ち良いみたいなところがあるもん。
──自分の中でかっこいいものって、その基準を作ってくれた誰かがいると思うんですけど。「かっこいいもの」「かっこよくないもの」の物差しになったドラマーっています?
小室:音楽をはじめた頃に聴いていたのはX JAPANですね。でも、ああなりたいっていうマインドは全くなくて。自分が誰に影響されたとか、あんまり考えたことはないかな……。
オキタ:僕の打ち込みじゃない?
小室:アハハハ、確かにオキタの打ち込み説ありますね。
──作曲する人によって、打ち込みの癖ってあるんですか。
小室:だいぶありますね!デモが送られてきて「ドラマーのこと分かってないでしょ?」みたいな打ち込みは結構あります。オキタの打ち込みは良い意味で叩いてるイメージができる。
──初めてオキタさんのデモを聴いたときから「これはドラムが分かっている人の打ち込みだ」という感覚はありました?
小室:ありましたね。オキタの打ち込みは結構難しかったので、「これよりは難しくしよう!」とか「打ち込みよりも手数が少ないと負けた気がする」と思いながら常にやってます。それで今のプレイスタイルが構築されたところはあります。
──オキタさんが話してた「デモ以上のアレンジを持ってくる」ってそういうことなんですね。
オキタ:そうですね。そもそも僕が「叩けないような曲は作ってない」と言っちゃうので(笑)。僕の中で叩けないと思うフレーズは「腕が3本ないと無理」とかそういう意味でしかないんですよ(笑)。それ以外は絶対叩けると思って投げているので。
──甘い声でめっちゃスパルタなこと言ってる(笑)。
オキタ:ベースもそうですね。
ヤマダ:これは厳しいよと言ってもーー。
オキタ:いや、イケるから!弾けないフレーズなどない!と言うよね(笑)。
──オキタさんがバンドの中で王様になれるのって、リズム隊2人の演奏力を信頼しているからでしょうね。
オキタ:間違いないです。楽曲のテイストだったり、僕のフレーズをすごい尊重してくれるというか、良い意味で高め合っていけるメンバーだと思っていますね。