リリックがしっかり分からないなら、なぜ彼らが好きなんでしょうか。
──恥ずかしながら、ShotGunDandyさんの解説から学ばせていただいた事も多かったです。例えば、非常に有名なナズの〈I never sleep, ‘cause sleep is the cousin of death〉“N.Y. State Of Mind”というパンチラインも、note.の解説を読んで、ギリシャ神話や、アメリカ独自の言い回しなど何層もの仕掛けが重なっていると知りました。
ぶっちゃけて言うとそうですよね。だから英語がわかるだけではダメなんですよ。スラングだけでなく、アメリカの黒人たちの意識まで理解してないと。自分は父親がフィラデルフィアの人なので、子供ながらも見てきてはいるんですよね。また叩き込まれるし。親父がシーンを説明しながらスパイク・リーの映画を子供のころから見るわけですよ(笑)。それがわかってないとラップを深く理解するのは無理だなぁって思う。これをいうと反感を食らうだろうけど、「ナズが好き」「ジェイ・Zが好き」「MF DOOMが好き」っていう人は、なんで彼らが好きなんだろうって思うんですよね。だって凄さを理解してないのに。
──耳が痛い質問ですね。それまで見たことがない個性や、ビートが好きなんでしょうか。
でも、ナズがビートを作ってるわけではないです。彼はただラップを乗せてるだけですよ。リリックがしっかり分からないなら、なぜ彼らが好きなんでしょうか。 ファッション性、存在感、色々な魅力がありますが、掘り下げれば彼らはリリックの人なんですよ。
──だから英語圏ではラップがメジャーになっても、日本ではそうでもないのかもしれませんね。リリックも音として聞かれ、耳障りの良いメロディーの方が日本では人気です。
そうそうそう。まさにそれが言いたかったことです。大きな話になりますけど、そこまで理解できないと、いつまでたっても日本のラップは音ばかり追いかけて底上げされないのではないかっていう。MSCのようにライフスタイルに落とせている人もいますよ? ZEEBRAさんやBUDDHA BRANDも、ヒップホップを分かりながら言葉遊びができている。だから皆ではないけど、音だけを追いかけてる人が多いんですよ。それがヒップホップを分かってる人からすれば、見分けがついちゃうんですね。繰り返しますが、全然音だけでやってもいいんですよ。それが悪いとは思わないんですけど、多くの人が(アメリカのラップのリリックの技巧を)分かってくれたら、日本もグッとレベルが上がるんじゃないかなと思います。そう思ってYouTubeを始めたんです。長くなっちゃったな(笑)。

──確かに、巧みなリリックは何層にも意味が重なっているので、通常の1文の英語に対して1文の和訳を書いていたのでは、十分に解説できないですよね。それこそShotGunDandyさんのように、一旦止めて、しっかり解説する方法じゃないと難しいです。
そう。自分もこの方式じゃないと解説出来ないので、YouTube様々です。動画で一人でも意識が高まってくれれば嬉しいです。書く側も、聴く側もね。「あれ? この人のリリックって大したことないぞ?」って。
──自分も含め、かなりの人が興味深く勉強させていただいていると思います。
ごめんなさい、話が逸れちゃうけど、日本だけでなくて世界的な流れとして、ダメ出しをするのがダメな雰囲気になってきていますよね。ダサいって言ってはいけない感じ。それが邪魔しているなって思いますね。日本でもダサいものがそのまま売れちゃうのは、誰もダサいって言えないからなんじゃないかなって思っていて。でもヒップホップの文化では、ダサいものにはダサいって言うんですよ。そのせめぎ合いで、ダサいと言われないようにちゃんとしたライムをしようとする文化があるからこそ、ナズのような人が生まれるわけですね。
──まるでスポーツの技術が年々進化するかのようですね。
そう。ディスり合いを好まない人もいますが、あれはスポーツなんですね。表現の試合だと理解してる人が少ないなっていう。そしてそれがあるから、上手くなっていくんですよね。
──少し話が変わりますけど、サウンド面においては言及はないですが、それについてはどうですか?
サウンド面なら日本にはカッコいい人がいっぱいいる。世界レベルなんですよね。Nujabesさんもそうだし、自分の大好きなBUDAMUNKも本当にすごいっすよ。サウンド面で特に言うことはないです。本当にリリックだけなんですよ。聞き手も書き手も。やっぱりダサいと言えないんですよ。
──批判的なことを書くと怖い思いもしますからね。でもそれはアメリカもそうではないんですか?
