ムーンライダーズ随一のメロディ・メーカー、岡田徹が歌で聴かせる5年ぶりソロ作、先行ハイレゾ配信

ムーンライダーズのキーボーディストにして、稀代のメロディ・メーカーとしても知られる岡田徹のソロ・アルバムは、自らのヴォーカルをフィーチャーした初の全曲ウタものアルバム。「月面讃歌」「週末の恋人」「さよならは夜明けの夢に」など岡田が作曲したムーンライダーズの名曲カヴァーのほか、書き下ろしの新曲が収録された。
参加メンバーは鈴木慶一、鈴木博文、白井良明、武川雅寛、山本精一、澤部渡(スカート)ら岡田と親交の深い友人たちのほか、柴田聡子、姫乃たま、3776ら女性陣がゲスト・ヴォーカルで参加。プロデュースは岡田徹と佐藤優介(カメラ=万年筆)がタッグを組み、エンジニアは近年ムーンライダーズのサポート・ドラムでもおなじみの夏秋文尚(ジャック達)。「マスカット ココナッツ バナナ メロン」では3776のプロデューサー、石田彰がトラックを手がけ、そのセンスあふれるサウンド・プロダクションを聴かせくれる。
11月23日のリリースを先駆け、OTOTOYでは歌詞ブックレット付きで先行ハイレゾ配信がスタート! 岡村詩野による岡田徹単独インタヴューと共にお届けする。
岡田徹 / Tの肖像
【Track List】
01. しっかり! ダイナモ! 頼むぞ! バッテリー!
02. ウェディング・ソング
03. Bitter Rose
04. ドアの外に待たせた夏
05. アケガラス
06. 週末の恋人
07. 人ごみの中のおばけ同士
08. オーロラ見るまで眠れない featuring 柴田聡子
09. マスカット ココナッツ バナナ メロン featuring 井出ちよの
10. 月面讃歌 2016
11. さよならは夜明けの夢に
12. HOUSE
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 300円(税込) / アルバム 3,000円(税込)
アルバム購入特典として歌詞ブックレット(PDF)がつきます
岡田徹 - 月面讃歌 2016岡田徹 - 月面讃歌 2016
INTERVIEW : 岡田徹
アルバム・ジャケットでブランコに乗っているのは、幼き日の岡田徹自身。場所は、当時、親の仕事の都合で暮らしていたニューヨークはマンハッタンだという。そんなモノクロのスナップ写真に添えたタイトルは『PORTRAITURE OF T』……『Tの肖像』。もちろんTはTohru Okada、すなわちムーンライダーズの鍵盤奏者であり、バンド一のメロディ・メイカーと言っても過言ではないコンポーザーの岡田徹のことである。
このジャケットとタイトルからまず想像できるのは、自身のルーツに立ち返り、それを飾らない言葉と歌で聴かせるようなシンガー・ソングライター的作品だろう。そして実際、東京は神保町のイベント・スペース『試聴室』においてピアノ弾き語りで録音した曲もここには含まれているし、当初は70年代のギルバート・オサリバンのような静かに内省するような歌ものアルバムを想定していたのだという。だが、そう一筋縄ではいかないのが岡田徹の岡田徹であるゆえん。収録曲目を眺めてみると一目瞭然、ムーンライダーズ時代の代表曲も多く並んでいるし、中には「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」のようなウィットに溢れたキッチュな曲のセルフ・カバーもある。しかも、そこで歌っているのは富士山ご当地アイドル・グループ、3776の井出ちよのという悪戯っぷりだ。近年の岡田のソロ活動に力を貸していた柴田聡子、姫乃たまがヴォーカル参加した曲もある。60代になり未来のことを考えなくなった… と笑う岡田だが、どうやらその辞書には“老いる”という言葉はない。まっとうなシンガー・ソングライター・アルバムに落ち着くことなんて、到底できやしないということなのだろう。
そんな約4年ぶりとなるソロ・アルバムをプロデューサーとしてまとめたのは佐藤優介(カメラ=万年筆)。また、ムーンライダーズのメンバーらも参加する中、スカートの澤部渡も参加しているし、岡田にとっては娘どころか孫娘の世代にあたる現役中学生の井出ちよのもここにはいるのだ。頼もしい… というか、どこまでも粋ではないか。しかも、岡田のポップなフックのあるメロディがとことん生かされた仕上がりだ。
