多彩なコラボを収録したTAKU INOUE、3年半ぶりとなる待望のセカンドEP「FUTARI EP」をレヴュー

数々の大ヒット・ゲームの楽曲を手がけ、またソロ・アーティスト、そして近年はさまざまなano、DAOKO、Eve、星街すいせいなどなど、VTuber / シンガー / アーティストなどのプロデュースをてがけるTAKU INOUE。2022年には、星街すいせいとのプロジェクト、Midnight Grand Orchestraをスタートさせ華々しい活動も見せている。そんな彼がここに来て、自身の名義として、まとまった作品としては2021年のファーストEP「ALIENS EP」以来となる待望のセカンドEP「FUTARI EP」をここにリリースした。さまざまなシンガー、そしてビートボクサー・クルーなどとの共演、インスト楽曲を含めた5曲を収録している。
また本EPとともに原口沙輔、tofubeats、Musicarus、PAS TASTA、Hylenと豪華リミキサー陣によるリミックス集も同時に配信リリースされることになった(初回生産限定盤に Disc2 [Remix CD] として収録)。
OTOTOYではTAKU INOUEがバンダイナムコゲームス時代に、『リッジレーサー』シリーズなどをゲーム・プランナーとして、ともに手がけ、最近ではハウスのトラックメイカーとして海外レーベルからもリリースしている、寺本秀雄によるセカンドEPレヴュー(対象はオリジナル・ヴァージョンのみ)をお届けする。
3年半ぶりのソロ名義EP、ハイレゾ配信中
こちらは豪華リミキサー陣を招いたリミックス集
TAKU INOUE『FUTARI EP』爆音レヴュー
文:Spinnage(寺本秀雄)
2021年12月に発表された前作「ALIENS EP」から数えて3年半。TAKU INOUE待望のセカンドEP「FUTARI EP」がついにリリースされた。個性豊かなアーティストたちをフィーチャーして生み出されたこの珠玉の5曲EPを一足早くレヴューする機会に恵まれた僕は、それなら絶対に爆音で聴いてみたいと考えた。それもヘッドフォンではなく、身体で音を感じたい。爆音上映ならぬ爆音レヴューだ。とはいえ、都内の集合住宅に住む僕が部屋で鳴らせる音量には当然ながら低めの限界があるので、バンド練習用のレンタルスタジオを借り(※個人練習扱いだと比較的リーズナブルに借りられるスタジオなのだ)、サブ・ウーファーつきのサウンドシステムでガンガンに鳴らしてきた。それはもう、シンプルに最高の体験だった。

「爆音」といっても常に音が大きいわけではなく、無音から最大音量までのレンジが広いイメージだ。TAKU INOUEのサウンドには静と動、小さな音から大きな音まで情報量豊かな魅力があるけれど、今回爆音のダイナミックレンジで「FUTARI EP」を聴いて、僕はそれを再確認した。細部にわたってディテールが作り込まれている。聴き所満載だ。
金曜の深夜、スタジオはたっぷり5時間借りてる。何度でも、各曲を聴いていこう。
多彩かつ多才なゲスト陣とのコラボ
1曲目は、先行シングル曲でもある“ライツオフ(feat. なとり)”。ジャジーなイントロからボーカルが入り、そしてTAKU INOUEの奏でるギターの音が左右から溢れ出す。弾むようなキックの音、跳ねるベースが心地良い。永山ひろなおのピアノ・ソロは輝き、そしてなとりのボーカルは華やかだ。
2曲目、ロクデナシのボーカル、にんじんをフィーチャーした“トラフ (feat. にんじん from ロクデナシ )”。この曲もTAKU INOUEのギターの軽やかな音色が強く印象を残す。にんじんの、切なさを孕んだ切れ味鋭いボーカルが、強く5つに打たれる固いキックと響き合う。ねじれるようなシンセのストレンジ・サウンドが全体の質感に変化を与え、さらに印象的なノイズで曲が終わる。
続く3曲目はインストゥルメンタル曲“FUTARI”。直前のノイズと対比するかのようにオーガニックな味わいで重ねられたTAKU INOUEのギターはここで主役の顔を見せる。さらに彼のシグネチャー・サウンドのひとつといえる複雑で立体的なブレイクビーツが、天上から降り注いでくる。あまりにも楽しい1分8秒だ。
