2025/07/09 18:00

コミュニケーションは、実は半ば諦めている


――では、「このアルバムはコミュニケーションを求めているアルバムだ」という観点でいうと、小池さん以外の皆さんはどんなことを感じられますか?

山岡錬(Gt)(以下、山岡):外に向けてじゃないですけど、このアルバムはメンバー間で結構コミュニケーションを取っていたなって、話を聞いてちょっと思い出しました。今までより、もうちょっと深いところで話せているような感覚は僕の中にはあったんですよね。なので、そういう意味で「コミュニケーションをとったアルバム」という部分は僕の中にはあるかなと思います。それが第三者から見てどう映るのかまではわからないですけど。

――「深いところで話した」というのは、具体的にどういったことなのでしょうか?

山岡:時間のことが大きいと思います。単純に、曲についてみんなで話し合っている時間が多かったんです、今回は。

儀間陽柄(Gt)(以下、儀間):ミックス段階でも、向き合い方が何段階かあったなと思っていて。曲ができた時点で「こういう感じになるだろう」となっていたところから、ミックスでまた色が変わっていく感じが今回は結構あったんですよね。これまでのアルバムともちょっと違うミックスになっていると思うし。そこで、おっしゃっていただいた「コミュニケーション」という部分が色濃く出るようになったのかもしれないなと思うんですよね。

――yuccoさんはどう思いますか?

yucco:私も、外に対してはわからないんですけど、作っている間のメンバー間のコミュニケーションがいちばん深い作品になったというのは思います。曲を作りながらレコーディングしていった分、「こうしよう、ああしよう」ってみんなで言い合いながら作るということが今までで一番できた気はしますね。

――小池さんの中にもそういう感覚はありました?

小池:いやあ、どうかなあ……。音やフレーズに関して、相手の立場になって作ることは増えた気がしますけど。

山岡:貞ちゃんはあんまり変わってないんじゃない? あくまで、僕ら個人が変わったというか、もっと知ろうとするようになったというか。

――佐藤さんはずっと長く小池さんとバンドをやられてきた歴史も踏まえて、どう思いますか?

佐藤:時間や歳を重ねた分の経験や空気感は、僕は小池さんとは絶対に共有はできているので。そういう意味では、いい意味で、僕自身はサボるようになった部分もあるんですけど(笑)。音源を作るという点で言うと、フレーズや音に頼ってコミュニケーションを取っていた部分を言葉にしてみたりした部分が、今回はあったかもしれないですね。

小池:あ、俺が説明するようになったかもしれない。理詰めで。

佐藤:それは知らん(笑)。

小池:健一郎とはもう長いから、肉体的なコミュニケーションは今まで散々やってきたし、お互いがお互いのことをいっぱい考えてきたのはあるんですけど。でも、他の3人はあとから入ってきてくれたメンバーで。そういう関係である以上、「お互い、すげえ仲良しになろうぜ!」みたいな感じじゃなくても、俺はもういいと思っているんですよ。「メンバー」という時点で俺はもう家族みたいなものだと思ってる……かと言えば、思ってないけど(笑)。

――(笑)。

小池:でも、家族くらい大切な人たちではあるから。だからもう必要以上に仲良しじゃなくてもいいかなって思う。ただ、音楽については共有した方がいいことはいっぱいあって。The dadadadysの音楽は5人で作るものだから。それを言葉にして共有するようになった感じだと思います。言葉にしようとすると結局、説明するのは自分の主観の美しさみたいなものにはなっちゃうけど、それでも、それを言語化して共有しようとした。そういう部分は今回あると思います。


――タイトルの『+天竺』、個人的には「ちょっとでもマシになろうとする意志」みたいなニュアンスで受け止めたんですけど、小池さんとしてはどのようなイメージがあって付けられたタイトルだったんですか?

小池:「+」の部分は結構適当なんですけど、タイトルに関しては、いくらでも理由を後付けできるようなものにしたくて。「天竺」という言葉自体、きっかけは浅いんです。「10曲入り」だから「Ten」っていう。それにちなんだ言葉遊びと、今の自分のモードに沿ったワードを探して考えたら、「天竺」が出てきたっていう感じですね。

――その、今の小池さんのモードというのは?

小池:対話は求めているんですけど、半ば、諦めてもいるんですよ。コミュニケーションは、実は半ば諦めている。自分みたいに面倒くさい人間が何人もいたら、自分だって飽き飽きするだろうし。でも、その諦めは全然後ろ向きな諦めではなくて。前向きな諦めという感じなんですよね。むしろ、それが今の日本における普通だよなって。そういう感覚ではありますね。こういう思想的な部分を語ると、音楽という芸術であり娯楽に対して聴く人が取っつきにくくなっちゃうので、この話はここまでにしておきたいんですけど(笑)。

――(笑)。じゃあ、「諦め」というのは、このアルバムの中に含まれているものでもある?

小池:そうですね。でも本当の本当に諦めていたら、耳心地がいい感覚のものにはならないんですよ。すべてのコミュニケーションが破綻している、諦めている。もしそうだったら、こういう曲たちにはならないとも思う。たまに心の底から会話をして楽しい人もいるし。そういう人を、俺は常に探しているんですけどね。

この記事の編集者
石川 幸穂

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