『フジロック』『ボロフェスタ』といったフェスへの出演も印象的だった、結成45年という節目でのはちみつぱいでの活動、『WORLD HAPPINESS』への出演を含めたムーンライダーズの再結集… と今年は例年になくフル稼働だった岡田徹。“老成の二文字を知らぬ永遠のポップ・マエストロ”とは一体何者なのか、改めてその心境を聞いてみた。
インタヴュー&文 : 岡村詩野
自分で歌もうたうって発想でアルバムを作るなんて本当に考えたことがなかったから

──今回のソロのアイデアはいつごろからあたためていたものだったのでしょうか。
今年3月くらいだったかな、「歌もののシンガー・ソングライター・アルバムを出しませんか?」って打診があったんです。最初は自分でも意外だったんですよ。自分で歌もうたうって発想でアルバムを作るなんて本当に考えたことがなかったから。でも、逆におもしろいなと思って、それなら作ってみようかなって思ったんです。考えてみたら、今まで僕はインストのアルバムが多くて、その中で隠れてヴォーカルをやったりしていたけれど、意外と僕が歌っているってことが知られてないんですよ。なので、じゃあ作ってみようかってことになったんです。ここらで歌っておかないと、声が出なくなっちゃうかもしれないからね(笑)。逃げてたわけじゃないんだ。ライダーズでも歌ったことあるしね。でもこうやって誰かに言われなかったらたぶん作らなかっただろうね(笑)。
──逆にお聞きすると、これまでご自身の声を加工したりヴォコーダーを用いたりして、もともとの生声をそのまま生かした作品作りに向かわなかったのはなぜだったのですか?
それはジョン・レノンの影響かも。彼がミキサーのジェフ・エメリックに色々と難題ふっかけて“普通の方法で録音するな”って言っていたエピソードとかね。プラス元々ヴォーカルに強いリミッティングかけたりエンハンサーかけたりするのが好みとしてあって、というのが根底のあるんだよね。歌もそのまま録音したらつまんねぇな的意識があったんだと思う。ライダーズだかはちみつぱいだかのレコーディングの時に、僕が歌っているのを聴いた(鈴木)慶一氏が「アナウンサーの声みたいだな」って言ったってのもあって、自分で歌う時には何か工夫が必要だってずっと思っていたんだね。ハース・マルティネスとかトム・ウェイツみたいにダミ声でキレイなメロディを歌う、みたいなの、おもしろいじゃない?
それで歌ったのはライダーズ時代の「週末の恋人」だったんだよ。だから、ヴォーカルとメロディの組み合わせっていうのは割とずっと考えてきたことではあるんだよね。ただ、シンガー・ソングライターとしての作品をソロで作るなんてことまでは考えたことがなかったんだよね。聴いてくれる人の心を掴める歌がうたえるのかな? って思うとね、どうしてもインストの方にいっちゃって。でも、今回は最初から佐藤優介くんにプロデュースをお願いしてみたらどうだろうってアイデアが出てたから、おもしろそうだな、彼とならいいものできそうだなって思ってね。
──佐藤優介さんとの作業はこれが最初ではないですよね。映画『ふきげんな過去』(前田司郎監督)の音楽を岡田さんが担当され、そちらを優介さんが手伝ったということですが。
そうです。彼は、まあ、もちろん優秀なんですけど、どういう音を作るのかがハッキリしていたのが僕にもわかっていたのがまずよかったんです。僕はどちらかというとテキスタイル的な音像を作る方なんですけど、彼が関わると油絵っぽくなる。僕が晩年のマティスなら彼はターナー、みたいなね。だから、一緒に作業をしてみて、このコンビで何かをやるのっておもしろいな… とは思ってたの。ただ、自分の作品を… それも全部を彼に任せたことはなかったから、試しに、僕のヴォーカルものを彼にミックスしてもらったんですけど、これがすごくよかった。そこで、じゃあってことでやることになったんです。
──つまり、これまでのどのソロ作品とも異なるアングルで作ることになったということですね。具体的には作業中、どのような違いがあったのでしょうか?
