自分みたいな人間はクリスマスソングってあまり作らないと思う
──今回、J-POP的な楽曲構造は意識しましたか?
諭吉 : 一番シンプルだなと思ってるのが「BAD EVE」で、わりとシンプルな構成ですし、メロディーの感じもすごくポップで、一番クリスマスらしい曲かなと思って自分でも作っていた曲で。クリスマス縛りでやってるから、「こんなキャラでしたっけ?」って思われるような直球な曲もやっていいのかな、って思えたっていうのがありますね。
──その「BAD EVE」は、ストレートなラヴソングに聴こえて驚きました。今回は、歌詞のテーマやストーリーが見えやすいように意識したのでしょうか?
諭吉 : 全曲クリスマスに関わる曲にするっていうことと、絶対に「クリスマス」っていう言葉を入れるっていう縛りを自分の中で決めて。「BAD EVE」のストーリー的には、ふたりの人間がいて、クリスマスを一緒に過ごすはずだったけど、片方が何らかの理由でその場に来れなくて、その来れなかったほうの人が用意したクリスマスソングを、もうひとりが聴いてるっていうイメージで作ったんです。自分が今回クリスマスの曲を作れたんで、自分に仮に親密な間柄の人が居たとして、自分が死んだりして約束を守れなかったとしても、このEPを聴いてもらえるかな、みたいなことを考えながら作りました。
──すごいことを考えながら曲を作ってますね。「GOOD JOb」のベースラインなど、ジャズの要素を感じることが諭吉さんの音楽にはありますが、聴いているからでしょうか、偶然の結果でしょうか?
諭吉 : 全然聴いてなくてもジャズみたいなものを想像して「ジャズ好きだな」って言うことはできるけど、よく知っていて、すごく聴いているかというと全然聴いてないと思います。断片的なイメージの上澄みを勝手にもらって作ってるっていう感じですかね。だから秩序のない感じで、それが良いのか悪いのかちょっとわからないんですけど。
──「summer C」のピアノのフレーズはサルサで驚きました。
諭吉 : これに関しては「ラテン」って検索して聴きました。ピアノのフレーズがあって、パーカッションのああいう感じがあって……「ああいう感じ」としか言えないんですけど(笑)、正直イメージで作っちゃってるところがあるんです。
──逆に言うと、検索しただけでこれが作れるって恐ろしい話だなと思ってます。「DAY」のリズムのズレ方には、J・ディラ以降のビートを感じます。
諭吉 : すみません、わかんないんです(笑)。歌詞的には、12月25日が誕生日の人が「今日は誕生日なのに、おまえらクリスマスのことばっかり考えやがって」みたいにキレてるんです。「私たちは僕たちは閉じこもって、ふたりだけで誕生日パーティーしましょう」みたいな話なんですけど、それがエスカレートして本当に閉じこもる感じになったら怖いなあと思って、その怖い感じをリズムで出したりして。
──ふだん聴いている音楽の影響で作っているのかなという固定概念があったのですが、検索して作ったり、イメージから作ったり、全然違う作り方をしていますね。
諭吉 : 正直、自分でもどうやって作ってるのかよくわからないし、正しいのかわからないんです(笑)。
──「ショック(X'mas Remix)」のリミックスはご自身でされたのでしょうか?
諭吉 : もちろん。もともとクリスマスからわりと遠い感じの曲だったけど、電子音っぽいものがそんなにないのでいいかなって思いました。
──諭吉さんの作品にはアブストラクトなイメージもありましたが、今回はメジャー・アーティストとして「売れる」ことは意識したんでしょうか?
諭吉 : 意識はしてないです。自分の考えとしては、クリスマスっていうすごく大きなテーマを借りて、クリスマスっていうテーマがなかったらやりづらいようなことをやってみようって思ったっていうのがあるので。
──以前のインタビューで、消費されたいと発言していましたが、それが「売れる」ことで実現できそうでしょうか?
