東京の湿っぽい地下室がよく似合う突然変異、ZOMGーーHIP HOPライター斎井直史によるガチンコ連載「INTERSECTION」第3弾

これまで、興味を持ったアーティストに直接接触することでリリース情報を掴み、記事にしてきたヒップホップ・ライター、斎井直史。そんな彼によるガチンコ連載「INTERSECTION」!! 扱う対象は、レーベルを通した作品だけでなく、手売り音源、ネットで活動しているアーティストの音源、ライヴに徹しているアーティストの音源まで… 要するにすべて!! 斎井がいま熱いと思えるアーティストをみつけては、アポ取りから配信契約までを行う、まさにガチンコのDIY企画。それゆえ、ホットなリリースのみならず、突如として独占音源やインタヴューが飛び込んでくることも当たり前。熱いアーティストが増えれば増えるほど、このコーナーも熱さを増していく。がんばれ、斎井! おまえの骨はOTOTOYが拾ってやる! 連載3回目となる今回は、Young DrunkerのBaccasと、ADAMS CAMPの黒真珠による2人組、ZOMGをピックアップ。2人へのインタヴューとともに、OTOTOY限定の特別パッケージを配信開始。そのヤバいライヴを観る前に(もちろん観たあとでも)、熱いヴァイブスを感じてほしい。
OTOTOY限定、ZOMG初のオリジナル・トラック作品をハイレゾ配信
ZOMG / Zoom In Zoo(24bit/44.1kHz)
【配信形態】WAV / ALAC / FLAC / AAC
【配信価格】 単曲 150円 / まとめ価格 500円
【TRACK LIST】
1. Zoom In
2. Goodshit Goodluck
3. Disco Ball(Feat. MOD'z CORP's)
4. I Need...
5. No Brake(Baccas remix)
6. Gray Zone (Feat. Jaq)
7. Huddle (Feat. FoA, Cookie Crunch, ab)
INTERVIEW : 黒真珠、Baccas(ZOMG)
ファッショナブルで最先端のLAのレーベル、Soulectionの次は、東京の湿っぽい地下室が似合うラップを紹介したい。Young DrunkerのBaccasと、ADAMS CAMPの黒真珠による2人組、ZOMG。遡れば1年ほど前から本人たちに音源も聴かせてもらっていたこともあったのだが、その後の予定は目処が立っていないようであった。
それがもったいなく感じたのは、ライヴでの黒真珠を見てからだ。今でも目に焼き付いているのは、彼の視線と態度。そして、そこから伝わるハングリーさや集中力。ぶっちゃけどんなラップでも生でリリックを聞き取る事は難しい。それでも黒真珠のアティチュードに魅了されてしまった。その熱量は、リリックやフロウが雄弁に語っていた。
そしてお願いして作ってもらったEP『Zoom In Zoo』は、ZOMG初のオリジナル・トラックでの作品だ。レーベル・メイトでもあるMOD’z CORP’s、Jaqが参加し、Fivestar Recordsらしさも感じ取れるEPに仕上がっている。彼らのライヴを目撃する前に、一度音源を聞いてみてほしい。
インタヴュー&文 : 斎井直史
あんまり意味を持たせたくなかったから、字面で選んだんですよ
ーー以前、Young Drunkerのインタヴューの時にBaccas君についてはいろいろ聞いたので、黒真珠くんについて知りたいです。ヒップホップに目覚めたのは、いつ頃なんですか。
黒真珠 : 中二とかっすかね。俺、2人兄ちゃんがいるんすけど、そっからどんどん吸収して。
ーーお兄ちゃんは?
黒真珠 : 3つ上と、5つ上の兄ちゃんがいて。長男は元々ラップしてて、俺もやるようになって。間の兄ちゃんはビート・メイクしてます。
ーー名前は?
黒真珠 : Qron-Pって名前で。長男は珍念って名前っすね。
ーーQron-PってあのFebb君の『The Season』やMUTA君のEPにクレジットされてた!? そうなんだ! めちゃくちゃ格好良いビートつくりますよね!
Baccas : ていうかそれ、知らなかったんですか(笑)。
ーーめっちゃカッコイイよね! 日本のAraab Muzik(※1)ですよ! で、ZOMGに話を戻すと、名前の読みは"ジー・オーマイガー"でいいんですか?
黒真珠 : そーっすね。OMGの最高なやつ。最終形みたいな。あんまり意味を持たせたくなかったから、字面で選んだんですよね。
※1 : ビートメイカー、プロデューサー。MPCを駆使したプログラミングをせずにパッドを高速で叩くビートメイクの様子が話題となり、The Diplomatsに迎えられる。ドラマティックかつ迫力のあるサウンドが特徴的。
ーー曲にも本人たちのヴァイブスが表にでる事を考えたように感じたけど、本人たちとしてはメッセージ性とかも込められていたり?
Baccas : そうっすねぇー。真珠はどうなの?