例えばピアノだけで録音したような弾き語りの曲では、クリック(※1)とかドンカマ(※2)も使わなかった。それは自分にはすごく新鮮なことだったんです。それに、最初から録音を夏秋(文尚)さんにやってもらおうっていうのも決めていて。夏秋くんとはウクレニカを一緒にやって、エンジニアとしての彼のそのミュージシャン・フレンドリーなやり方がいいなって思っていたんだ。
※1 クリック : テンポをキープするために指定した周期でビートを刻むガイド音
※2 ドンカマ : ドンカマチックの略称。リズムマシンやそれによるガイドリズム一般を指す用語として使われる
──アルバムの中では「さよならは夜明けの夢に」「ウェディング・ソング」「週末の恋人」などがピアノ弾き語りですね。これらは神保町にある『試聴室』で録音されたそうですが。
そうです。40年ぶりくらいにピアノだけで。そこに僕のPCとマイクを持ち込んで夏秋くんと一緒に録音して。その時に、クリックとかを一切使わなくて、ああ、こういうやり方って新鮮でいいなって思ったんです。だって、クリック使わないのって、どうなるか想像がつかないでしょ。そのスリルみたいなものがすごくおもしろいと感じたんだ。ま、結果として、今回のアルバムはそういう曲ばかりが集まったものにはならなかったけどね。でも、最初はそういう小細工なしのストレートな歌ものシンガー・ソングライター的な作品にするアイデアだったんだよ。
「ムーンライダーズの隠し玉はここにあった!」って感じの作品になったな、とは思っていますよ(笑)

──では、そういう作品作りをするにあたって、最初、どのようなイメージで考えていたのでしょうか。
例えばギルバート・オサリバン。「アローン・アゲイン」とか、ああいう歌いっぱなしの感じ。実際、最初のデモ段階でそれっぽい曲が1曲あったんです。アルバムにも入っている「しっかり! ダイナモ! 頼むぞ! バッテリー!」なんだけど、これ、実はかなり昔に作った曲だったんですよ。ライダーズの「ゆうがたフレンド(公園にて)」(2006年)を作るにあたって、バンド内でコンペをした時に用意していた曲。僕としてはこれ、当時イケると思っていたんだけども(笑)。……まあ、もう結構前の話だね。だから、この歌詞は慶一氏に書いてもらうことも決めていたの。まあ、そういうわけで、この「しっかり! ダイナモ! 〜」が最初にあったから、余計にピアノ弾き語りのギルバート・オサリバンみたいなアルバムになるかなって予想はしていたんだけども……。
──いざ、フタを開けてみたら、それだけのアルバムではなくなっていたと。
そう、飽きっぽいんですよ僕は(笑)。そういう曲ばっかりじゃ結局満足できない。いろいろやりたくなっちゃう。
──しかも、ライダーズ時代の持ち曲のセルフ・カヴァーも約半数。「週末の恋人」「月面讃歌」は岡田さんの前作にあたる『架空映画音楽集II〜エレホンの麓で〜』(2012年)でもとりあげていますね。そうしたお気に入りの曲を、作品ごとにアレンジ、スタイルを替えてとりあげることで見えてくるもの、伝わるものは確かにあると思います。
そうだね。「月面讃歌」は元々インストだったけど、今回は新たに歌詞をつけたしね(角田陽一郎作詞)。同じ曲でも作品のスタイルに応じてアレンジを変えたりすることは面白いですよね。ただ、それでも今回は「アケガラス」(1982年発表の『青空百景』収録曲。鈴木博文作詞)とか「Bitter Rose」(2005年発表の『P.W Babies Paperback』収録曲。覚和歌子作詞)とかを敢て今自分でも歌ってみたいって思って選んだんです。「Bitter Rose」なんかは、歌詞の世界はむしろ“年甲斐がある”感じで、今の自分に投影した時にフィットしていて、今歌いたいって思えたんですよ。
