
カコイミクの音楽を聴いた時、昔どこかで聴いたことがあるような心地がした。優しくて芯のあるヴォーカル、軽やかで口ずさみたくなるポップなメロディー、そして少しの気だるさ。親しみやすくも深みのある彼女の音楽は、ポップって言葉だけでは終わらすことは出来ない。彼女が、大橋トリオこと大橋好規プロデュースによる前作『DIGIDIGI LALA』から1年もたたないうちに、ミニ・アルバム『Doodle』をリリースした。本作のプロデューサーは、ブラジリアン・ミュージック・レーベルGIRA MUNDO DISCOSのオーナーでもあるGIRA MUNDO。大橋好規、GIRA MUNDOと異なるプロデューサーのもと、凛とした佇まいで歌い続ける彼女に、そのブレないビジョンについて聞いてみた。
インタビュー&文 : 斎井直史
写真 : sasaki wataru
『Doodle』を購入頂いた方には、特典としてサイン入りのデジタル・フォト・ブックレット(photo by sasaki wataru)をプレゼントします。カコイミクと桜のコラボレーションが、とても美しく光ります。このブックレットは、楽曲購入時に一緒にダウンロードされます。

自分主導で、声を主体に
——前作『DIGIDIGI LALA』リリース以降、どのような活動をされていたのでしょうか?
『DIGIDIGI LALA』をリリース後は、『DIGIDIGI LALA』をプロデュースしてくださった大橋さんのツアーがあったので、大橋トリオ、もしくは大橋バンド名義でのツアーに参加していました。
——今作『Doodle』は、ブラジリアン・ミュージック・レーベル『GIRA MUNDO DISCOS』のオーナーでもあるGIRA MUNDOさんがプロデュースされていますが、どういった経緯だったのでしょうか?
昔、バンドをやっていたときに、GIRAさんにリミックスをしていただいたことがあるんです。そのとき、ラテンっぽく仕上げたい曲があって、ちょうど知り合いの知り合いで、南米でレコーディングをされている方がいると聞いて、これは!と思った(笑)。そんなご縁もあって、今回はプロデュースをお願いしました。前作は大橋さんが持っているカラーの中で「カコイミク」を出していったところがあったけど、今作は自分主導で、声を主体に作っていこうと思っていたんです。GIRAさんとは旧知の仲なので、結構ワガママも言いやすいんですよね(笑)。なので非常にやりやすかったですよ。
——カコイミクさんはボサ・ノヴァのコンピレーション・アルバム『ジブリ meets Bossa Nova』にも参加されていますが、ボサノヴァにも興味があるのでしょうか?
いや、そういうわけではないんですけど...(笑)。言われてみれば、参加してきたコンピとかってボサノヴァだったなあ、という感じですね。ボサノヴァはほとんど聴かないのでいまいちよくわからないんですけど、ライヴはギターと二人でやることが多いからかわからないんですが、なぜだか「ボサノヴァっぽい」と言われることはありますね。
——普段はどんな音楽を聴かれるんですか?
何聴くかなぁ。昔買ったCDをたまに聴いたりとか、最近どんな人がいるのかなってちょっとラジオをチェックしたりとか... そんな感じです(笑)。
——今作に、テーマはありますか?
今回は「どうしようかなー」と思ったまま、最後まで行っちゃった感じ。タイトルの『Doodle』は「落書き」という意味なんです。思いついたものを描きこんでいくデッサンのように、何も考えずに曲を作って、入れていった。大元のコンセプトは、歌を中心に聴いてもらえるというものですね。
——カコイさんの曲は、曲調は明るくドライなのに、歌詞には影がありますよね。意図的なものなのでしょうか?
自然にでてきたところもあるし、意図してそういう作風にしている部分もあります。明るい曲をまともに歌えるようになったのって、実は最近なんですよ。今までは、明るい曲でも、ちょっとひねっているところがないと歌えなかったし面白くなかった。提供してもらった曲とかでも、光の要素に影の要素を入れるのを、必ず歌詞で調整していたんです。
適材適所であればいい
——大橋さんとGIRAさん、ふたりのプロデューサーから、どのような影響を受けましたか?

一緒に制作したことを経て、音楽的に色々学んだし身になったなって思います。私は最初から最後までひとりで完結できる人ではないし、歌詞をつけるにしても、どちらかと言うと人が作った曲につけるのが好きなんです。次の作品は自分でつくった曲も入れたいと思ってますが、これからも色々な人と関わって助けてもらって作っていくのは変わらないと思います。その上で作品に関して「自分主導でやっていきたいな」とも思います。
——色々な人とやるという点では、ソロではなく、バンドとして音楽を作ることも視野に入れていたりするのでしょうか?
