VOLOJZAが新作『In Between』で示す“丁度良さ”

松戸や柏といったいわゆる東葛エリアや北千住の個性的でドープなラッパーが所属するレーベル〈VLUTENT RECORDS〉。その首領であるラッパー、VOLOJZAが今夏リリースしたソロ・アルバム『In Between』は彼の軽快なフローと見え隠れする余裕のあるユーモアが確かに感じられる作品になっている。今回OTOTOYではそんな今作の制作過程をサウンド面からリリック、マインドまで様々なポイントから迫るインタヴューを敢行した。
「パンチライン・オブ・ザ・マンス」
ライター、斎井直史がヒップホップやR&Bを中心に、気になった楽曲からパンチラインを紹介したりアーティストへインタビューしたりと自由なテーマで連載中。
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INTERVIEW : VOLOJZA
何周も音源を聴いても、インタヴューしてみないと分からない事も多いものである…。今月のインタヴューをしたのは〈VLUTENT RECORDS〉を率いるラッパー、VOLOJZA。2017年にVLUTENT ALSTONESとして、イルでナンセンスなレーベルを代表するアルバム『2017』を出したものの、自身のソロ・アルバムはなんと6年ぶり。前作『十』について筆者は未だに過小評価されたアルバムだと思っているからこそ、久々のアルバムが何故こんなにも肩の力が抜けているのか尋ねずにはいられません。結果、ナンセンスなようでも先が見えない不穏さを持つサウンドの奥にある、VOLOJZAの構想が朧げに浮かび上がるようなインタヴューとなりました。地に足の着いた自身の哲学と、現実世界に屈さない広い視野を持ちながら、それを前面には打ち出さない今作に慣れないリスナーはクエスチョンを浮かべる人もいるでしょう。以下が本人による解説書のように機能すれば幸いです。
──前作『十』の後、結婚してお子さんが産まれ、それによって音楽性は変わりましたか?
結婚や子供が産まれた事によって具体的に音楽性が変わったりはしてないけど、作品の空気感や歌詞には多少影響しているかもね。
──前作は自身のキャリアだけでなく、30代になるタイミングという記念碑的な1枚でした。そのプレッシャーは?
俺は別格の人気ラッパーとかではないし、それは全然ない(笑)。日々の生活の中で少しずつ製作を進めていった感じ。

