歌唱に生き様が出ていた方が良い
——今回の『産地直送vol.1』に収録されている“Bursty Greedy Spider”についても伺いたいです。こちらのオリジナル・バージョンは鈴木さんが声帯結節の手術で休養する直前にレコーディングをしたんですよね。
“Bursty Greedy Spider”リリース時の鈴木このみのインタヴュー記事
鈴木このみ「Bursty Greedy Spider」MV(TVアニメ「蜘蛛ですが、なにか?」後期OPテーマ)鈴木このみ「Bursty Greedy Spider」MV(TVアニメ「蜘蛛ですが、なにか?」後期OPテーマ)
鈴木:そうですね。リリースは手術後なんですが、レコーディングは直前です。
草野:私も20代の後半に、ポリープの手術をしていたので、このみんから色々聞かれました(笑)。「今日声潰しちゃっても、手術できるからいいか!」というテンションでレコーディングしていましたね(笑)。
鈴木:声カスカスになってもいいやと思っていました(笑)。この曲はタイアップのTVアニメ「蜘蛛ですが、なにか?」的にも、キーワードが「王者の帰還」だったんです。
草野:でも声カスカスにならなかったよね(笑)。長年、結節の状況を考えながら歌ってきたので、そのときのこのみんのかっこいい声は録れたかなと。
鈴木:あのとき録っておけてよかったな、と思います。いまも「あのとき、あの曲で乗り越えたしな」と思えるおまじないになっていますね。この曲は自分の体にすごく合ったスーツなんだなと思うんです。どんな場所、コンディションで歌っても100点とれる曲ってなかなかないじゃないですか。そういう私専用のモビルスーツを作ってくださった感覚です。
草野:このみんはハイトーン出すときのミドルヴォイスのコントロールがすごく上手くて。今回のセルフカバーでも、このみんの発声を参考にして歌いました。今回のアルバムは、提供先のみなさんの歌ってくれた正解をもう一度咀嚼するのが楽しかったです。
鈴木:確かに今回の華余子さんのアルバムを聴いたら、ちょっと泥臭さが増している感じがしました。
草野:実際テンポが上がっているのよ。
鈴木:全体的にドラムが殴りにきていますよね(笑)。ギターサウンドのところがドラム主導になっていて。
草野:本当にそう。このみんの原曲はポップロックで、でも私の方はポップの三文字が消えている感じ。
鈴木:でも華余子さんだからこその歌声だなと。

——ヴォーカリストの鈴木さんから見て、草野さんのヴォーカルはどう映っていますか?
鈴木:人生が滲んでいるなと思います。私は歌唱に生き様が出ていた方が良いと思うし、私自身もそうなりたいと思っているんですが、華余子さんが歩んできた道は本当に大変だったんだなと感じていて。だから明るい人柄なんだなと思うし、歌声を聴いても華余子さんの性格が一発でわかると思っています。
草野:作家としては意外とバリエーションをもっているんですけど、シンガーとしてしっくりくる曲はあまり自分の中で作っていないんじゃないかな。例えば、透明感のあるまっさらなものは本当に歌えないんですよ。でもその反面、このみんみたいに臨機応変にいろんなタイプの曲を歌えるアーティストにも憧れがあるので、結局ないものねだりなんだと思いますね。
——鈴木さんは『産地直送vol.1』の他の収録楽曲で気になったものはありましたか?
鈴木:私は「たゆたえ、七色」が好きですね。華余子さんってこういう歌い方もするんだと思いました。
草野:もともとオペラ上がりだから、弦楽器に対するアプローチが大好きなんだよね。「たゆたえ、七色」は歌っていてもすごく気持ちよかったし、聴いた人が涙を流してくれる可能性があるような曲になりました。
鈴木:水属性っぽい華余子さんの歌声を初めて聴いて。私もこの曲歌いたいと思いました。
草野:絶対似合うと思う!みなさんもカラオケで歌ってみてほしいです。こういう曲はいつでも書くので言ってくださいね(笑)。
鈴木:わーい! あ、そういえば、この対談を受けるとなったときに、華余子さんが「一緒に曲作る券」をくれたんですよ。だから一緒に作るのを楽しみにしています(笑)。
草野:あ、言質を取られた(笑)。
——(笑)。実際書くとしたら、草野さんはどんな曲を書いてみたいですか?
草野:激しめの和メロで華やかなロックみたいな曲は書いてみたいですね。衣装で和風テイストもあるし似合うと思いますよ。逆に、私に頼むとしたら鈴木はどういう曲をお願いしたい?
鈴木:私、華余子さんの「断線」という曲が好きなんですよ。
草野:おお、嬉しい。でも「断線」は、「命の灯火」のチャンネルに近いんだよね。
鈴木:それこそ「たゆたえ、七色」みたいなライヴのキーになる曲も書いてほしいんですけど、最近のことでいうと新生活を始めて、昔の日記を捨てたんですよ。1回執着を捨てたような気持ちになったので、そういう曲を書いてほしいです。
草野:めっちゃ良いテーマをもってくるね。
鈴木:人は誰しも波があると思うんですけど、私の場合は華余子さんに会う前に波が動くんですよ(笑)。気持ちの整理がついたときに、「一緒に曲作る券」を使って一緒に書きたいなって。
草野:日記にはどういうことを書いてたの?
鈴木:人に言えないようなことを書いていた日記だったんですけど、それがすごく燃料になってたんですよね。でも今必要ないなって思った瞬間があって。未来を向いていくタイミングがあったので、これを曲に落とし込みたいなと思います。
草野:もう書けるやん。私は意識的に変えたいタイプではなくて、変わっていってしまうものを引き止めないタイプなんです。このみんは引っ越しはして、日記は捨てて、相当自分が変わりたいと思っているんだろうなと。
鈴木:そうかもしれないです。
草野:でもこういうことを定期的に話せるようになってからこのみんって、タイアップの制限があるとは言いつつ自分の楽曲に精神性を流し込めている気がします。
鈴木:毎回褒めてくれるから、私も何かもっていかないと、と思います(笑)。でも華余子さんは人を育てるのが上手いですよね。
草野:でも自分のことが1番育てられないんだよね。人のことの方がわかる(笑)。
鈴木:華余子さんは何を言っても絶対否定しないんです。私は言葉にするのに躊躇することがあるんですけど、2言目には「いいやん」って言ってくれます。
草野:私は文句言わなくても、全部曲にすればいいと思っていて。本当に思っていることはSNSでもなく、人とのLINEでもなく、音楽に昇華すればいいと思っているんです。そこに書いたものを自分が歌っているときが心の洗濯になっている気がするので。芸術に許されている1番のことは、たとえば殺意だって、懺悔だって曲として表現にしていいことなのかなと思うんです。そこは鈴木に意識的に伝えるようにしています。
鈴木:確かに自分がよくないと思っている自分も、いちばん華余子さんに伝えていると思います。
草野:鈴木がよくないと思っている鈴木も可愛いから、もっと出していっていいのに。こういう部分もインタヴューで話せるようになっているから、だいぶ変化してきているんだと思いますよ。