──それは、岡田さん自身、病気などを乗り越えて今に至っているこれまでの人生を振り返った時に、このタイミングで歌っておきたい、という思いがあったということでしょうか。
そうですね。猛烈にそういう感じはありましたね。慶一氏が書いてくれた「しっかり! ダイナモ! たのむぞ! バッテリー!」の歌詞なんか、今の僕に対する応援歌のようにも読める。なんとなく、今、こういう歌詞を歌うってことに意味があるように思えるよね……。昔はもう何をやっても人生いつまでもあるって思っていたけど、60歳を越えたあたりから、未来は永遠じゃないって。例えば、50代の頃はまだ高価な機材を買ったりしてましたけど、今だったら、これ、あと何年使えるんだろう? って考えちゃう(笑)。リニアが開通するってニュースも、若い頃だったらきっと一緒に喜べたと思う。でも、今は、開通の頃はいないな… って思っちゃう。未来のことが関係なくなっちゃうんですよ。だから、今できること、やりたいことをやっておこう、歌いたいことを歌っておこうって。同じように、昔だったら、アイツ好きじゃないから一緒にやりたくない、みたいな好き嫌いがあったけど、今はそうじゃない。アイツとでも何かやれることがあるかもしれないからやってみようかって気持ちになるんですよね。そういう思いが、今、この歌詞を歌いたいって気持ちにつながったんだと思いますよ。
──そこに恐れや寂しさはありますか?
いや、それはないですね。むしろ、それまでの蓄積を生かして、その時々の状況を楽しめるようになっているから。判断力もついているから結構楽しいんですよ。
──未来はあまり実感ないけど、今が「楽しい」という感覚は素晴らしいですね。
うん、だからね、それは老成できないってことなんですよ。まあ、ライダーズのメンバー全員、ほぼ老成できてないんですけどね(笑)。ギルバート・オサリバンみたいな作品を作りたいって思っても、結局はポップなアレンジで仕上げる曲も欲しくなっちゃうってことだから。渋い路線を掘り下げることもできなくないけど、どこかでそれだけだと満足できなくなっちゃうんですよね。飽きちゃう。それが老成させてもらえない理由ですかね(笑)。
──ええ、確かに「アケガラス」などは正攻法のシンガー・ソングライター作品だとも思えます。ただ、このアルバムには、柴田聡子さん、姫乃たまさん、井出ちよのさん(3776)といった女性シンガーが歌っている曲もありますし、そういう曲ではモノクロームなピアノ弾き語りではない、ポップでカラフルなアレンジが施されています。岡田さんの、音楽にいつまでもやんちゃな側面が現れています。



そう。ただ、そういう曲ばかりを選んじゃうと、どうしたって重くなってしまうし、聴いてくれる人もしんどくなるでしょ。だから「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」(1977年発表の『ムーンライダーズ』収録曲)とかをやってみようと。しかも、あの曲で歌っているのは中学生の井出さん。ああいうエッチな歌詞を中学生の井出さんが歌うっておもしろいでしょ。歌詞の持つエロさをハツラツと飛ばしてほしかったんでね。ああいう曲をこのアルバムに敢て入れちゃう。もうどうかしてるとしか思えないですよ自分でも(笑)。柴田さんが歌っている「オーロラみるまで眠れない」はya-to-iの次回作(2013年リリース『Shadow Sculpture』)用にモチーフがあった曲なんですよ。だから、この曲には山本精一さんも参加している。「あれ、この曲聴いたことあるな」って精一さん言ってたけどね(笑)。なんかね、そんな感じで、つい他の引き出しも開けちゃうんですよ。
──これまでに作った楽曲の断片やストックがいつでも探せるようになっているのですか?
