Ellis Ludwig-Leone『False We Hope』
LABEL : BETTER COMPANY
クラシック~現代音楽のボキャブラリーを存分に生かしながらロック・サウンドと折衷させたサン・フェルミンのメイン・コンポーザー、エリス・ラディック・レオーネのソロ・アルバムのニュースを見かけた際には興奮させられた。結論から言えば、彼は傑作を作り上げた。グラミー賞を受賞している現代最高峰のカルテットであるアタッカ・カルテットとエリザ・バッグ(ルームフル・オブ・ザ・ティース)を従えて、最新のクラシック~現代音楽の粋を結集したようなサウンドを創造して見せた。流麗なメロディーや軽やかなピチカート、弦の擦れ等といった様々な音響を駆使するストリングスや、底を這いまわりリズムやアンビエンスを作るシンセベース、あくまで全体の一部でありつつも細やかに主張するピアノ、それらのサウンドに負けず全体のムードを統括する圧倒的なヴォーカルといったひとつひとつの要素が、エリス・ラディック・レオーネが特別な才能の持ち主であることが告げ、この作品が2023年の音楽シーンにおけるひとつの突出した成果であることを確約する。
Lucinda Chua 『YIAN』
LABEL : 4AD
FKA・トゥイグスにも認められ、ツアー・サポートも務めたチェリストのルシンダ・チュアのデビュー作にあたる本作は名門〈4AD〉からリリースされ、クラシック~現代音楽のシーンのみならず、ポップ・ミュージックとしても広く受け入れられることだろう。エフェクト・ペダルを駆使することでディレイやリヴァーブを用いながら練り上げたチェロの音響を土台にして形作られたスケール感のあるサウンドスケープは、彼女のヴォーカルやピアノ、シンセサイザーを飲み込みながら、時にエクスペリメンタルに、時にキャッチーに展開される。どの楽曲もキャッチーな歌モノとして十分に活きるものになっているのが、彼女の優れた点と言える。さらに音響の組み立て方、特にミックスの在り方が非常に絶妙なものになっており、空間が存分に生かされているサウンドの設計が本作の肝といってもいい。だが、もっとも称賛されるべきはアルバムに収録されているほぼ全曲のプロデュースとエンジニアリングを手掛けて自身のデビュー作をまとめあげたその手腕と勇気、チャレンジ精神なのかもしれない。
Ligeti Quartet x Anna Meredith 『Nuc』
LABEL : NEW AMSTERDAM RECORD
クラシック~現代音楽からエレクトロニック・ミュージック、映画のサウンドトラックまで縦横無尽な活動で注目を集めているアンナ・メレディスが、結成年が2010年とまだ若いリゲティ・カルテットと組んだ作品が本作。アンナ・メレディスの繊細かつエナジェティックなサウンド・アプローチがカルテットと素晴らしい相性だったことが一目瞭然。アンナ・メレディスの楽曲を編曲し、大胆で変幻自在な音色を響かせるリゲティ・カルテットのストリングスの魅力が、彼女の構築した楽曲と絶妙なハーモニーを生み出している。なんらかのエフェクトをかけているのか、生の演奏をそのまま採用しているのか判別が難しい瞬間があるほど強烈な音色があったかと思えば、ストレートに心を打ちぬくような美しい調べを奏でたり、エレクトロニクスと並走する瞬間もある迫力のストリングスには耳を持っていかれる。プロデューサーにレオ・エイブラハムス(ブライアン・イーノ、ジョン・ホプキンス)を招いている点からも、エレクトロニック・ミュージック以降のストリングス・ミュージックはどのようにあるべきかという問いへの模範解答にもなっている。
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