結局自分の快楽の為ってとこに行きついた
──レコ―ディングはどうだったんですか?
レコ―ディング、今回は特に。アンプがちょっと壊れたくらいで、トラブルもなく楽しくやれました。
──いままでのレコ―ディングとなにか違っていましたか? 自分で仕切るようになって。
やっぱり全部が見えているから。自分の頭のなかですごく整理されているというか。そういう感じはあったけど。でも録りはじめたらいつもとそんなに変わらないんじゃないかな。あとはエンジニアとの相性くらいで。いままでディレクションとミックスはけっこう任せていたからね。BERA(石塚BERA伯広)(編注)ちゃんに。
編注
石塚BERA伯広は初期・筋肉少女帯や大槻ケンヂとの電車のギタリストとして活躍し、SOFT BALLETや戸川純のヤプーズにも参加。他アーティストのサウンドプロデューサーとしても活躍していたが、2019年2月26日に交通事故により逝去。その4日後の岡山での戸川純ソロプロジェクトにヤマジが急遽ピンチヒッターとして参加。同年8月に開催された〈戸川純40周年 ヤプーズの不審な行動『令和元年』レコーディング・ライヴ〉より、ヤマジが後任としてギターを担当する。
──ベラさんいなくなって、自分でやらなくちゃいけなくなった?
うん。なにもかも相談してたので面倒くさくなったよねぇ(笑)。
──ヴォーカルいなくなったから自分がやらないといけない、面倒くさい。マネージャーがいなくなったから自分がやらないといけない、面倒くさい。プロデューサーがいなくなったから自分でやらないといけない、面倒くさい(笑)。
うんうん。どんどん追い詰められて(笑)。ついに自分で全部やるようになりましたよ。
──そんなに面倒くさいけどやっぱりアルバムは作らなきゃいけないと思ったわけですね。
スタッフのケイタと団長に「来年はリリースですね!」って、すごくけしかけられて。面倒くさいって言ってたんだけど、他のバンドが忙しいのを言い訳にしてずっとやってなかったのは自分でもわかっていて。そろそろ優先的にやらないとまずいなと。
──なるほど。制作過程は?
自分でやるとなると全体像が見えているから。1月にまず、なんの曲を録るのか自分で決めて。2月にはとりあえず歌詞を全部作って。3月には曲を全部完成させて。4月にはプリプロをやるっていう感じで。
──高円寺HIGHでアルバムの曲を全部やるライヴというのをやっていましたよね。
それはね、5月。ライヴで一度試してみたかった。
──そういうの珍しくない?
珍しいと思う。いままでは曲作って、すぐレコーディングしてたからね。今回は自分でやっているからできたたんだろうね。
──つまり、なにがやりたいかということはアルバムを作る時からハッキリしていたんだ、自分のなかで。
作ると決めてからね。
──どんなものを作りたかったんですか?
テーマは「快楽」と「メメント・モリ(編注)」だね。
編注
メメント・モリ──ラテン語で「死を想え/自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という意味がある。
──そのふたつはどこか繋がってますね。どういうところから出てきたのでしょうか?
結局、オレはなんのために音楽をやるかというと。別に誰かになにかを訴えたいわけでもなく、誰かを応援する気も全くなくて。結局自分の快楽の為ってとこに行きついたよね。
──自分がきいて、やっていちばん気持ち良いことをやろうという。
そうそう。あとメメント・モリっていうのは、去年10月に共演した鮎川誠さんはじめ、どんどん亡くなったりするなかで思ったんじゃないかな。
──快楽といってもいろんな種類があって。
そうそう。
──さっきの、ライヴをやっている時がいちばん気持ちいいみたいなことを言っていたけど。それと通じる話なんですか?