データで残してはいます。ただ、あまり古いものだったり、データが飛んじゃったりしたものはもう記憶からも消えちゃってわからないですけどね。でも、たいていはデモやモチーフみたいな形で残っていて、それが大量にあるんですよ。それをサルベージしながら今回のアルバムで生かせそうなものを決めていくんです。だから、ほとんどの曲におおまかなデモがあって、それをもとにその作品に応じて完成させていく感じです。今回まったくの新曲は…… 「HOUSE」がそうですね。あれはデモもない。山本精一さんに歌詞を書いてもらって、澤部くんとかもアコギを弾いてくれたりしています。
──そうした作業は佐藤優介さんと共同で行うのですか?
優介くんの意見も聞きながら選曲自体は基本的には僕は決めました。あとは、そうやって選んだ曲をどういうアレンジにするか、ライダーズのメンバーにはどの曲に参加してもらおうか?とか、誰と一緒に演奏したり歌ったりしたらいいかな? とかっていうようなキャスティングを優介くんに相談したりしながら決めましたね。優介くんと、今回どういう作品にしたいのか? なんてことを改めてじっくり話したこともなかったですけど、でも、僕としては、「ムーンライダーズの隠し玉はここにあった!」って感じの作品になったな、とは思っていますよ(笑)。よもやデビューから40年経ってヴォーカル・アルバムを作ることになろうとは思ってもいなかったし、それによって自分の曲を見直すこともできたわけだからね。優介くんはすごくいい仕事をしてくれたと思いますよ。
これまでの僕の人生の歴史がここに刻まれた、でも、それを通りすがりのポップスのように聴かせてしまう。そこがおもしろい

──自身のソングライターとしての特徴、魅力はどういうところにあると思っていますか?
う〜ん…… わからない。自分じゃわからない(笑)。
──では、改めて、今回の作品を聴いてみて、自身のソングライターとしてのルーツはどこにあると思いますか?
例えば、フォスターの「金髪のジェニー」の転調とかね、ああいうのはもしかしたら自分の作曲のポイントとしてどこかに影響が出ているかもしれないね。もちろん、ビートルズは中学高校の頃に聴きまくっていたから、色濃く入っているだろうな。あと、父親がナット・キング・コールを好きで聴いていたから、知らず知らずのうちに影響を受けていると思いますね。小さい頃からそうやって見たもの、聴いたものが自然と出ているとは思いますよ。
──岡田さんの曲の1番の特徴は、決して難しく展開していかない、子供でも覚えられるようなフックのあるポップな曲が多いとよく言われます。
自覚ないんだけどね、でもどの曲も耳に残るメロディがあるとは確かによく言われるね。それはCMソングの仕事をたくさんやってきたからかもしれない。自分ではよくわかんないけどね、でも、たくさんの人の耳に残る曲を書くという仕事をこなしてきたことは、もしかしたら今の自分の作風に生きてるかもしれない。例えば、スティーリー・ダンって、AメロとかBメロは難しくてよくわかんなかったりするじゃない? そうじゃない曲もあるけど、すごく複雑に作られている曲が多い。でもサビになると一度聴いたら忘れられない超ポップなメロディが展開するじゃない?そういう曲に憧れるんですよ。今回のアルバムを作るにあたって、優介くんと山本精一さんが「歌もののアルバムを絶対作るべきだ」って強く勧めてきたんです。その時に、自分の書く曲のポップな感覚を少し意識しましたね。正直言って、今回、最初僕の歌ものアルバムなんて聴きたい人いるのかな? って思ったんだけど、それを言ったら2人とも口を揃えて「いますよ!」って。
──つまり、ポップなフックの曲を書く岡田さんの作品を、岡田さん自身の歌で聴いてみたい、という意味だったと。
そうだと思います。まあ、おだてられて作っちゃったところがあるんですけども(笑)。
──実際に、柴田さんや姫乃さんが歌った曲は置いておいて、ご自身の声で改めて歌に向き合ってみて、どのような実感がありましたか?