アメリカにおいて、批判は良い。文面で攻撃されることはあるけど、トーンが違う。ハーレムのアポロ劇場は性別年齢関係ないけど、もしダサかったら大ブーイング。良かったらスタンディング・オベーション。
──民族に根ざした文化の違いまでになってしまうのですね。
そうですねえ。だから、屈しない鉄の心のライターが必要ですよね。
──とは言え炎上したりすると怖いものです。大多数から一方的にやり込められてしまいます。
難しいですよねえ。それを考えて下から下から私はいってる感じです。「すみません、こういう者ですけどぉ〜」と(笑)。やりたいことが大きすぎて、こんなことで躓いていられないので。本当に日本のヒップホップが大きくなって欲しいんですよ。
──そこまで強い心を日本のヒップホップを持つようになってきたのは、YouTubeを始めてからですか?
昔からもどかしさを持ってましたけど、ぶっちゃけそうですねえ。なにもしてない間に外からヒップホップを見ていると一時期ダサいと思えちゃう人が多くなっちゃったんですよ。それはアメリカもそうで、マンブルラップは自分の感想としてダサいんですよ。昔から「アングラこそヒップホップだ」と言っていたんですよ。結果、なにも生まれなかったんですね。そのころも同じ名前で活動してましたけど、誰も自分のことを知らないわけじゃないですか。だから今回からは「そのスタンスを変えよう、頭ごなしにダサいって言うのをやめよう」となったわけなんですね。受け入れられないと意味ないし。
──つまりは歩み寄りですよね。世代が違うから感覚がマッチしてないだけだったりして、マンブルラップが下でアングラなラップが上というわけでもなかったりして。
そうそうそう! それに気づいてしまったんですよ。だから自分は橋渡しをうまい具合にやりたいです。
──ただ、それは実際やってみると難しいですよねえ。
難しい…! それにラップしてる時点でリスペクトするようになっちゃって。自分がラップやってないのに、大逸れた事は言えないなってなっちゃいますね。ダサくても土俵に立ってラップしてる時点で俺より上だなって思うようになっちゃいましたね。自分はラップができないので。もちろん内心、これはダサいなって思っちゃうこともありますが、それはエゴの押しつけになってしまうので、そこはうまい具合に丸めてるつもりです。

──個人的な好みの部分も多いですが、それを踏まえて痺れた日本のラップで凄いなとおもったライミングはありますか。
老害に聞こえちゃうと思いますけど、昔のキングギドラとかBUDDHA BRANDは凄かったですね。基本ができてます。いまは逆に韻踏まなくていいじゃんっていう流れ。韻を踏まないなら心に響くことを言ってもいいと思うんですけどね。それがBOSS THE MC(ILL-BOSSTINO)なんですよね。よく聴くと韻をそこまで踏んでるわけではないけど、言ってることに説得力あるし、芸術性もある。でも韻を踏むのがラップなので、それを踏まえるとキングギドラやBUDDHA BRANDになりますよね。
──ラップの基礎について少し語っていただいてもいいですか?
まずはざっくり言うと韻を踏むってことですよね。それがダジャレとは違うのは、意味のある韻なんですよね。言葉と言葉がリンクして意味が繋がっている。それより、そもそもなにを言ってるのか分からない人はアメリカも日本も増えすぎていて、「歌ってる意味が無くね!?」っていうことが多い。ちゃんとやってる人もいるんですけどね。やっぱ目立たないですよね。
──若い世代で、ちゃんとやっている印象の国内ラッパーは誰でしょう。
ぶっちゃけ若い人をあんまり聴いてないので(笑)。とはいえ解説させていただいたkamuiさんは、若い世代ではないかもしれないけど凄く良かったですね。あと音的な面で埼玉にいるshin kudoっていう人が好きですね。沖縄のラッパーは基本的にやばいですよ。W.I.N.P.とか最近好きだし、弥勒とか、沖縄はぶっちゃけレベルが高いです。ただ、売れないんですよね。遠いんで(笑)。沖縄でライブをやったとて見に来れる人も少ないんで。
──ビートメイクから離れていた時期は、ヒップホップ自体から離れて聞いてなかったとか?
ただ聴いてはいましたね。最近も現代のアングラを掘って聴いているんですが、未だにアングラが好きなんですよね。基本的にメインストリームが好きではないです。もちろん好きな曲もあるんですけど、アングラの人たちって好きでやってるじゃないですか。それが好きなんですよね。金のためにやってないんで、やっぱり。売れてる人でも金のためにやってない人もいるし、お金のために音楽をやる事に文句もないんですけど、曲として聴いたときに自分は音楽が好きでやってる人の曲を聴きたいですね。だからXGに対しても、「アイドルがやるしょうもないラップなんだろ?」って思って聴いたら「おいおいおい…!」と驚いて動画にしたんですよね。