アーティストたちに危機感をもってほしいです
──自分はXGにも驚きましたが、あのレビューで炎上してしまう様子をみて恐ろしいなと思いました。
まあちょこっとですね。わざとやってるんだけど、まあ、いいや。
──わざとなんですか!
戦略ですね。大きな夢のためなんです。どう思われても、しょうがないです。どんなに叫んでも見てくれないならオナニーなので、顔を向かせなければならないんですよ。
──実際、XGの動画と同時期に出たウータン・クランの楽曲解説とXGの解説動画は、本当に桁違いに回ってコメントの熱量も件数も凄かったですもんね(笑)。
そっちが本命なんですよ! 本当はウータンとかだけやっていきたいですよ? でも注目されなきゃ意味がないんで。ビートメイクだって、本当はただ作ってるだけで勝手に聴かれるならいいんですけど、そんな世の中ではないので。XGのファンがウータンの動画を見かけて興味をもったりしてくれたら嬉しいわけです。
──実際、こうして注目されています。
1年前と比べたら全然違うところにいますね!
──XGの解説をする事で反感を食らってしまうのは、なぜだと思いますか?
なんなんでしょうね。ヒップホップのファンからすると、昔の僕みたいに「そんなのヒップホップじゃねえ!」という拒否感が強いんでしょうね。XGのファンからすると、恐らく「ヒップホップじゃない」と言われるのが癪なんでしょうね。別にXGがヒップホップじゃなくてもいいじゃんって思うんですけどね。本人達もそう言ってないし、彼女達が凄いことには変わりないので。
──そうですね。それに、あそこまで正面から英語のラップに挑戦した例はなかなかないですよね。
アーティストたちに危機感をもってほしいです。どっかのメンズコーチじゃないけど(笑)。ただ、ヒップホップ的に見たときにまだカッコ良くはないかなと個人的に思います。個人的に、ヒップホップとしてはMSCのがカッコいいんですよ。ただ、海外で売れると言う意味ではXGなんですよ。MSCがXGくらいの影響力を持てれば最高ですよね。
──XGはスキルフルだけど、MSCは彼らはこんな荒んだ現実を生きているんだろうなとワクワクさせてくれますよね。
そうなんですよね。とはいえ、MSCが海外で売れるかと言えば、難しい。
──マニアックな人には届きそうですけどね。
そうですね。マニアックな人にはね。ただ、日本は海外で売れたとしてもNujabesやDJ KRUSHとか、サウンドの人なんですよ。ラップとなると沖縄と東京よりも、日本と海外だと更に遠いし、英語の壁にもぶちあたっちゃうんですよね、たぶん。
──でも、反例がありますよね。K-POPです。海外のドームを埋めて、観客達も韓国語で歌います。
いいこと言った。私の見解ですけど、K-POPの人たちは英語も教え込まれてますよ。BTSも“Dynamite”や“Butter”といった大ヒット曲は英語ですよね。注目させてから、やりたいことをやる。まさに自分がやろうとしていることです。XGもプロデューサーは韓国のかたですよね。K-POPは英語をまず叩き込むと理解してるんですよ。でも日本は「いや俺らは俺らでやっていくぜ」っていうマインドが文化的にもあると思いますね。
──音楽だけでなく、ビジネスや色々なことでもそうですよね。
そうですね。社会全体がそうです。もちろん、全て自分でできるなら綺麗ですけどね。それは素晴らしいし、そっちのが好きです。だけどバブル以降不況だし、それが音楽にも通じてるのかなって思いますね。
──ちなみにK-POPを聴いてると、ブラック・ミュージックを直輸入したようなサウンドも多くて、怒られないのかなって思うときがあるんですよね。でも、そこまで大きな批判は起きないですよね。なぜでしょうか。
