Simo Cell 『Cuspide Des Sirènes』
LABEL : TEMƎT Music
〈Livity Sound〉(あるいはそのサブレーベル〈Dnuos Ytivil〉)や〈BFDM〉での活躍にとどまらず、リミックス・ワークではトランスからバイレファンキまでこなすSimo Cell。2019年発表のミニ・アルバム『YES.DJ』を経て、彼自身としては初のフル・アルバムを完成させた。RPGになぞられた本作は、聴くものをコンセプト通りファンタジーな世界へと誘うかのように展開。ゲーム中の敵の襲来を予感させる“Blow The Conch”や、エンチャントを体得している最中かのような“polite rudboi”、自分自身と向き合う“leave me alone”など仮想敵(恐らく自分自身?)との対峙から自己の成長までを描いているようなイメージ。それでいてストーリーを転がすための各トラックは個別に聴いても丹念に作られており、奇怪なサンプリングや変則的なビートでまぶされたなかなか面白い仕上がりに。
Jurango 『Isle of Crass EP』
LABEL : re:lax
re:ni&Laksa主宰の新レーベル〈re:lax〉よりリリース第2弾。1発目のLaksaによるEPは、野外でも映える低音と催眠系パーカッションが重なった抜群なトラックで、初っ端から満点に近いクオリティだった。しかし、その高まった期待を優に超えてしまうのが職人、Jurango。先のLaksaとも地続きな、ハーフで乗りきるA1“Slow Wheeze”に、ジューク風味なミニマル・ダブの“Sleeper Hold”、打って変わって電子音が頭上で飛び交うようなシンゲリ仕立ての超高速チューン“Isle of Crass”なんてのもあったり。「より速いテンポの音楽を探求し、ジャングル、ダブステップ、グライム、そしてUKテクノの系譜を継続する」というレーベルが掲げるコンセプトに沿いながらも、彼の得意とするパーカッシヴ・スタイルが全面に押し出されたトラックが揃い踏み。要注目レーベル筆頭。
Jlin 『Perspective』
LABEL : Planet Mu
〈Planet Mu〉の中でも異彩を放つ、Jlin。ジャンルとしての輪郭が極めて曖昧で、各人による解釈が大いに許容されるジューク/フットワークからもさらに逸脱し、ついに彼女は未知の領域に踏み込んだ。振付師であるウェイン・マクレガーやカイル・エイブラハムとのコラボを経たことで、まるで暗黒舞踏を鑑賞しているかのような緊張感が走る作品に。催眠作用のある“Fourth Perspective”から、電磁波攻撃の“Derivative”のコンボには完全にノックアウト。パーカッション集団、Third Coast Percussionとのコラボである本作は有機的なグルーヴも同時に生んでおり、特に“Dissonance”ではパーカッションだけでもっていくゴルい展開。CD版にはさらに4曲追加されているようでこちらも気になるところ。作曲家Jlinはこれからどこに向かうのだろうか、我々は見守るしかない。