黒真珠 : テーマ性は、そうっすね。ある程度は。

ーーインタヴュー前に貰ったファイルに、タイトルがなくてさ。録音した日付のファイル名だったから(笑)。
黒真珠 : あー、サーセンっす。サーセン。
Baccas : マジですかー。ほんとスイマセン。「I NEED」とかは、一応曲にテーマはあるんですけど、各々で聴いた人が聴いてくれればいいかなって。
ーーノリのBaccasと、キレの黒真珠を楽しめればいい、と。
黒真珠 : お、そうすか? 俺らそんな感じなんすか?
ーー俺はライヴで観た時、黒真珠君のキレに感動したよ。めっちゃくちゃ感動した! いつ頃にステージに立ってたんですか?
黒真珠 : ハタチくらいっすかね。元々は兄貴と違うグループでラップもしてたけど、俺の始まりはADAMS CAMPっす。
ーーADAMS CAMPのことをもっと教えて欲しいです。
黒真珠 : メンバーは4MCで1DJ、というかビートメイカーっすね。兄貴は兄貴で、俺は俺でグループがあったんですけど、一緒に動いてて、気がついたらADAMS CAMPになってましたね。クラブ行くようになって気が合うやつに一緒にやらないかって。
よりコアな自分の好きなところを表現できるモブ感
ーーUMB2010では埼玉予選準優勝もしていますけど、MCバトルはいつから?
黒真珠 : はじめて出たのは18とか。
ーーMCバトルが全盛期の頃?
黒真珠 : いや、またそれは別の時代。ダメレコがMCバトル始めた頃ですね。最初は全っ然ダメでしたね(笑)。
ーーそうなんだ。バトルは動画でしか観たことないけど、黒真珠くんのラップは何かが憑依してていいですよね!
Baccas : 奴はモードに入りますよね。
黒真珠 : そうっすかね。
ーー影響を受けたラッパーとかは?
黒真珠 : 最初はNitro Microphone Underground。あと、兄貴がMSCを教えてくれて『宿の斜塔』とか聴いて「くっろ!(巻舌で)」「ラップすげっ!」ってビビって(笑)。それから韻踏合組合とか、デモ時代のMonjuとか。当時、Monjuはまだ有名じゃなかったけど、すげえカッコよかったっすね。
ーーで、どうやって2人は出会ったんですか?
黒真珠 : 一番最初は、ドルネコマンションっていうグループがやっていたドルマティックです。Young Drunkerがファーストを出した頃で。
ーードルネコマンションのことも教えて欲しいです。
黒真珠 : もう、埼玉でぶっちぎりで格好よかったです。埼玉から枠を超えてたの、あの人達くらいだったかなっていうイメージですね。
ーーZOMGでやろうと思ったキッカケは?
黒真珠 : Baccas君が誘ってくれたっすね。
Baccas : 俺は最初フィーチャーリングで頼もうかなと、気軽に誘ったんですよ。そしたら、「やるんだったらアルバム作っちゃおうか!」みたいに自然と(笑)。それを黒真珠も望んでくれて。
ーーどちらも自分の軸足となるグループがあるじゃないですか。それとの区別ってあります?
黒真珠 : ラフさ。
Baccas : よりコアな自分の好きなところを表現できる。モブ感というか。こうゆう格好よさもあるってことを提示できればと思いますね。
黒真珠 : ま、基本、やりたいことをお互いやってくれって感じだから。
シャイニーさを出せたらいいっすね
ーーところで、ビートはだれが作ってるんですか?
Baccas : 全部俺です。
ーーそうなんですか! Baccas君のビートというと、ちょっと変わったノリな印象が強かったので。
Baccas : シンセとかを意識して使ってるので、弾きをもっと使いたいなって思いますね。チキチキした流行りの音もありつつ、サンプリングをメインでつかったり。今まで聞かなかった歌謡曲とか、よさがわかってきた音楽が増えてきたから、前よりも自分の中の幅が増えましたね。
ーーそういえば、好きなラッパーは?
黒真珠 : 好きになった順でいうと、Bootcamp Click(※2)から、Dipset(※3)で、最近だとCoke Boys(※4)とか。Papoose(※5)とかも常に格好いいですよね。
Baccas : 結構自分でもコレ! ってのはいないんですが、うーん… Styles P!(※6) あれ間違いないっす! ブレてなさがすげえなって! やっぱ、この音楽は最終的にブレてないやつが格好いいんじゃないかなって思うんですよね!
※2 : NY、ブルックリンを拠点とする重厚なビートにレゲエの要素を含んだラップ集団。その音楽のみならず、ミリタリー・ファッションを取り入れたラフなファッションもヒップ・ホップ文化に大きな影響をあたえた。
※3 : The Diplomatsの別称。Jim Jones、Camron、Juelz Santanaを中心としたグループ。2000年代前半に迫力あるスタイルで一世を風靡し、HeatmakersやJust Blazeなどのプロダクションも手伝って、これまでの渋めなサウンドが主流だったニューヨークのサウンドを変えた。
※4 : ラッパーFrench Montana率いるラップ・グループ。
※5 : 2000年代半ばにDJ Kay Slayのミックス・テープにより地元NYで話題となったラッパー。その後、2006年に150万ドルの契約金でメジャーと契約したが、レーベル側と関係悪化により破棄となる。2013年、遂にデビュー・アルバムをリリースしている。
※6 : The Loxやラフ・ライダーズのメンバーとして知られる。Bad Boy Recordsに迎えられてからは、マライヤ・キャリーの「Honey」を始め客演MCとして名を馳せる。
黒真珠 : (笑)。詰め甘くねえ、みたいな(笑)。日本人だったらどうなんすか。
Baccas : ISSUGI君ですね。
黒真珠 : 俺はSEEDAかな。やっぱSEEDA。
ーー個人的に黒真珠君のライヴを観た時、「ネクスト仙人掌だ!」と勝手に思ったんですよ。めちゃくちゃキレキレじゃないですか。
黒真珠 : (笑)。がんばります。
ーーMUTA君もインタヴューで今年の客演王になってほしいって言ってたよ(笑)。自分たちとして将来のヴィジョンは?
