演者として感じたことを、どんどんいろんな人にフィードバックしていきたい
──それぞれタイプが違うんですね。華余子さんのボーカルは、岸田さんから見てどう映りますか?
岸田 : 普通にうまいですね。やっぱり特徴的なのはテクニックの面かな。他の人よりも技術力があるので音を動かせる範囲が広いというのと、元々音楽的感性があるから基礎的な素地がしっかりあるという点だと思います。
草野 : 嬉しいですね。でもそこは岸田さんに教えてもらった部分も大きいと思います。音の長さのことを「音価」と言うんですが、音を切る場所と切り方、速度コントロールに関しては岸田さんに教えてもらって変わりました。
岸田 : でも元々そういう感性がある人や、曲を書いているとやっぱり違うよね。
草野 : 教えてもらったことをすぐに反映できるのは、蓄積の量が多いからだとは思います。作曲自体は5歳からやってきましたし。いつも歌唱も込みで作曲を考えているので、作曲の意図通りに歌えたのは今回の大きな収穫でした。
岸田 : 馬でいえば、身体能力に任せて追い込むタイプではなく、上の騎手に合わせて走るタイプだと思います。
草野 : 最終コーナーを回ったくらいから「今だぞ」と叩かれたら、ちゃんと反応して走るタイプ(笑)。
岸田 : なんなら、「今じゃない」と思ったら自分の意思で走らないし、ちゃんとしたタイミングで走るような馬ですね(笑)。騎手の方が勉強になるシンガーです。馬でいうと、シンボリルドルフみたいな。
草野 : この例え読んでる人に伝わる(笑)?

岸田 : でもシンガーは作曲を踏まえて歌うものだから、普通のシンガーよりは柔軟性はあると思います。シンガーさんは身体能力に寄っているタイプが多いので、曲ありきで歌うタイプがあまりいない。
草野 : 私は身体能力のタイプではないので、そういう人になれないならどう生きていけばいいのだろうと考えたときに、作曲に合わせて歌唱する方向にしようと思ったんですよ。
岸田 : 歴史上どちらのタイプのシンガーもいるので、向いている方にいけばいいと思うんですけどね。前者の人は身体の器用さにも天性の才能があるので、喉を壊さないんですよ。喉壊すのはむしろテクニック系の方で。
草野 : 確かに。無理が生じるのはテクニック系だね。でも今年の1月なんかは10本くらいライヴがあって。毎日寝ずに仕事した後に歌ったんですけど、本当に喉を壊さなくなりました。今回のレコーディングがヴォーカル人生でいちばん実りありましたね。ずっと応援してくれているファンの人からも、「今日めっちゃ聴きやすかったです」って言ってもらえて嬉しいです。
──なるほど。それは岸田さんも感じたことなんですか?
岸田 : 去年の2〜3月くらいで、レコーディングしたときに明確に変わったなと思います。こうなってくれたら、なにも言うことないなと思える瞬間がありました。
草野 : 時期で言うと、岸田教団&THE明星ロケッツ×草野華余子の“LOSTPHANTASIA”(東方ダンマクカグラファンタジア・ロストの主題歌)のレコーディングくらいですかね。はじめて全身を使ったんだと思います、汗だくでしたよ。喉ちぎれてもいいくらい思っていたんですけど、喉への負担は全くなくて。あの瞬間からもう身体の動きを覚えました。
岸田 : 切り替わった瞬間に立ち会いました。そうなれたのも、それから1年前くらいに、自分の家でちゃんとレコーディングできる環境を整備したからだと思うんですね。そこからの進歩の結果だったと思います。
草野 : 同じスピーカーで聴く、同じマイクで歌う、自分という同じディレクターが判断するという環境、その指標を1つにしたからこそだと思います。だから本当に歌を上手くなりたいとか、良い曲をかけるようになるには、部屋とスピーカーが大事なのかもしれない。
岸田 : 本当にそうだね。マイクを統一するのも大事。しかもこのアルバムのレコーディングの最中にも、もう1段階よくなっていて。
草野 : 1番最初にレコーディングした“ignition”から、最後に録った“BurstyGreedySpider”を聴き比べていただいたら、ボーカル単体で聴いたときの声が太くなっていると思います。
岸田 : “ignition”の段階で、まだいけると思っていましたから。
草野 : レコーディングするにつれて、一発録りに近づいていきましたし。
岸田 : 最近華余子さんから仮歌でもらうものよりも、ライヴで歌ったものの方が良い印象があったんですよ。「なにが原因なんだろう」とずっと考えていたんですよ。
草野 : そしたら、レコーディング用のコンデンサーマイクが原因だったんだという結論に達しました。
岸田 : なのでコンデンサーマイクに負けない、ナレーションで使うようなダイナミックマイクをもってきて歌ってもらったんです。そしたらやっぱりライヴの歌唱力が出るんですよ。
──マイクでそんなに変わるんですね。
草野 : 研究結果として、コンデンサーマイクで録りつつ、耳中に返す音はイコライジングでダイナミックマイクに聞こえるEQを組むのがベストとなりました。
岸田 : まあ、慣れたらコンデンサーマイクの方が上手くなってしまって(笑)。感覚さえ掴んでしまえばそうなるのは当然なんですけどね。でもこれも相性で。華余子さんはずっとライヴハウスで歌ってきたから、ダイナミックマイクこそが自分のマイクなんだと思います。
──興味深いですね。
草野 : でもそうやってひとつひとつに疑いをもって、根幹から変えるために研究するのは大事だと思うんですよ。アーティストでもそういうのを気にする人はあんまりいないと思うんですけど、こんなに突き詰めて研究する岸田さんに出会えたのは良かったですね。
岸田 : しかも実際解決できるんですよね。そこがすごい。
草野 : 周りのディレクターさんやアーティストが問題点に気付いていない場合などに、今後は自分もプロデューサーとしてそういう部分もお手伝いできたらなと思います。これからは演者として感じたことを、どんどんいろんな人にフィードバックしていきたいですね。

