BOAR HUNTER 『Germination Of Concepts』
インターネット上で結成された多国籍音楽ユニットによるセカンド・アルバムは、全曲揃ってひとつの映画的作品となり、曲順でストーリーが展開されるという。ヒップホップやダブ、エレクトロ、ニューウェイヴ、オルタナなどを融合した枠にとらわれない音楽形態と自由なヴォーカルスタイルで、1曲ごとにバンドイメージの破壊と創生を繰り返していく。その挑戦的な姿勢と次に何が来るかわからない楽しさにしっかりと胸を掴まれた。特にダンサブルなビートと多国籍なサウンドが印象的な”miasma”、2分未満のローファイ・ヒップホップ・チューン ”subwave(signal a)”。King Kruleを想起させる冷たさとダークネスを備える”sumdge”の3曲は、ありきたりを打ち破る斬新な曲構成やアイデアが盛り込まれていてお気に入り。
Joanne Robertson 『Blue Car』
グラスゴーを拠点とする女性SSW、ジョアンヌ・ロバートソンは、ここ10年のうちに書き溜めたという未発表曲のソロ・レコーディングを集めてアルバム化した。日記代わりに生まれた11曲はそれぞれパーソナルな空間を持っており、彼女の記憶の中に漂うような浮遊感に包まれ、たちまち夢見心地な気分に。聴く人の日常にも優しく寄り添い、今目の前にある景色や感情にささやかな彩りを添えるだろう。また、暗がりなコードを爪弾くアコースティック・ギターに切なく揺れる透明な歌声からは、エリオット・スミスやジェフ・ハンソンに感じたような孤独や危うさみたいなものも感じられる。激励の言葉や明るくきれいなメロディでは救えない心の裏側を優しく撫でる、ヒーリング的作品。
Wasia Project 「Petals On The Moon」
イギリスと東アジアの2か国をルーツに持つ兄弟デュオから、うららかな日が続くこの時期にぴったりの一曲が届いた。ピアノをメインするしとやかなジャズ・ポップを得意としてきた彼らだが、新曲では「ライヴで踊れる曲」をコンセプトに大人なムードから一転。スタッカートで跳ねるリズムとシンガロングしたくなるキャッチーなメロディが気持ち良いポップチューンに仕上げた。そしてクラシックを由来とする多層的なコーラスワークと、陰りやノスタルジアを含むオリヴィア・ハーディのヴォーカルが、彼らならではの独創的なテクスチャーを際立たせている。王道に近くも一癖あるところが、Mitskiの「Nobody」を想起させる。このリリースをきっかけに注目度も高まっており、今後彼らを見る機会も増えそうだ。