作家活動10周年を記念したセルフカバーアルバム
LIVE INFORMATION
〈草野華余子presents産地直送プレミアム〜人生四十周年大収穫祭〜〉

日程:2024/02/25(日)15:00開場/15:45開演
会場:SpotifyO-EAST
出演 Artist:草野華余子(BAND)、岸田教団&THE明星ロケッツ、鈴木このみ、uijin、ARCANA PROJECT、アキストゼネコ、ヒグチアイ
草野華余子バンドメンバー:Vo&Gt. 草野華余子、Gt. はやぴ~(岸田教団&THE明星ロケッツ)、Gt. 堀江晶太、Ba. イガラシ(ヒトリエ)、Key. モチヅキヤスノリ、Dr. みっちゃん(岸田教団&THE明星ロケッツ)、Mani. 坂井伽寿馬
詳細はこちら
https://kusanokayoko.com/live/
草野華余子ディスコグラフィー
鈴木このみの過去の記事はこちら
鈴木このみ ディスコグラフィー
PROFILE:草野華余子
大阪府出身・東京都在住。シンガーソングライター/作詞作曲家。
3歳の頃からピアノと声楽を始め、5歳で作曲を始める。中学生の頃に出会ったJ-ROCKシーンのバンドサウンドに衝撃を受け、18歳の関西大学進学を機にバンド活動を始める。2007年より「カヨコ」としてソロ活動を開始し、2019年に本名である「草野華余子」に改名。
自身の活動に加え、そのソングライティング力が認められ、数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲を提供。2019年にリリースされたLiSA「紅蓮華」の作曲を手掛け、一躍注目を集める。以降、西川貴教、A.B.C-Z、FANTASTICSfromEXILETRIBEなど、楽曲提供の幅を広げている。また、卓球愛好家としての一面を持ち、2022-2023シーズンから日本の卓球リーグ・Tリーグのアンセム制作を手掛けてる。
2022年12月には、5thDigitalSingle「最終電車は泣いている」をリリース。シンガーソングライター兼クリエイターという”二足の草鞋型アーティスト”として、より一層の活躍が期待されている。
【公式HP】https://kusanokayoko.com
【X】https://twitter.com/kayoko225
【Instagram】https://www.instagram.com/kayoko_ssw/
PROFILE:鈴木このみ
2011年、第5回全日本アニソングランプリ決勝大会でグランプリを獲得し、翌2012年に「CHOIR JAIL」で15歳でデビュー。
TVアニメ「ノーゲーム・ノーライフ」オープニングテーマ「This game」、TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」のオープニングテーマ「Redo」など多くのTVアニメ主題歌を担当。
2018年4月~放送のTVアニメ「LOST SONG」では、声優田村ゆかりとW主演声優を務め、オープニング主題歌「歌えばそこに君がいるから」も歌唱。
2016年より4年連続Asia Tourも開催。上海、シンセン、香港、台湾、フィリピンにてワンマンライブを行う。
2020年夏クール放送のTVアニメ「デカダンス」のオープニングテーマ「Theater of Life」、TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」2nd seasonオープニングテーマ「Realize」、TVアニメ「恋とプロデューサー~EVOL×LOVE~」のエンディングテーマ「舞い降りてきた雪」のトリプルタイアップを獲得し鈴木このみ初のシングル3ヵ月連続リリースを行う。
【公式HP】https://www.konomi-suzuki.net
【X】https://twitter.com/Suzuki_Konomin