展示でも絵でもデザインでも、すべては人との共同作業

横山:これは自分の人生の、特に若いころのテーマであり行動原理なんですけど、「自分は人より劣っているから、早く結果を出さないといけない」と思っていたんですよね。それは不安からきているんだと思いますが。
見汐:コンプレックスによって突き動かされていたということですか?
横山:そうです。そういう人は意外と多いんじゃないかと思います。それをルサンチマンと呼ぶ人もいるし、コンプレックスと呼ぶ人もいますよね。自分の存在を社会に受け入れてもらえないと感じたときに、「祈ってても誰も救ってくれないんだったら、自分で自分を変えるしかない」という命題を作って、それを原動力にして生きていました。
見汐:20代の前半にそういうことを考えていたんですね。早熟だと思います。私が20代の頃なんて、考えるよりもまず動いた先でなにかを見つけて、その見つけたものによって次の段階へ行くことができるという感じで。経験がすべてだと思っていました。フィジカルで感じるもの、ダイナミックであることだけを重視していて、「スタティックな状態……があって、考えを元に行動する」という選択もあるんだと実践しだしたのは30歳過ぎてからです。
横山:早熟というより、自己中なんじゃないかと自分では思っています。自分を救うための行動しか考えてないから。いまはそれに気づけてよかったと思ってます。
見汐:それは方法が違うだけで私もそうですよ。ごちゃごちゃしてるなかをかき分けていくから、余計に人に迷惑かけてます(笑)。
デザインの受注に応えていく中で、思いもよらなかったものが生まれたりすることも仕事として醍醐味のひとつだと思うんですが、個展を開催するとなると、作品を作るのも選ぶのも、ぜんぶ自分ですよね。主体性を伴う制作においても見劣りを感じる?
横山:そこに対する焦りは昔と比べると和らいでいますね。でも、デザインに関しても自分は人よりもできないと思っていたので、もっと本格的なことができるように勉強しないといけないと思ってました。
見汐:そうなると、桑沢(桑沢デザイン研究所)で学んだことが活きてきますね。
横山:もし時間が戻せたら、もっと真面目に取り組みたいですね。こんなにデザインを続けるとは思ってもいなかったので……。過去の自分の行動は、基本的にはポジティヴなストーリーとしての選択ではないのがほとんどだけど、結局自分が生きていくためにはそれを積み重ねていくしかないですね。

見汐:絵を描くこと、デザインすること、アートディレクションや、本の挿絵や装丁など、横山さんはいろいろお仕事されていますが、それぞれに違っているんでしょうか?
横山:これが、意外と一緒なんです。
見汐:根幹は一緒で、枝葉が違う感じでしょうか。優劣はなく、平たく同じなんですかね。
横山:そうですね。展示でも絵でもデザインでも、すべては人との共同作業だと思っているんです。展示だったらその場所の人、デザインだったら編集の人、絵だったら依頼してくれた人との関係だったりするわけで。そこでのやりとりにおいて、お互いが心地よくいれているかとか、複数人いる場合は取り残されている人がいないかとか、気にするようにしています。最近は、複数人での仕事を“飲み屋のカウンター”のようだなと思っていて。飲み屋ではたまたまそこに居合わせた人たちだけど、誰かがその場を支配することによって置いてきぼりになる人や話が通らなくなってしまう人がいてはいけないし、みんなが心地いいと思える環境がいちばんいいと思うんですよね。
見汐:以前とは考えかたが変わったんですね。
横山:そう思えるようになったのは最近のことなんですけどね。でも、自分のなかで「大人になったな」と思った瞬間でした。「自分を救う」というテーマはそろそろ思い残すことはないかもしれません。どうせ自分本位で動いても新しい悩みが生まれ続けますし……。
見汐:横山さんの本来の素質のような気もします。私は本当に逆で、周りのことを気にしすぎるあまり、色んな人に話しかけてしまって無駄なお節介が多くて、静かにしていられないんです。同じものを求めていても気配りの仕方で場の空気も相手の仕事へのポテンシャルも変わってくるものだし。例えば一緒に仕事をする場合を考えると、同じ船に乗り合わせたようなものですよね。みんな同じ方向を目指して船を前進させようとするんだけど、オールを漕ぐタイミングがバラバラだとグッと進めないですよね。横山さんは、その船の船頭を担っている人っていう感じがする。
横山:デザインの仕事をやっているとそういう気質になっていくかもしれないですね。自分のもとに回ってきたもの(原稿、写真、絵など)をまとめなきゃいけなくて、クローザーみたいな役割があるから。
見汐:今日、横山さんが自分のなかの内的なものと外的なもののバランスをどうとっているのか伺いたいと思っていたでんです。横山さんから感じる静けさの根源を知りたいなと。一緒にされるのは嫌かもしれませんが、アウトプットが違うだけで共感する部分がたくさんあります。
横山:場を良くしたいという気持ちは同じですよね。