日曜日が楽しい人たちばかりじゃない

――2023年にリリースのEP『だ』に収録された「らぶりありてぃ」が、リアレンジされて「らぶりありてぃ -la dolce vita-」となって本作に収録されていて。本当に素晴らしい楽曲でありアレンジだと思うんですけど、この曲では元々は「俺は嘘も嘘と楽しめるし 宇宙をイメージ」と歌っていたところが、今回は「もう嘘も嘘と楽しめるし 宇宙をイメージ」と歌詞が変わっていますよね。“俺”という言葉を外したところに、個人的には大きな意味を感じて。音楽から自意識みたいなものを消していこうとしているというか、自分の作った音楽を、自分から手放そうとしている部分があったのかなと思ったんです。
小池:それもありますけど、あとは単純に“俺”という言葉の発音が、この曲のムードに合わなかった。語感とか、聴き心地の問題ですね。意味的な面で言えば、おっしゃっていただいた部分もあるんですけど。
――その意味的な部分というのは、小池さんご自身で言葉にするとどんな感覚なんですか?
小池:そこまで強い気持ちではないけど、「もうそろそろ、いいんじゃん?」的な感覚ですね。「もうどうもでもいいじゃん、そういうこと」の「もう」。「もう、そういういうのいらなくない?」っていう意味での「もう」ですかね。
――the dadadadysになって最初のリリースとなった楽曲「ROSSOMAN」も、リアレンジされて「ROSSOMAN -void-」となり収録されていますけど、やはり重要な存在の曲であり、ファースト・フル・アルバムに入るのは必然でしたか?
小池:そうですね、相応しいなと思いました。この曲は、聴いたことがあるけど聴いたことがないような曲で、なおかつ、自分が心掴まれる曲にできたなっていう手応えがあったんです。自分は音楽が好きなのでそれなりに聴いてきた自負はあるんですけど、曲を聴くと大体、イントロの10秒くらいで「こういう流れで、こういうこと歌ってるんでしょ?」ってわかっちゃうんです。だからこそ、自分の曲はそういう曲にしたくないっていうのはずっとあって。自分が退屈になるような曲は作りたくない。この曲ではそれができたと思うし、前のバンドのtetoのイメージも払拭できるし、自分が今まで聴いてきた音楽の足跡も辿っている。で、自分のマヌケだったり下世話だったりする部分も歌詞に入れることができた。この曲を作って、切り開けたような感覚があったのを今でも覚えているんです。the dadadadysとして1作目でそれができたことも素晴らしいなと思ったし。この曲はアルバムに入れたかったですね。まあ、この曲を聴いて「いいね」なんて言う人はほとんどいないと思いますけどね。
――そんなことないでしょう(笑)。
小池:いや、俺はそれでいいんです。みんながみんなこの曲を理解できたら、それはそれでつまんないというか、退屈になっちゃう気がして。やっぱり、クラスの真ん中で明るい人が物真似をとかで笑っているのもいいんですけど、隅っこで、頭使ってブラックユーモアとかを出し合っている方が楽しい瞬間もあるじゃないですか。俺はどっちかというとそういう方に惹かれてきたし。自分はそっちでありたいんですよね。
――教室の隅っこのやつでいたい。
小池:「これを理解できるのは自分だけだ」みたいなのがいっぱいあると、楽しいから。で、そういうものが意外と「これって、実はこんなに人気があったんだ!」となると、より楽しいし。そういうものを目指していきたいんですよね。
――お話を聞いていると、小池さんは「わかり合うこと」と「わかり合わないこと」、どちらにも強烈に惹きつけられているというか。どちらをも求めている感じがしますね。ある意味、とても引き裂かれている。
小池:どっちかだけだと嘘くさいなと思っちゃいますね。どっちかだけだと「それ嘘じゃん」と思っちゃう。嘘もいいんですけどね。ただ、バレるのは面白くないというか。あまりにも嘘くさすぎるのは、つまらない。そのくらいのバランス感覚でやってます。
――「嘘」という点で言うと、「らぶりありてぃ」というタイトルの曲があり、本作の最後を締めくくる「吾亦紅」でも「拙いキャストでもリアリティを愛し」と歌っていますよね。「リアル よりリアリティ」というのはTHE HIGH-LOWSの「14才」の有名な歌詞でもありますけど、「リアルよりリアリティを選ぶ」というスタンスは、the dadadadysにあると思いますか?
小池:リアルってもはや嘘なんですよ。陰謀論みたいに聞こえると嫌ですけど(笑)、「これはリアルだ」と言っているものって、そもそも嘘だらけで構築されてきたなんですよね。だって、本当のリアルなんて共有する必要もないんだから。「リアルに近い生き方」みたいなものを共有するのが、社会とか、音楽における関係だよねっていう。そういうところで共鳴していけたらなって思いますよね。
――本作の特設サイトで、KANA-BOONの谷口鮪さんと小池さんが対談をされていますよね。その対談の「モォニンググロォリィ」の話の中で、「実は平日よりも日曜日の方が人はキツいんだ」という話をされていて。
小池:はい、はい。
――この感覚は「モォニンググロォリィ」だけじゃなく「ROSSOMAN」にも歌われていることだと思うし、もっと言うとこのアルバム全体に、その前提はあると思うんです。「実は休日の方がキツい」という感覚を抱えながら今を生きている人の心に向き合っている。そういう人たちに向けて、歌おうとしている。このアルバムは前提には、そういう意志あるような気がしました。そういう人や感情に対しての「救済」というと、ちょっと違うかもしれないですけど……。
小池:その言葉はちょっと勿体ないですね、俺の中では。わかりやすい言葉だとは思うけど。
――そうですね。ただ少なくとも、そういう感覚を抱いて今生きている人たちに向けて何かしらのアプローチは仕掛けているアルバムという感じがします。小池さんの中で、今の時代を生きる人たちの姿が鮮明に見えるようになっている、という部分はありますか?
小池:俺の周りがそういう人ばっかなんですよ。陰気臭いんで、みんな。特に山岡なんて陰気臭い。
山岡:(苦笑)
小池:自分自身も含め、なんですけど(笑)。普通に考えりゃ、人は日曜日が楽しいんですよ。でも、そういう人たちばかりじゃないですから。そのくらいの感覚ですね。
――今回、アルバム・タイトルや楽曲のタイトル、歌詞、全てにおいて凄く独特な言葉が使われていますよね。日本語だけど、「初めて見る日本語だな」と思うような言葉たちというか。視覚的な部分での異物感もあるし、ひとつの言葉に多重に意味が含まれていそうなくらい、シンボリックでもある。言葉の使い方においては、どのようなこだわりがあったんですか?
小池:根拠はたくさん詰まってます。ざっくり言うと、アイディアとユーモアセンスとサービス精神って感じですかね。ただ、狙って面白くしたものを皆さん方に「面白い」と思われても、それは劇薬に過ぎなくて。言葉にするのは難しいんだけど、意図的に変なタイトルを付けるのは簡単だけど、それだけだと楽しくはないんですよね。
――音楽に劇薬を求める人もいますよね。そういうものとは違うものでありたいですか?
小池:違うものでありたいですね。劇薬をやっちゃって、それがウケた時に「なんでそれがウケたのか?」を自分が理解できなかったとしたら、その感覚が怖い。新しいアイディアを連発できるような器用さも自分にはないし。僕は不安だし、怖がりなので、自分の表現を裏付ける説得力みたいなものは、自分の中に身に付けていたいです。
編集 : 石川幸穂
喜怒哀楽、起承転結てんこ盛りの痛快なファースト・アルバム!
ライブ情報
the dadadadys TOUR 2025
(ホォリィ)モォニンググロォリィ ~ぎらぎら悶絶編~

