Powell & London Contemporary Orchestra 『26 Lives』
LABEL : DIAGONAL RECORD
ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ(以下LCO)とエレクトロニック・ミュージシャンのコラボといえばアクトレス『LAGEOS』があるが、今回はパウエルだ。LCOがジョン・ケージ、エリアーヌ・ラディーグ、ミカ・リーヴィ、ルヴィン・ルシエ、モートン・フェルドマン、マイケル・ゴードン、ジェームズ・テニーの演奏をしたものをパウエルがエディットして本作は作られている。出来上がったのはオーケストラの様々な楽器の音色が溶け合い、限りなくドローンに近づいたサウンドだ。ドローンに近づいてはいるが、個々の楽器のニュアンスやフレイヴァーは残しているので、完全なドローンではなく、リズムもあり、どこかカラフルなタッチを感じさせつつ、ダイナミズムと繊細さを両立させた音響の一大実験といえるものになっている。20世紀的における現代音楽が推進してきたエレクトロニック・ミュージック(シュトックハウゼン、クセナキス~グリゼー等)との連続性も感じさせつつ、グリッチ・ノイズ等も導入され、その複雑さが音響的快楽を形作っており、今のパウエルだからこそ成しえた極めて冒険的な作品。LCOは今後マシュー・ハーバートとのコラボも控えており、そちらも楽しみだ。
The Crossing 『Shara Nova’s TITRATION』
LABEL : NEVONA
ドナルド・ナリーが率いるザ・クロッシングはグラミー賞を3度受賞している世界でも指折りの合唱団だが、そんな彼らが本作で手を組んだのは、チェンバー・ポップ・バンドであるマイ・ブライテスト・ダイヤモンドを率いる女性作曲家シャラ・ノヴァだ。声だけであらゆるテクスチャーを創り出すザ・クロッシングの圧倒的な歌唱力とシャラ・ノヴァの冒険的だがキャッチーなエッセンスがぎっしりと詰まった作曲が出会った結果、世界を驚かせる刺激的な声楽が誕生した。低音域から高音域までが声で埋め尽くされ、幾重にも層を成す美しいヴォーカル・メロディがメインになりつつ、そこに演劇的なセリフの導入、小刻みに息を吐く音、突然のシャウト、笑い声、動物の声真似、手拍子なども導入され、隅々まで見事に調整が行き届いていることに感心させられる。実験的であり、ユーモアがあり、なおかつポップであるシャラ・ノヴァのマジックがかかった合唱には、声だけで人間はこれほどまでに多彩な音楽を生み出すことができるのかという学びを得るとともに、合唱というフォーマットの歴史の深さや、その音楽的含蓄に敬服せざるを得ない。