実はそれはね「しっかり! ダイナモ! 頼むぞ! バッテリー!」がうまくいくのかどうかにかかっていたんです。あの曲の歌入れがうまくいったんで、これはアルバム全体イケるって手応えを得たんですよ。正直、自分で判断しにくいんです、自分の歌って。ただ、歌い終わって、それをオケにあてはめたときにすごくフィットしたのを感じましたね。実際に歌ってみないとわからないんですよ。本当にイケるのかどうかなんて。特に今回は歌ものっていうのが基本にあったわけですからね。でも、慶一が今の僕に向けた応援歌のような歌詞を書いてくれた「しっかり! ダイナモ! 〜」を歌い終わって、それをオケに合わせたときに、いい感じで歌いたいと思った気持ちが現れていると思った。伝わるな、と思ったんですね。
──それは、歌の世界に入れた実感があったということですか?
いや、そこはね、難しいところで。僕は歌の世界に移入しないんですよ。する人もいるけど、僕は感情過多にならない方が伝わるって思っているから。そもそも、僕の声で感情過多になるのは難しいですから。だから、今回のアルバム、僕のヴォーカルはどれも“棒歌い”になっていると思う。棒歌いって語尾が羊羹切れになっている。その反対はごぼう切れ。わかる人にはわかる。だからボコーダに似ちゃうのかな。そのせいかちゃんと地声で歌っているのにボコーダって言われるケースも(笑)。
──なるほど、棒読みならぬ棒歌い。
そう。僕自身、入り込みすぎちゃうような歌って苦手っていうのもある。演劇っぽい歌も好きじゃないな。少なくとも「しっかり! ダイナモ! 〜」に関しては、僕のそういう好みというか意識が出ていると思いますね。そういう意味では、やっぱりシンガー・ソングライター・アルバムじゃないね。ヴォーカル・アルバムって感じかな。
──今回、参加している女性ヴォーカリストたちにも同じような感覚を求めたのでしょうか?
あの3人に関しては声質がいいってところで参加してもらいました。アニメ声とかビブラートは苦手で、倍音が豊かでキレイに響く声の人が好きですね。ノン・ビブラートで、抑揚があまりなくて、ドラマティックじゃなくて、いい意味での棒歌い。やっぱり女性の歌もそういうのが好きですね。女性に限らず自分の歌も含めて、もう単純にそういう歌が好きなんですよ。でね、なぜそういうのが好きかって、自分ではちゃんと分析とかしたことないからわからないんだけど、ふっとどこかで耳に入ってきて残るのがポップス、という意識があるからなのかもしれない。
──ああ、頑張って聴こうとして聴くのではなく、自然と町中やラジオ、テレビを通じて耳に入ってくる音楽こそがポップ・ミュージックだという意識ですか。
そう。通りすがりのポップ・ミュージックって感じ。アノニマスなね。
──でも、そんな作品のアートワークに自身の子供の頃のポートレートを用い、岡田さん自身を示唆したようなタイトルも与えられていて、ある意味で超プライベートな作品としても捉えられるようになっています。
うん、これまでの僕の人生の歴史がここに刻まれた、13枚の肖像画のような作品集ですよ。でも、それを通りすがりのポップスのように聴かせてしまう。そこがおもしろいんじゃないかなって思いますね。
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PROFILE
岡田徹
1949年4月東京都生。立教大学卒。1973年はちみつぱいに参加、解散後ムーンライダーズの結成に参加し、数多くの名曲、名演を残す。80年代〜はプロデューサーとしても活躍。PSY・S、パール兄弟、プリンセス プリンセスなど多数を担当。また『クラッシュ・バンディグー』『NTTドコモダケ』などゲーム・ミュージック、CMミュージックなども手がける。88年からはソロ活動も開始。初のソロ作品『架空映画音楽集』(1988年)を発表、ソロ名義以外にも"ライフ・ゴーズ・オン"、"ヤートーイ(山本精一)"、近年では"CTO LAB"、"UKLENICA"など精力的に活動中。