作家活動10周年を記念したセルフカバーアルバム
LIVE INFORMATION
〈草野華余子presents産地直送プレミアム〜人生四十周年大収穫祭〜〉

日程:2024/02/25(日)15:00開場/15:45開演
会場:SpotifyO-EAST
出演 Artist:草野華余子(BAND)、岸田教団&THE明星ロケッツ、鈴木このみ、uijin、ARCANA PROJECT、アキストゼネコ、ヒグチアイ
草野華余子バンドメンバー:Vo&Gt. 草野華余子、Gt. はやぴ~(岸田教団&THE明星ロケッツ)、Gt. 堀江晶太、Ba. イガラシ(ヒトリエ)、Key. モチヅキヤスノリ、Dr. みっちゃん(岸田教団&THE明星ロケッツ)、Mani. 坂井伽寿馬
詳細はこちら
https://kusanokayoko.com/live/
草野華余子ディスコグラフィー
岸田教団&THE明星ロケッツの過去の記事はこちら
岸田教団&THE明星ロケッツ ディスコグラフィー
PROFILE:草野華余子
大阪府出身・東京都在住。シンガーソングライター/作詞作曲家。
3歳の頃からピアノと声楽を始め、5歳で作曲を始める。中学生の頃に出会ったJ-ROCKシーンのバンドサウンドに衝撃を受け、18歳の関西大学進学を機にバンド活動を始める。2007年より「カヨコ」としてソロ活動を開始し、2019年に本名である「草野華余子」に改名。
自身の活動に加え、そのソングライティング力が認められ、数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲を提供。2019年にリリースされたLiSA「紅蓮華」の作曲を手掛け、一躍注目を集める。以降、西川貴教、A.B.C-Z、FANTASTICSfromEXILETRIBEなど、楽曲提供の幅を広げている。また、卓球愛好家としての一面を持ち、2022-2023シーズンから日本の卓球リーグ・Tリーグのアンセム制作を手掛けてる。
2022年12月には、5thDigitalSingle「最終電車は泣いている」をリリース。シンガーソングライター兼クリエイターという”二足の草鞋型アーティスト”として、より一層の活躍が期待されている。
【公式HP】https://kusanokayoko.com
【X】https://twitter.com/kayoko225
【Instagram】https://www.instagram.com/kayoko_ssw/
PROFILE:岸田教団&THE明星ロケッツ
岸田教団&THE明星ロケッツとは、2007年、東方アレンジサークルとして同人活動していたリーダー岸田の呼びかけにより軽い気持ちで結成。ライブ一度限りで解散するはずだったがなぜか今日に至る。
2010年にTVアニメ「学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD」の主題歌「HIGHSCHOOL OF THE DEAD」で メジャーデビュー。同人活動と並行しながら、その後も「ストライク・ザ・ブラッド」「GATE(ゲート)自衛隊、彼の地にて斯く戦えり」「とある科学の超電磁砲T」など多くのアニメ主題歌を担当。
【X】https://twitter.com/kisida_info