自分はしてましたよ。娘とかが聴いてると「なんだよこれ、アレじゃん!」って。もう真似というか、そのまま使ってることもあって。でも、それも変えさせられてしまったというか、結果を出してしまったので何の文句も言えないですよね。ていうか、何も言えないですよ、自分如きが。それこそSHOさんですよね。自分も昔はバカにしてましたけど、SHOさんは人生を賭けてますもん。それを知ったときに、「俺には勝てねえ」って思って。それとK-POPは似たような感じじゃないかな。「言われなくてもわかってるわ! わざとだよ?」っていう。結局、最終的にはそれが嫌ならそれよりカッコいいものをやるしかないんですね。だから、こういうやりかたをしているんだと思います。
──では、YouTubeの楽曲解説の裏の目的は、自分の感覚を更に多くの人に共有したいという目的もあるんですね。
もちろんありますね。やっぱり、ヒップホップの歴史のなかに自分の名前を刻みたいという、負けず嫌いなところもあります。でもそれってラッパー、DJ、ビートメイカーをしてる人なら全員そう思ってると思いますね。じゃないと、名乗らないんじゃないかな。もし土俵に乗りたくないなら、ずっと自分ひとりでやってればいいじゃないですか。もちろんなかにはそこまで気にしない人もいるかもしれないけど、殆どの人が持ってると思いますね。YouTubeも、もちろんエゴはあると思います。でも、それよりも日本のヒップホップを本気で変えたいと思ってますけどね。
──思い描くレベルまで日本のラップがもし到達したら、それはどんな世界なのでしょうか。
世界的に日本のアーテイストが認知されている。ナズレベルで。(いまは)いないっす。
──最近はUKや南アフリカからスターが出ています。
そう。そういうのがヒップホップで日本から出てほしいんですよ。そのときにはね、ちょっとばかし俺の名前をインタビューとかで出してもらえたら、俺もう死んでもいいっす(笑)!
──夢をあまり明言されないので、聞いてみたかったです!
聞いてもらえないと、言えないですよ。自分で言うのは難しい。
── 一緒に活動されてる人などは?
ぜんっぜん居ないです。本当にひとりですね。さみしいっす(笑)。でも逆に、いいかもしれない。前はDon Sundayと活動してましたけど、気を使っちゃうんですよね。また頼ってしまうときもありますからね。ひとりになるとたがが外れるというか、やりたいと思ったときに他人に気を使わずにできちゃうんで。
──5人のお子さんの育児と仕事もしながら、かなり活発な活動をされていらっしゃいますが、どのように時間を捻出されているんですか?
自分でもびっくりしてるんですけど、時間っていくらでもあるんですよ。
──…ないですよ(笑)!
空いた時間って誰でも意外とあるんですよ。意外と。スマホをずっと見てる時間を使えばいいっていうか。
──1日の流れはどんな感じなんですか?
朝6時に起きて7時までに仕事に行きます。それで4時に仕事が終わるんですよ。お家に帰ったらすぐウォーキングに1時間くらい行って、戻ってきたら風呂入って飯食って、1〜2時間くらい編集。それでビートメイク。いまはビートメイクの時間を代わりのことに使っていて、それはまだ言えないんです。終わったら12時ころに寝る。
──育児との両立は大変じゃないですか?
編集している間はずっと籠って編集しているわけではなくて、子供になにかありますからね。でも妻が出来た妻で、色々やってくれるんです。ダメな夫かもしれないですけど、週末は買い物とかに連れて行ったりします(笑)。
──1本のビデオを作るのに、どの程度かかるんですか?
曲によって難しさは変わりますけど、リサーチに大体1時間ですね。動画撮るのが1時間で、編集が2〜3時間くらい。合計、5〜6時間くらいですね。
──もしかして仕事中に作業できる環境ですか?
できなくもないですね。それより仕事が長いのは日本の会社の悪いところですよ、ぶっちゃけ。いまの会社は初めてアメリカの会社なんですけど、全然違いますね。基地のなかのパソコンが壊れたら修理に行く会社なんですけど、全然違いますね。もう目からウロコ。残業すると「なにしてんの? まだいるの?」みたいな感じですね。あっちは組合がしっかりしてて、少しでもブラックな労働環境だったら、すぐ辞められちゃいますからね。きっちり4時に終わるのでスケジュールが組みやすいです。休みもしっかり休める。日本もそこをどうにかして変えないと。