カコイミク名義では考えてないですけど、一人のヴォーカリストとして色んな人にお呼ばれしてやってみたいなぁとかは思ってます。ちょっとパンクっぽいのとか。暗い感じ、ブルースというか、ロックというか。渋い感じをやりたいですねぇ。
——今作の制作現場での経験は、今までとは違うものだったのでしょうか?
やっぱり歌だけ歌っていると、それだけしかわからない事があるけれど、今回は今まででは一番制作に携われたので、その他のことも勉強できました。それが次に活かせるんじゃないかなと思っています。私は制作を一人で最後まで完結できる人ではないから、今までわりと歌のこととかやりたい音楽とか大きな流れしか考えてこなかったんですけど、もっと細かい部分がわかるようになった。感覚的に捉えていた事を、もっと具体的に理解できるようになりました。結構ヴォーカリストには多いと思うんですけど、専門的に勉強してきたわけじゃないので、制作の場で表現が曖昧なんですよね。「もっとグワァーっとして」とか。例えば歌をこういうニュアンスにするにはちょっとコンプかけるとこうなるとか、そもそも録り音が大事でなんだかんだ、とか楽器のこととか他にも色々(笑)。そういうことがちょっとだけ的確に言えるようになったかな。
——そういった制作での経験は、カコイさんの音楽像へ影響しましたか?
思っていることを具体的に表現できるようになりましたね。今までは、レコーディングしていて、もう少し違う感じにしたいと思っても、なんて言えばいいのかわからず、「まあ、いいか」って、納得してしまうことが多かったんです。でも、経験でわりとわかるようになった。人の音楽を聴いてても、「この人どのマイクでどんな環境で録ってるのかな」なんて考えるようになって、そういう面でも面白くなりましたね。
——もっと制作に関して、学んでいきたいと思いますか?
興味はありますが、あまり深いところまで踏み込もうとは思わないです(笑)。もちろん色々一人でできたらすごいなーと憧れはしますが、ひとりで完結しちゃうと面白くない気がするんです。周りにはエンジニアさんがいて、楽器弾く人がいて、音のスペシャリストが揃っている。あくまで私は歌詞と曲を書くヴォーカリストなんです。もちろん、曲ごとにヴィジョンはあるけれど、それは一緒にやる人と会話をして、意思疎通すればいいだけだし。適材適所であればいいと思うんですよね。
——なるほど。ありがとうございました。では最後に、今後の活動について教えてください。
5月1日に代官山LOOPにてライヴをします。あと、CHiP SHOP BOYZと一緒に、大瀧詠一さんのカヴァー・アルバムに参加しています。是非聞いてみてください。
PROFILE
O型。福岡県出身。3歳の頃からジャズ・バレエとピアノを習い始め、マイケル・ジャクソンや当時の流行の洋楽をなんとなく聴いて育ちダンスと音楽に親しむ少女時代を過ごす。大学入学後、個人で音楽活動をしていた2003年頃に大阪でバンドのボーカリストとして加入したことがきっかけとなり、2006年にBMG JAPANのインディーズから1st mini album『飾らない情熱』にてデビュー。2009年7月、大橋好規(トリオ)のプロデュースによりmini album『DIGIDIGI LALA』をリリース。
LIVE SCHEDULE
- 2010/5/1(土)ともしび〜Daikanyama Candle Night〜vol.1@代官山LOOP
前売 ¥2,800 / 当日 ¥3,300
エッジの効いた等身大のポップス
微炭酸系ピアノ・ロック・バンド『ズータンズ』の約2年半振り2ndアルバム。ゲスト・ミュージシャンにSING LIKE TALKINGの西村智彦を迎えるなど新たな試みにチャレンジ。シングル「アップライト」が静岡のFM局上半期チャート1位を獲得するなど、注目の楽曲を揃え、現在の『ズータンズ』をありのまま表現した作品。安定した声に、安定したポップ・ソング。元気だったり、儚かったりで陰と陽のバランスがとれているという意味でも、安定しています。
2006年に発表したミニ・アルバム「mask」以来、約3年半ぶりに発表するソロ活動復活の第2弾配信シングル。第1弾「MY DEAREST FRIEND」のカラフル・ポップ・チューンとは打って変わった、シンガー・ソング・ライターACOの渾身のバラッド。多くのミュージシャンとの共演を経験し、歌い手としてのポジションを確固たるものにしてきたACO。多くのポップ・ソングに埋もれない彼女の声を聞いて欲しい。女性ヴォーカリスト、ここにあり!
ピアノ、ギター、ベースなどを弾きこなす、マルチなプレイヤー、大橋好規のソロ・プロジェクトのセカンド・アルバム。ジャズに大きな影響を受けたそうだが、世界観はもっと幅広い。音だけでなく自身も非常にスタイリッシュで、俳優としても活躍できそう。前作のプロデュースを務めた大橋トリオ。カコイミクは彼の音楽に惹かれて、あとを追う形で現在の事務所に入ったそうな。音を聴けばそれも頷けます。