4曲目は、ヴォーカルになるみやを迎えた“ピクセル(feat. なるみや)”。サブ領域のベースの低音が身体を包む。なるみやのヴォーカルも、はかなげなニュアンスで言葉のひとつひとつを優しく包んでいて、ドラマティックなトラックと共に胸に迫ってくる。TAKU INOUEが得意とするSE使いはここでも冴えていて、特に絹のような雨音が美しい。
あっという間のラスト5曲目。昨年リリースされ、春野とSARUKANIのフィーチャリングが話題となった“ハートビートボックス”。開始0秒からSARUKANIのヒューマンビートボックスのスキルに驚かされる。そして春野のヴォーカルは複数のテイクが慎重にレイヤーされていて、まるでプリズムを通してみたようなきらめきがある。そしてベースのローエンドが伸びやかに唸る(サブウーファーのあるスタジオを借りて良かった!)。暗い闇の先に希望がみえるような感覚を残して、EPは終わる。
豪華ゲスト陣を自らの作品へと招き入れる、TAKU INOUEの豊かな個性
こうしてダイナミックレンジの快楽に溺れながら、僕はルビンの壺(ルビンの杯)をあしらったジャケットのイメージを眺め、「FUTARI EP」というタイトルについて考えていた。
“ライツオフ”での、ピアノ・永山ひろなおとヴォーカル・なとりというふたりの共演。“ハートビートボックス”での、春野とSARUKANIというふたりの響き合い。そして、にんじん、なるみやという気鋭の女性ボーカルたちとTAKU INOUEという個性の響き合いももちろんふたりなのだが、それ以上に、僕にはTAKU INOUEとTAKU INOUEの響き合いがあまりにも「FUTARI」に思えたのだ。
この3年半の間に、僕らは例えば紅白歌合戦やTHE FIRST TAKEでギタリストとしてのTAKU INOUEの姿を目にしてきたけれど、そんなプレイヤーとしてのTAKU INOUEと、プロデューサーとしてのTAKU INOUEの対話が、各曲からきこえてくる。ギタリストTAKU INOUEの奏でるフレーズは、トラックメイカー、TAKU INOUEによってDAW上で大胆かつ慎重に再配置されている。作詞家のTAKU INOUEとコンポーザー、TAKU INOUEの関係にも、前作「ALIENS EP」以上の緊張感があふれている。
TAKU INOUEの「ソロ」プロジェクトでありながら、さながら群像劇のように豊かな個性の立体感で聴かせる「FUTARI EP」。OTOTOYでも24bit/48kHzのハイレゾ音源で配信しているので、ぜひチェックして欲しい。一篇のオペラを堪能するかのようなその魅力は、爆音でなくても、きっと多くのリスナーの耳に届くだろう。
その上で、もし機会があれば、クラブで爆音でも聴いてもらえたらと思う。高い音圧で浴びる「FUTARI EP」は、音楽に没入する喜びにあふれていた。DJの皆さんには、ぜひ現場でこの5曲を届けて欲しい。何卒!
3年半ぶりのソロ名義EP、ハイレゾ配信中
こちらは豪華リミキサー陣を招いたリミックス集
関連作品
前作となる2021年のメジャー・ファーストEP
星街すいせいとのMidnight Grand Orchestra
PROFILE
TAKU INOUE
サウンドプロデューサー / コンポーザー / DJ
「アイドルマスター」シリーズや任天堂と Cygames によるアクションRPGアプリ「ドラガリアロスト」などゲームの楽曲をはじめ、ano、DAOKO、Eve、星街すいせいといったアーティストのサウンドプロデュースや楽曲提供を担当する。 2021年に〈TOY'S FACTORY〉内のレーベル〈VIA〉より「3時12分 / TAKU INOUE & 星街すいせい」でメジャー・デビュー。 2022年に星街すいせいとのプロジェクト、Midnight Grand Orchestraを始動。 7月にファースト・ミニ・アルバム「Overture」を発売し8月にVIRTUAL LIVE「Overture」を開催。 2023年12月13日には新曲「夜を待つよ」や「Midnight Mission」等を収録した2ndミニ・アルバム「Starpeggio」が発売。2024年2月20日には初となる有観客ライヴ、Midnight Grand Orchestra 1st LIVE「Midnight Mission」を〈豊洲PIT〉にて開催。
TAKU INOUE公式アーティスト・ページ(各種SNSはコチラから)
https://taku-inoue.com