諭吉 : 結果的にそうなる分にはいいけど、「広く聴いてもらおうって思ったから、この曲ができたんだな」って、自分で思いたくないんです。まぁ、綺麗事かもしれないですけど(笑)。
──それで「BAD EVE」みたいな曲が作れるんだから問題ないと思います。友達もできないと発言していましたが、最近はどうでしょうか?
諭吉 : 多くの人が想像するような「友達」はいないんですけど、最近、大阪でLAUSBUBさんにライヴに呼んでいただいて。同い歳のふたり組で、「友達になりたいです」って言ってくださって、「友達ってどうやったらなれるんですかね?」って言って、とりあえずグータッチしました。
──「友達ってどうやったらなれるんですかね?」って、すごい投げかけですね。
諭吉 : ですね、投げかけてしまいました(笑)。たとえば地元の人とかだったら、「じゃあこれから頻繁に会いましょう」とかなるかもしれないけど、北海道の方なので別にその友達活動をこれから頻繁にできる距離ではないじゃないですか。自分の友達活動が本当に久しいから、どうやったら友達になれるのか何もわからなくて。
──「友達活動」という表現も初めて聞きましたね。
諭吉 : それで感じとっていただけたら(笑)。
──同世代で一緒にやってる崎山蒼志さんや長谷川白紙さんは友達の感覚ですか?
諭吉 : 正直、友達と思ったことはないです、悪い意味じゃなくて。歳も上ですし、音楽で出会った人ですし、「音楽の人」というイメージが先行してしまって。
──この作品のリリースを機に「EP出したので聞いてください」と誰かに連絡して、それがきっかけで仲良くなる、みたいなことはありそうですか??
諭吉 : そういう行動が他の人にとっては普通のことなのだとすると、自分にそういう積極性がないせいで友達がいないのかもしれないのかなと思いだしました。知り合い相手にも、自分からLINEとか絶対にできないです。もう受け身です。
──J-POPのインタビューだと、「今回のアルバムはどんな人に聴いてもらいたいと思いますか?」という締めがよくあるんですけど、あえて今、諭吉さんにそれを問いかけてみようと思います。
諭吉 : でも、その質問にわりと答えられるかもしれないですね。自分みたいな人間はクリスマスソングってあまり作らないと思うので、世の中のクリスマスソングを聴けない人というか、あえて作られたクリスマスソングのほうが、かえって受け入れやすいという方もいると思うので、そういう方に聴いてもらえたらいいかもしれないし。その意外性なしでもクリスマスソングとして聴けるものになったな、っていうのも思っていて。……でも、そしたら結局誰にっていうことじゃなくなっちゃいましたね。何も言ってないことになっちゃうんですけど、聴きたい人に聴いてもらえたら(笑)。

編集 : 西田健
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諭吉佳作/men ディスコグラフィー
PROFILE:諭吉佳作/men
2003 年生まれの音楽家。
2018年、中学生の時に出場した「未確認フェスティバル」で審査員特別賞を受賞。iPhone のみで楽曲制作をスタートし、次世代の新しい感覚で生み出される唯一無二の楽曲センスと、艶のある伸やかな歌声で注目を集める。
インディーズバンド音楽配信サイト「Eggs」では年間ランキング2位を獲得。音楽活動以外にも、執筆活動やイラストレーションなどクリエイティブの幅は多岐にわたる。
2019年、崎山蒼志とのコラボレーション楽曲「むげん・(with 諭吉佳作 /men)」は100万再生を突破。でんぱ組.inc へ「形而上学的、魔法」「もしもし、インターネット」の楽曲提供を行い話題に。
2020年、坂元裕二朗読劇 2020「忘れえぬ、忘れえぬ」の主題歌およびサウンドトラックを担当(公演は2021年4月14日 ~ 4月26日に振替)。
日本テレビ「マツコ会議」やEテレ「前山田×体育のワンルーム☆ミュージック」などテレビへの出演、雑誌「文學界」や「ユリイカ」への寄稿、MUSICA2月号にて注目の新人に掲載など、音楽活動以外にも、執筆活動やイラストレーションなどクリエイティブの幅は多岐にわたる。
■公式HP https://www.toysfactory.co.jp/artist/yukichikasakumen
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