主観と客観、表と裏が常に共存した“両義的”な作品
──ちなみに、アルバムの13曲の中で最初にできた曲はどれですか。
本村:“Carry Me to Heaven - Accelerated”かな。
内村:録音も一番最初だったね。
本村:これは砂井くんの曲なんですけど、もともとはWanna-Gonna用に7、8年前に作られた曲で、それを今回ゆうらん船に持ってきてくれたんです。そういう意味では、作曲の時期からみても一番古い曲ですね。
内村:逆に、最後に作曲したのは“たぶん悪魔が”かな。
本村:それも砂井くんの曲だ。録音の順番で言うと、最後の“Waiting for the Sun - Reprise”という曲、前作に入っていた曲の再録なんだけど、たまたま私がその日のセッションに参加できなくて、みんながジャムしてる音源に、あとから私が家でベースを重ねていったんです。なので録音としては一番最後ですね。
内村:最初から13曲やろうと決めていたわけじゃなくて、歌モノを10曲くらい作ろうっていうざっくりした目安はあったんです。でも、砂井くんも永井くんもどんどん曲を持ってきてくれたので、そこから取捨選択しながら柔軟に進めていきました。
本村:勢いで走り出したけど、砂井くんがスプレッドシートで進捗をしっかり管理してくれてて。社会人のスキルをフル活用してくれました(笑)。それがあったから、みんなで作業しながら「この曲数がちょうどいいよね」と、自然と着地できた感じです。特に私なんて、作業が終わってみて初めて自分が何してたか分かるっていう感じ。
永井:音源が完成して初めて、ようやく客観的になれたというか。録音してる最中は自分が音を出したりすることに集中しているので、全体像が共有できるのはやっぱり完成してからなんですよね。
本村:主観的に突っ走って、最後、客観性を持ってまとめるっていうのは個人的にはすごく面白い作業でしたね。私はダブがすごく好きなんですけれども、ダブってそういうことだと思っていて。制作者が主観のままやったことが、第三者によって全く違う世界に再構築されるっていうね。もちろん、今回のアルバムはレゲエでもダブでもないけれども、そういう方法論みたいなものは反映されているなぁと思ったりしますね。客観性というか、相対性というか。砂井くんが制作の途中で打ち立ててくれたコンセプトがひとつあって。「両義性」なんですよね。主観と客観、昼と夜、表と裏……そういったものが常に共存しているっていう感覚。それを意識しながらやっていたんだと思います。
内村:僕も、歌詞は歌入れの直前まで直したりしていたので、歌詞が固定されてから、アルバム全体のストーリーがつかめた感覚がありました。
永井:歌詞で印象がガラッと変わった曲もありましたね。僕が作った“Departure”もそのひとつで、最初のデモと最終形ではだいぶ雰囲気が変わりました。
──内村さんは自分の書いた歌詞によって音が変化していくという実感をどのように受け止めていたのですか。
内村:他のメンバーが作ってきた曲に歌詞をつけること自体、今回が初めてだったんです。だから、ちょっと俯瞰して書けたというか。自分のメロディに自分の歌詞だと、どこか取り繕ってしまう部分もあったのかもしれないけど、今回は使ったことのない言葉や、少しストレートな表現にも挑戦できた。永井くんの曲は、僕の感覚だとイノセントな印象があって、そういう雰囲気に言葉を乗せていく作業が、自分を新しいところに連れて行ってくれた気がします。いつもならわからないように隠してしまいそうな部分も、今回は思い切って出せた。それが楽しかったですね。
──例えば一例として、永井さんが曲を作った“Departure”はどのように歌詞を付けていったんですか。
永井:最低限歌えるようにはしたつもりだったんですけど、どういう歌詞が来るかは本当にわからなかったんです。僕、普段から楽器を使わず譜面で曲を書く癖があるので、そのアカデミックな要素とかが少し入り込んでいるのかなとは思っています。ゆうらん船で歌われているような楽曲とはまたちょっと違うものとしてアプローチできたかなと。そういう意味では大きな挑戦でした。
本村:“Departure”ってタイトルは最初からデモについてたよね。
永井:いや、多分、最初はついてなくて。ただ、途中で内村からそれに近い単語を提案されて、それだったらこの方が分かりやすいんじゃない? ということで“Departure”になった。出発っていう意味もあるのでピッタリかなって。最終的に決まったのは、ほんとに作業の最後でした。結構不思議な体験でしたね。
本村:確かにタイトルから、まさに「出発」みたいな感じがしたよね。
内村:永井くんや砂井くんには、歌詞のイメージあるの?って聞いたりしたんだけど、特にないって言うんですね。でもそれが逆に良かったなと。メロディからどう受け取っても自由でいいんだなって。
──メンバー個々のポジショニングも自由なら、作り方も自由なんですね。ポップな枠組みの中にいるのに、どんどん作業を開拓していっている。しかもそれぞれのポテンシャルが高くて、曲も作れるし、プロデュース、音作りを管理することもできる。音楽的には違うけど、ちょっとザ・バンドみたいだと思いました。
本村:あ、嬉しいですね。そういうバンドなんだなって最近つくづく思います。これ、個人的な感覚なんですけど、テンション感が一定のバンドだなと思うんですよ。もちろん真剣ではあるんですが、過剰に追い詰められる状況を避けて、好奇心や遊び心をもって音楽を作ることを続けられている。無責任というと良くない言い方だけど、うまいことスルスルとすり抜けていって、でも、ちゃんと行きたい方に向かえてるみたいな感じ。いい状況にいるんだなって、周囲の方々にも理解してもらえているし。
内村:そのバランスがうまくいっているから続いているんだろうと思います。遊びの要素は絶対にほしいし、無責任にやれる部分も残しておきたい。今回のアルバムはそういうプロセスも含めて、すごくいい形で着地できたと思っています。

編集 : 石川幸穂
表と裏をはらんだ“両義性”をテーマに、信頼が深まったバンドで作り上げたサード・アルバム
フォトギャラリー
撮影 : 斎藤大嗣
ライブ情報
〈ゆうらん船 3rd ALBUM『MY CHEMICAL ROMANCE』リリースツアー〉
2025年9月13日(土)
OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪・梅田シャングリラ
出演:ゆうらん船 / 対バンゲスト後日解禁
2025年9月14日(日)
OPEN 17:00 / START 18:00
会場:京都・Live House nano
出演:ゆうらん船
2025年9月15日(月・祝)
OPEN 17:00 / START 18:00
会場:名古屋・新栄シャングリラ
出演:ゆうらん船 / 対バンゲスト後日解禁
2025年9月21日(日)
OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京・渋谷CLUB QUATTRO
出演:ゆうらん船
■チケット
一般前売¥4,500 / U-22 ¥3,000
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PROFILE : ゆうらん船
古き良きロック、フォークやカントリーなどを独自に解釈しストレンジなグッドミュージックを届けるシンガーソングライター、内村イタルを中心に結成されたバンド、ゆうらん船。
バンドメンバー伊藤里文(Key)、永井秀和(Pf)、本村拓磨(Ba)、砂井慧(Ds)の演奏が歌に寄り添いながらも優しさだけではなく、様々なグルーヴが混ざり合うことによって、懐かしくもあり新しい、心地良いけど、どこかスリリングなバンドサウンドを聴かせる。
■Official Site : https://www.yuransen-band.com/
■X : @thetourboat
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■YouTube : @YuransenOfficialChannel