音楽のフェチをいかに満足させられるか
──社会に対する立ち位置が、“地獄 Part2”からも読み取ることができます。
マハラージャン : これは自分でいま感じている何かに対しての描写ですね。あくまでも音楽がカッコイイかどうかがいちばん重要だと思っているので、その上で“地獄 Part2”は結構地獄感が出て良い曲になったと思います。
──軽やかな地獄感ですよね。
マハラージャン : そうなんですよ。まさにいまの世の中の地獄さを捉えながらも、そのなかでしたたかに生きてやろうという。
──どうして“Part2”なんですか。
マハラージャン : “プレイバックpart2”(山口百恵)って、part1もあるって聞きますけど、一般的に知られているのがpart2じゃないですか? その「part2しかない感じ」を僕もやりたかったんです(笑)。
──“行列”は変拍子になっていたり、妙に耳に引っかかる曲です。これはどうやってできた曲ですか。
マハラージャン : これは“セーラ☆ムン太郎”ができる前に出来上がっていて。ドラムが変拍子っぽいので、やってもらうとしたら、石若さんに叩いてもらいたいなと思っていたんです。『セーラ☆ムン太郎』で石若さんに参加してもらうことが叶ったので、次のレコーディングもまたやってもらえるんだったらこの曲をやってみたいなと思ってお願いしました。そしたら、「この曲むずかしい」って言われました(笑)。でも1回そう言って、その後すぐに普通にできちゃうのがすごいんですよね。今回は、石若さんもハマさんも楽しんでやってくれてる感じがあって。前回もそうでしたけど、それが今回は早くできるようになった感じです。
──歌詞はまさに行列していたときの話?
マハラージャン : 着想としては、なんで5分で食べ終わるものに1時間も並ばないといけないんだっていう憤りから始まっていて。そこから派生した世界観になっています。父が、並ぶのが嫌いな人で、子どもの頃から「行列に並ぶなんてバカだ」って言われてたんです。それでもラーメン屋とかに並んでしまうときに、父が言っていたことを思い出して、そういう溜まったものが曲に反映されています。別に並んでいる人をバカにしているわけではなくて、自分も並んでいるときに感じるもやもやしたものを曲で表現しました。

──ここまではバンド・サウンドの曲ですが、“いうぞ”はひとりで作った打ち込み曲。ダフト・パンク好きが出てますね。
マハラージャン : ダフト・パンクであったり、電気グルーヴであったり。そういうフェチをとにかく詰め込んだ、めちゃくちゃ自信作です。これもじつは結構前に作った曲で。でも恥ずかしかったというか、自分がこんな曲をやるの嫌だなって思って置いていたんです。ただ、デモを聴いてもらったら、すごいミュージシャンであればあるほど、すごく褒めてくれるんですよ。だから玄人受けする曲だなと思っていたんですけど、もう1回手を入れてみたら、ものすごくレベルが上がったのを感じて。みんなに聴いてもらいたくてまとめあげました。僕はビンテージのシンセサイザーがすごく好きで、この曲はMinimoogとかProphet-5とかの音が入っています。あと、KORGのチューナーみたいな形の安いシンセがあるんですけど、それがすごく良い仕事をしていて、太い音で効果的に入っていたり。僕のシンセフェチを満足させる曲になっていて、3千円ぐらいのものと50万ぐらいのシンセが同居してます(笑)。値段じゃなくて使い方だなって思いました。
──マハラージャンさんがこの先やっていく音楽を想像する上でもおもしろい曲だと思います。
マハラージャン : こういうテクノのような音楽もまた作りたいなと思います。この曲、バンドでやったらどうなるんだろうなっていう興味があって。それはそれで絶対おもしろいと思うんですよ。
──“いうぞ”は、フルアルバムだと次の曲が“示談”。続けて聴くとなんか怖いです。
マハラージャン:本当そうだと思います。“いうぞ”が、そもそもトラウマを凝縮した曲というか、狂気を詰め込んだ曲なので。まず「狂気」があった後に、「恨み」がくるっていう(笑)。
──“セーラ☆ムン太郎”、“いうぞ”、“示談”と並んでいるあたりは心の底が見えるような気がしますね。
マハラージャン : 心の底が見えているようで、まだ深い闇があるかもしれない。
──顔が怖いんですけど(笑)。
マハラージャン:深い闇があるかもしれないし、ないかもしれない(笑)。それをどう感じるかは聴いているあなた次第です。
──アルバムにはボーナストラックでC-C-Bの“Romanticが止まらない”が収録されています。どうしてこの曲を取り上げたんですか?
マハラージャン : これも、シンセフェチが高じて、やってみたかったんです。おもしろい曲だと思いますし、自分が音楽的におもしろくしてみたいと思って取り上げました。歌ってみたら、意外とパッションがある曲だなって思いました。歌詞をみると、ものすごく大人で情熱的でエロスもある歌詞で、それが短い言葉に濃縮されていることの素晴らしさと、それをすごい熱量で歌っていて、歌と音楽がかなりピッタリくる曲だったんだなって、今回カヴァーしてみて思いました。
──このカヴァーも含めてアルバムを聴いて思ったんですけど、世間の人みんなが知っているヒット曲を作ることもマハラージャンさんのやりたいことの1つなのかなと思ったんですけどいかがですか。
マハラージャン : う~ん……キャラの濃そうな曲を書きがちに思われるかもしれないんですけど、わりとたまたまで。作りたいものとしては、音楽がかっこいいかどうか、グッとくるかどうかで、「音楽のフェチをいかに満足させられるか?」というところをまずはいちばんに考えているので。カッティングであったり、コード進行であったり、シンセの聴かせ方とか、どこでその音が鳴ったらグッとくるのか、まずは自分が納得するところにいくのが大事だと思っています。

