COLUMN #3 彼女の生き様が表れた歌に、我々は心を動かされるのである
Text by 沖さやこ
今からおよそ2年半前、まさに寝耳に水の交代劇だった。2021年9月6日正午をもって、水曜日のカンパネラからコムアイが脱退。新ヴォーカルとして詩羽が加入した。当時の水曜日のカンパネラはほぼ活動休止状態だったとはいえ、メンバーで唯一矢面に立つコムアイが脱退し、その後を担うヴォーカリストが現れることは、誰もが予測していなかっただろう。そして頭によぎったはずだ。「本当に詩羽はコムアイの後を受け継ぐことができるのか?」と。
だが詩羽は、彼女にとって第1弾作品となる『アリス / バッキンガム』から、それを見事にやってのけた。美しいメロディと感傷的なコードワークで構成された“アリス”では、クールさ、無垢さ、たくましさ、キュートさ、爽やかさを兼ね備えたヴォーカルを響かせ、コムアイ時代の色味の強い“バッキンガム”では、自身のスタイルにコムアイの素養をブレンドした。コムアイが同ユニットで積み上げてきた表現を継承すると同時に、自分の等身大を崩さなかった。リスペクトとオリジナリティ、どちらも持ち合わせていることを音楽で証明したことで、これまでのファンの心を一挙に掴んだ。
そこから“エジソン”などのヒットによりさらに水曜日のカンパネラの音楽が広く届いたのは、詩羽の声の良さ、ミステリアスでいてキャッチーなトラック、ギミックの効いた歌詞、彼女の音域と声の旨味を捉えたメロディの相乗効果に他ならない。
まず詩羽の歌には無理がない。さらにはメロディを軽やかに乗りこなしながらも、言葉の一つひとつに余韻を持たせる力に長けている。高音では伸びやかに声を響かせ、ラップセクションではスパイスを感じさせつつも攻撃性は感じさせない。繊細なニュアンスが効いた歌声は、聴き手を軽やかに楽曲の世界へといざなう。
そして彼女の歌は、どれだけ早口でも、どれだけメロディに起伏があっても、驚くほどに歌詞が聞き取れる。ユーモアとポリシーと物語を掛け合わせた歌詞は、水曜日のカンパネラの楽曲において非常に重要な要素だ。楽曲を最上の状態で表現するには、ヴォーカルがそれをクリアに伝えられることが必須となるだろう。彼女は何よりも「音楽を伝えること」に重きを置いて歌唱している。それが結果的に、彼女の表情豊かな声を引き立てているのだ。
ここまで彼女のヴォーカルが輝くのは、ケンモチヒデフミのソングライティングスキルあってこそだろう。コムアイとともに築き上げてきた「水曜日のカンパネラ」を残しながらも、詩羽の音域、得意な発声など、彼女のヴォーカルを熟知したうえで楽曲制作をし、それをアップデートし続けている。
“桃太郎”、“マーメイド”、“金剛力士像”、影(忍者)と車道を掛けた“シャドウ”など、ひとつのモチーフから多彩なサウンドと歌詞で物語を広げていくこと、そこにさりげなくメッセージを忍ばせることに定評がある彼は、最新曲“幽霊と作家”でタイアップ作品であるTVドラマ『婚活1000本ノック』のストーリーを大胆に盛り込んだ。ここまで振り切ったアプローチにトライできるのは、詩羽が自身の美学を追求する令和のポップアイコンとしての立ち位置を確立していることも影響しているのではないだろうか。リノベーションにも近い丁寧なソングライティングと、ヴォーカリストとしてのスキルと水曜日のカンパネラの“主演”としてのポジションを全うするキャラクター性を併せ持つ詩羽が交わるからこそなせる業である。
詩羽はライヴでコムアイ時代の楽曲も多数歌唱している。それは彼女の意志だ。コムアイから詩羽にヴォーカルが引き継がれた日に行われたInstagramの配信で、詩羽は「今までがなくなっちゃうのは寂しいことだし、今までがあるから新しくなれるとも思う。そうやって進めていけるのが、最終的にみんなが楽しいと感じられる道なのかなって」と話していた。この愛情に溢れた人柄も、多くの人を離さない魅力のひとつだ。彼女の生き様が表れた歌に、我々は心を動かされるのである。

編集 : 西田 健
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PROFILE:水曜日のカンパネラ

2013年からコムアイを主演歌唱とするユニットとして始動。メンバーはコムアイ(主演)、ケンモチヒデフミ(音楽)、 Dir.F(その他)の3人だが、表に出るのは主演のコムアイの みとなっていた。2021年9月6日、コムアイが脱退、二代目として主演/歌唱担当に詩羽(うたは)が加入となり新体制での活動をスタートさせる。2022年2月にリリースした「エジソン」のMVが解禁後、SNSを中心に話題となり再生回数は 5300万回を記録。ストリーミングの累積再生回数は1億回を突破した。
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