──今作『In Between』は約35分という尺の短さもあって気がつくと何周もしてしまいますね。それは意図したものですか?
前作『十』も10曲なんだけど、そのぐらいの曲数と長さが、割りと自分らしくタイトに収録されるのかと(笑)。奇を衒ったり、才気走るものも好きだし挑戦してみる事もあったけど、ここ数年はBPMやビートにおいて自分が丁度良いと感じる体験や音楽をフィードバックした世界観の作品を作りたいと思うようになったね。とても影響受けたのは2016年のソランジュ、ブラッド・オレンジ、フランク・オーシャンなどのアルバム。特にブラッド・オレンジの『Freetown Sound』は、言葉で説明するのは凄い難しいのだけど、かなり衝撃だった。質感は優しくても、人種差別とかのメッセージが押し付けがましくなく、自然に入ってきて、とても良いなと。あとは、テキサスやメンフィスのGラップとか、UKのラップとか、その時々の自分が聴いていた音楽の影響が出てると思います。機材も新しく買って、RolandのMC-303っていうアシッド・ハウスとかに使う機材なんだけど、このレイヴっぽい質感が結構好きで、一般的にはヒップホップでは使われてないけど結構使いました。
──VOLOさんは使う機材が独特じゃないですか。AKAIのXR-20といい、RolandのTR-8といい、人と被らない事を意識してのチョイスなんですか?
ちょっとは意識していると思うんですけど、これ(TR-8)はアルバム制作が終わってからメルカリで購入して「Vlutent Shxt」っていうアルバムの後に出したVLUTENT ALSTONESの曲でしかまだ世に出てる曲はないんだよね。あと(CD版のみ収録されている)自分の奥さんのラップ(笑)。
──XR-20で制作した『VEAZY』(2010)を振り返ると、あの頃からVOLOさんのスタイルの原型であるミニマルな音の構成ができたのかな、とも思いました。
自分の中で、ミニマルでもトラック制作のゴールが来ちゃうんですよ。というか音が増えると逆に嫌というか、自分のスキルが足りないのか、なんか重くなっちゃってダサいとか思ってしまう。
──6年越しのソロアルバムを作ろうと思ったきっかけはありますか?
無い(笑)。まとまったら出そうと考えてたけど、データが消えたり、色々してたら意外に遅くなってしまったのかな。
──2017年にVLUTENT ALSTONES『2017』のリリースもありましたもんね。今作も『2017』同様、ジャケを自身が描いたとの事ですけど、シロイルカの親子が無表情でドクロが転がる河原を散歩するって、どんなイメージを以て描いたんですか?
三途の川のイメージ。栄枯盛衰の間で、自分の丁度良さを、自分の子供なり大事なものを抱えて、どこまで行けるかっていう感じ。
──だから『In Between』なんですね。タイトル・トラックも無いし理由があるのかなって。“Swim”とか何度聴いても、なぜそのタイトルなのかわからなくて(笑)。
自分が曲のイントロの部分でアドリブでスイスイ言ってるところから取ったんですよ。リリックはテーマも決めず書く事が多いから、タイトルにはちょっと悩むよね。(レーベルメイトであり今作に参加した)CHAPAHとKAICHOOは、アルバムのインフォを見て初めてタイトルを知ったと思う(笑)。
──私見ですけどVOLOさんのように子供が出来たからといって親っぽい事を言うでもなく、かといって若いアーティストに負けじとトレンドを追いかける事もしないのは、実は珍しいタイプかもしれないと思うんです。そんな自身を唯一無二の存在として書いたのがリード曲の“One In A Milli”かと(笑)。
自分はセルフ・ボースティングしてるラップにとても醍醐味を感じてるから、割りとベタな感じでやってるけど、なるほど確かに(笑)。あれはフック先行で、後からイメージを膨らませた感じ。沢山の人が生きてるけど、俺もお前も唯一無二、みたいな。最近の世の中の空気もあったり、自分の子供にも窮屈で偏狭な未来で生きて欲しくないっていう気持ちが表れた部分もあるね。
──逆に、多様性を主張する人の言動が、神経質に感じる時もありませんか?
そう感じる時もあるけど、マジョリティー側にいると気がつかない事もあるんだよ。痛みを感じているから痛いと言ってるのに、何も感じない人が大多数だからといって痛みが消える事は無い。皆が痛みを感じているのに誰も声を上げなかったら、その大きな痛みは人知れず悪化していってしまう。そうならない為に、どんどん色々主張して良いと思う。変な例えだけど、そんな感じかな。声に出さないと人に伝わらないって世の常だしね。

──なるほど。確かにそうですね。話は変わりますが、VOLOさんは音楽制作をずっと続けてきて、壁を感じた事は無いですか? 例えば自信作に全く反響が無かったりすると、悩んだりしません? 自分は記事を書き続けながら、そうに壁を感じる時があるんです。
その気持ちは俺もわかる気がする。自分の見込みより、売上とか微妙だとやっぱり落ち込む時もあるよ。でもやっぱり制作は楽しいね。ビートを作ったらラップしたくなるし、今のところ行き詰まりを感じた事はあまり無いかな。ただ壁を感じたことはあって、昔は世界的に最先端であり、かつ日本ではあまりやってる人が居ない曲を作ろうとしていた時もあった。だけど、結局その競争をしても自分には高クオリティーかつスピーディーにリリースするポテンシャルが無い事を、ここ数年で痛感したね。だからトレンド競争に勝とうとするのではなく、かといって古臭くなく、今の音楽を聴く耳にも耐えうる作品にしようと思って、結果的に前作から6年かかっているのかもしれないっすね。
──VOLOさんにこれが3度目のインタヴューですけど、毎回その音楽的な咀嚼力が広くて勉強になるんです。だから〈VLUTENT RECORDS〉内での活動と並行して他のプロデュースとかもしてほしいと強く思ってるんですよ。
是非色々やりたいです! 実際色々そういう話もあるので、形になるよう頑張りたいです。
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