──なるほど。なんでそう思ったかというと、前にカヴァーしていたゴダイゴにしても、今回のC-C-Bにしても、ヒット曲があってバンドとしてもしっかりしていて、世の中の多くの人が知ってる芸能界的なところとコアな音楽好きにも評価されるアーティストの両方に足を掛けているような存在だと思うんですよ。そういうアーティストってあんまりいなくておもしろいなと思うし、マハラージャンさんにそういう存在感を期待したいなと思ったんです。
マハラージャン : ゴダイゴにしてもC-C-Bにしても、キャラクターと音楽性がその当時にしか出てこないおもしろさがあっていいですよね。ただまったくそういうことを考えたことがなかったので、新鮮です。本当に、音楽が好きな人に良いものが届いたらいいなっていうところで、引き続きやっていきたいという気持ちです。
──あと、LINE MUSICで公開された『僕のスピなプレイリスト』にALVVAYS の“Dreams Tonite”が入っていて、まだまだ色んな音楽の引き出しがありそうだなって思いました。
マハラージャン : 僕は曲単体で、「この曲ピンときた」って好きになるタイプなので。ALVVAYSは最高ですよね。こんなのもいいよなっていう音楽は、まだまだいっぱいあります。
──この夏のマハラージャンさんはどんな活動をするのでしょうか。
マハラージャン : まず、8月5日(木)大阪・心斎橋JANUSで開催のイベント〈ODDL PARTY〉に出るのと、8月28日(土)29日(日) 兵庫県三田市で開催の〈ONE MUSIC CAMP 2021〉ではじめてのフェス出演をします。これからはどんどんライヴをやっていきたいですね。
──今回もハイレゾ配信されますので、高音質ならではの聴きどころをお願いします。
マハラージャン : 今回はMinimoogを結構使っていて。僕があんなに身銭を切って使ったMinimoogを良い感じにセッティングして使っているのを、是非聴いてほしいです。やっぱりMP3では削れてしまうところもあるので、しっかり良い音で味わってほしいというか。ミックスも、iPhoneに合わせたりもしていなくて、良い音で聴いてもらうために作っていて、音楽が本当に好きな人のために命懸けてるところがありますから。とくに、“いうぞ”は良い環境で聴いてほしいです。良い環境で聴いてる人って、ある程度豊かな暮らしをしている人だと思うんですけど、そういう人にこそ“いうぞ”を聴いてほしいですね(笑)。
──この先もマハラージャンさんのなかにあるものを音楽としてどんどん表現して行く?
マハラージャン : そうですね。
──まだまだ、満足していない?
マハラージャン : いや全然してないですね。ダフト・パンクは解散しちゃいましたけど、「一緒にやろうよ」って言われるまではダメだと思っていたので。それは二度と叶わないですけど、それぐらいのところにまでいけるようになりたいです。
編集 : 梶野有希
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PROFILE : マハラージャン

東京都出身。社会⼈になってから感じた強烈な劣等感や、耐えがたい苦悩、屈辱に苦しんだ結果、 スパイス × ダンス・ミュージック という現在のスタイルに辿り着く。 働き方改革が問われる現代が産み落とした、スパイス香るアジアの異端児。 2019年11月に、作詞・作曲・編曲・演奏まで一人で手がけたデビュー作「いいことがしたい」をリリース。 ミックスを髙山徹、マスタリング・エンジニアをBernie Grundmanが担当した本作は、配信のみのリリースながらそのジャケットのインパクトからは想像もつかない洗練されたサウンド、そして社会人なら共感必至のどこかシニカルなリリックに、耳の早い音楽関係者やリスナーが病みつきとなり、全く無名ながら各音楽配信サイトで注目アーティストとして紹介され、全都道府県のラジオ局で楽曲がオンエアされるなど話題を呼ぶ。 2020年4月に、2nd EP「ちがう」をリリース。 前作に引き続き、その確かな音楽性を確信したディーラーからオファーを受け、 前述の2枚のデジタルEPをコンパイルし、ゴダイゴ「MonkeyMagic」のカバーを追加収録した初パッケージ作品をタワーレコード限定で販売。 同作品のヴァイナルもリリースされるなど、現在もロングセールスを記録している。
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