oono yuuki band的エクセル活用術

oono:そういうことに絶望している時に入ったばかりの後等くんから樺山くんに電話がかかってきたんです。
──ベーシストとしては看過できない問題ですよね。
後等太一(以下、後等):まあ、そうですね。僕、そんなベースをずっとやってきたってわけでもないんですけど、自分が好きで聴いてきた音楽とか練習してきたことみたいなのと結構ちがうことやってるんで、どうしようかな、とは思いました。
樺山:この曲、どうなってるんですかって(笑)。図をつくったりしたよね。
後等:僕、譜面読めないんで、でも樺山さんはどうやっているんですか、と訊いたら、エクセルに起こしているというから、それはいいわと思って(笑)。
──エクセルに起こすって何を起こすの?
樺山:リフを繰り返す回数を色で示すんです。今回レコーディングまで時間が短かったんで、それをやってみたら助かりました。
後等:それを樺山さんから聞いて、じゃあ俺もそれやろうと思って、手書きでこういう感じで(といってスマホ内でPDFデータを示す)。
──あ、ほんとだ(笑)。
後等:パートごとに色分けして、セルの数が長さ。Aメロあって、Bメロあって、サビみたいなことじゃなくて、抜き差しみたいなかたちで進んでいくから、これが入ってきたから、次、俺はあと4回で抜けるわ、みたいな。これを全部の曲でつくってからリハに入りました。

──ライヒみたいですよね。『stars in video game』(2010年)に「saginomiya counterpoint」という楽曲がありますが、対位法(カウンターポイント)的にいろいろなラインが同時進行して、反復のなかで合ったり合わなかったりする。
大久保:僕は回数を数えはじめたら負けかなと思っています。キメなどは数えますけど、全体を通してはわりと感覚でやっています。メンバーとのアイコンタクトもなるべくとるようにしていますし、たとえば8回繰り返すとかっていうのも8回数えるんじゃなくて、雰囲気的に8回経ったなあ──みたいな受け止め方ですよね。
oono:実際そうやってつくっていますからね。繰り返しの回数なんかは最初は決めてないです。だんだん決まっていったり、佐々木くんが数えてくれたり。
佐々木:今回は数え担当に任命されました(笑)。録音中も、さっきいっていたベーシック録りのとき、僕は演奏するわけでもないのに、真ん中にいてサインを出すんです。
後等:譜面見てやってないのもすごいなと思いますよね。樺山さんに電話したときに「不安なんですけど」っていったら、「パズル解いてる感じだから」といっていました。
樺山:なんか僕、データキャラみたいになってるよね(笑)。それをoonoさんはすごいパズルをつくってやろうとするんじゃなくて、自然とそうなっているのが面白いところかな。それはoonoさんの特性だと思います。ふつうだと4拍とかで割り切れたりすること多いと思うんですが、5だったり7だったり、天然というと語弊があるかもしれませんが──
oono:天然ですよ。
樺山:逆にそのほうが自然なんじゃないかと思います。

──決定稿はどの段階でできるのでしょう。
高橋:レコーディングで完成したんじゃない? それまでずっと未完成の状態で練習していた感じですね、今回は。それは事前にoonoくんにもいっていました、たぶんレコーディングで決まるねって。
oono:ドラムに関しては特にそうだと思います。自分の体に馴染んでないと叩けないもんね。
高橋:初見から1ヶ月くらいでは馴染まないですよ。その点ではベーシックを録ったのは大きかった。実は今回、oonoくんのデモで、いつもキックしかないのに(笑)、フレーズの入っている曲があって、はじめて自分で考えないでそのとおりに叩いたんです。「凍れる」がそうなんですが、自分からは出てこないリズムだったので新鮮でした。あっ、いいんだ、これで、と。そこは今回のレコーディングでの発見です。あと今回の新たな試みとしてはフロアタムを逆にしたことですね。
──どういう理由があるんですか。
高橋:フレーズに合わせる感じで、こっち(左手)側にフロアがあった方が回数的にちょうどいいんです。さらにおいしい特権があって、こっちにあると今いままで出てこなかったフレーズが出るときがあって、それを楽しみにやっています。あと、右側に物が置けるようになりました。
──置くだけならどっち側でもいいんじゃない?
高橋:パーカッションとか金物とかを右に置けるんですよ。
──ああ、財布とか荷物とかじゃなくてね(笑)。
高橋:(笑)今回、ウッドブロックとかビブラフォンの鍵盤、鉄片ですよね、そういうものを吊したりしているので右が空くといいんです。
──今作では主楽器以外の音もけっこう聞こえますね。
高橋:これまでの作品でいちばん使ったかもしれないです。雄大(佐々木)くんが打楽器もできるのもあって。おもしろいもの持ってきたよね?
佐々木:ウドゥ、ナイジェリアの壺のような楽器で、「凍れる」で耳を澄ますと聞こえると思います。
──1曲目の「io」の後半部でも不思議な音が聞こえます。
oono:スプリングドラムですね。風の音っぽいやつ。
──この曲はアルバムの導きの糸でもありますよね。
oono:最初にできたのもこの曲なんです。これでやりたいことができたというか、方針が固まって、そこからは順調にいくかと思いきや、俺は天才だと思う日もあれば、翌る日はまったく何もできず、もう終わりだ、と家族に愚痴ったり。ただ絶対にできるという確信だけはあって、1月に曲つくって、2月に練習して、3月に録ったという、おおまかな進行です。