2025年8月22日(金) 渋谷 La.mama
開場 18:30 / 開演 19:00
2025年9月5日(金) 横浜 F.A.D
開場 18:30 / 開演 19:00
2025年9月15日(月祝) 名古屋 CLUB UPSET
開場 16:30 / 開演 17:00
2025年9月17日(水) 大阪 246 LIVE HOUSE GABU
開場 18:15 / 開演 19:00
2025年9月19日(金) 福岡 The Voodoo Lounge
開場 18:30 / 開演 19:00
2025年9月20日(土) 広島 4.14
開場 17:30 / 開演 18:00
2025年9月26日(金) 札幌 Bessie Hall
開場 18:30 / 開演 19:00
2025年9月28日(日) 仙台 FLYING SON
開場 16:30 / 開演 17:00
2025年10月5日(日) 長野 LIVE HOUSE J
開場 16:30 / 開演 17:00
2025年10月10日(金) 恵比寿 LIQUIDROOM
開場 18:00 / 開演 19:00
【チケット】
前売り 4,400円(D代別)
学割 3,400円(D代別)
※学生証持参必須(コピー不可) / 公演当日提示できない場合は差額1,000円お支払いいただきます。
the dadadadys の特集記事はこちらから
the dadadadys のほかの作品はこちらから
PROFILE : the dadadadys

小池貞利(Vo / Gt) , 儀間陽柄(Gt) , 山岡錬(Gt) , 佐藤健一郎(Ba) , yucco(Dr)
2022年1月、tetoとして6年間の活動をしていたボーカル / ギターの小池貞利、ベースの佐藤健一郎に加え、あらたに元2のドラマー、yuccoが正式加入し、この3人でthe dadadadysを結成。同年4月、サポートギターとして参加していた山岡錬が正式メンバーとしてバンドに加入し、4人編成となる。2023年1月、儀間陽柄(ex.ヤングオオハラ)がバンドに加入し、現在5人編成で活動中。
■Official Site : https://dadadadys.com/
■X : @dadadadys_info
■Instagram : @dadadadys_info
■YouTube : @thedadadadys
■1st Full Album『+天竺 』特設サイト : https://dadadadys.com/10/index.html