黒真珠 : そっすね。シャイニーさを出せたらいいっすね。
Baccas : シャイニーさって(笑)。
ーーわかるよ。例えばCamronがゆっくり登場する感じとかさ。Araabもシャイニー感すごいよね。
黒真珠 : あれは、どシャイニー(笑)。まぶしいわー。光がマジでパーンって感じ。
ーーラップが書ける時ってどんなタイミングなんですか。
黒真珠 : 書かなきゃと思ってると、絶対書けないもんですね。
Baccas : そうっすね。リリックが降りてくるとか言うじゃないですか。それはないですね。絞り出さないと書けない。
ーー… 真逆のこと言ってない?
黒真珠 : 真逆だ。いや、言いてぇことは、めっちゃわかるっす。書かないと出てこないけど、無理して書いても出てこない。
ーーこんな質問をしたのも、黒真珠君のラップのキレには殺意を感じますよね。ライヴだと特にそれを感じます。
黒真珠 : 殺意っすか? 全然ないっすよ(笑)。
Baccas : いや、ありますね。レコーディングしてるとシリアスすぎて「次俺かぁ。大丈夫かな」ってなりますね。
黒真珠 : とか言いますけど、録音終わって「こんな感じでいいっすか」って言うと「早く終わらせてもらっていいっすか」みたいなこと言うんですよ。
Baccas : だって真珠はすっげー録り直すんですよ! 真珠はやりながら掴むんですよ。俺は一発で終わっちゃうことばかりだから、やっぱ真逆かもしれないっすねぇ。
黒真珠 : 一緒の部分もあるけど、基本真逆なのかな。
ーー本人たちとしてはZOMGらしさってものをどう感じてるの?
黒真珠 : いやー、ラフさ、大事っすねって感じで。
ーー(笑)。書きづらいわ! ZOMGとして、アルバムはいつ?
Baccas : そうっすねぇ~… 今年中には出したいです。前のEPはアルバムの布石の為だったんですよ。去年の1月だから、すげえ遅れちゃったけど。
ーーじゃあ、この『Zoom In The Zoo』を間の布石としていただいて。曲をやりたいラッパーとか居ないですか? もしくはフックアップしたい人。
黒真珠 : B.F.とCookie Crunch。参加してくれたJaq。
Baccas : JaqはFivestarの隠し玉なんで。俺も周りを上げていきたいですね! Fivestarもそうだし、B.F.もそうだし、Fla$hbackS… はもう上がってるんで、力を借りたいっすね(笑)
「INTERSECTION」アーカイブ
第1回特集 : MUTA

MUTA from YNGDRNK / MutaEP
"YOUNG DRUNKER" 3MC'sの1人。 Fla$hBackS Album「FL$8KS」収録曲「g3」への客演で知られ、公園と霊園を隔てる言問streetにRec studioを持つ"FIVE STAR RECORDS"所属のRapper、Muta。無二の声質と多彩な引き出しをlightにtightにわからせる、6 trax.EPをこの度drop。爆心地は池袋から全国へ拡散。All Tracks Prod. by Febb as Young Mason(Fla$hBackS)。Bonus trackに地元からQron P's beatをFeat。2013年10月13日(日)池袋bed『GONZALES』にて先行発売したところ即完売した本作は特定レコードショップでも取り扱われる様になり、この度更にOTOTOYからの独占配信がスタート!
第2回特集 : Soulection

連載2回目となる今回は、海を飛び越え、海外のレーベル、Soulectionをピックアップ。残念ながらこのタイミングでの音源配信はないが、自らを"The Sound of Tomorrow"と銘打つレーベルに切り込んだインタヴュー(2014年4月に来日した際収録)をご覧いただきたい。
PROFILE
ZOMG
酒乱の巨人、Baccas(MC,TRACK MAKER / YOUNG DRUNKER)と、防空壕のフロントマン、黒真珠(MC / ADAMS CAMP)が引き起こした突然変異的ユニット。 常にユニークなトピックを提供する音楽隊。個々で培ってきた現場活動が裏付けする互いのスキルは、スタイルウォーズ真っ只中の東京でも唯一無二の言葉がふさわしい。一発KOかテクニカル・ノックアウト、いずれにせよやられちまうこと間違いなしのダブル・インパクト。