それもある。音を出して気持ちいい、そうね。

──今回のアルバムを聞いて思ったのは、いま、アルバムの長さっていうのは、世間一般の流れから言うと、みんな短くなっているわけですよ。
それ、知らなかったよ。
──たぶん、アナログレコードを出すために、30分とか40分の間でまとめようという。アメリカのミュージシャンとかは完全にそうなっているから。
そうか、そうか。
──ストリーミングになったら何分でもOKみたいになっちゃったから、どんどん長くなっていったけど。そんなに長い間、集中できないじゃないですか。それに気付いていま、みんな短くなってきてるんだけど。でもこのアルバムは72分とかあって。
あるね(笑)。
──なげぇ!と思ったんだけど(笑)。だけどこの長さがどうしても必要だったんだなというのも非常によくわかったというか。
うんうん。9年も間があったからね(笑)。
──9年の間にたまったものがこの72分に!(笑)
なるよね(笑)。
──1曲が長いじゃないですか。
うん。これでも短くしたんだよ(笑)。
――1曲もアルバム全体も長い。でもヤマジ君の言う「死に至る快楽」みたいなものを表現するこれだけの長さが絶対必要だったんだなと納得しました。
そうそう。
──高円寺のライヴで全曲やった時に初めてやった曲というのはいっぱいあった?
あるある、半分くらいはそう。
──ライヴをやって行くうちにそれはどういう風に変わったのか。
長い曲は主にクラウトロックっぽいのが多いんだけど、クラウトロックって基本ワンコードでビートをずっと繰り返すじゃん。その曲を10分だったら10分聞かせるって、相当な……なんというか、メリハリがないとだめというか。メリハリがなくても良いんだけど、鳴っている音が相当気持ちよくないとだめというか。そこをちょっとずつ詰めていた感じ。ここは長いなぁとか、この音は気持ちよくないなぁとか。そういうのが……ベースも、もうちょっとこういう風に変えてみて、とか。そんな感じかな。
──やっていくうちにどんどんハマって行くみたいな感覚というか、そういうのが感じられることはけっこう大きいですよね、長い曲だと。
ある。それはいちばん大事。
──それにはなにが必要なんですかね。
やっぱり、ビートはまず、回転していないとだめでしょ。
──回転。
どんどん繋がっていく感じ。そこにべったりくっついたベースでしょ? その上に乗っかるウワモノだよね。それが俺でしょ。なにが必要って……そこら辺は感覚だから、わからないよね。
──だいぶ前に吉祥寺のヤマジ君の弟さんの家でインタヴューした時に、聞かされたんだよね。 ジョイ・ディヴィジョンかなんかの曲のフレーズを延々と繰り返して、3人で演奏している練習テープ。10分か20分か、同じフレーズをずっと演奏してるの。
(笑)。あったかもしれない。
──これがdipの感覚の原点というか。ずっと同じフレーズを繰り返しているだけという。でも繰り返しているうちに異常にハマってきて、なにか違う景色が見えてくるみたいな。
うんうん。
──この人たちはスタジオの練習でもそういうことをやっている。要するに、練習で難しいことをやろうとしているんじゃなくて、同じことをずっと繰り返すことによるハマリ具合の感覚を探索しているんだなと。
あった気がする。15〜20年くらい前じゃないですか。(弟の住んでた場所が)吉祥寺だとすると、暗黒時代の末期。だから家にまで呼びつけたりしていたわけだよね。外に出たくないから(笑)。
──そういう時代と連なっている感覚というのがいまもあるわけだ。
その頃に知って良かったのは、ハマる感覚だよね。物事を端から端まで知るというのはすごく良いことだと思うね。
──その感覚の再現ですね。
うんうん。シラフでそれをやると、もうちょっと引いて見れるから。こう、アディクトにしかわからない長さみたいな。そういうのから抜けられているんじゃないかなと思う。アディクトはもう、時計が違うからね。時計の進み方が違うから(笑)。
──気づくと一時間経っているとかね。
そうそう(笑)。そういうのじゃなくなった。適度な長さというか(笑)。それでもけっこう長いけどね。
──昔からあるいわゆるサイケデリック・ロックってそういうのが多いと思うけど、ループというか、同じリズムを繰り返しやっていってだんだんハマって行く感覚をレコ―ディング作品でちゃんと再現できているって珍しいなと思って。
なるほどね。そうかもしれない。
──そういう曲が12曲も入っていたら、それは長くもなるよなと。
本当ですよね(笑)。