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INTERVIEW : nolala

京都発のスリー・ピース・バンド、nolalaがファースト・フル・アルバム『i my me mine』を完成させた。異なる個性の歌声が同居するツイン・ヴォーカルの豊かな情動、鮮やかな3声コーラス・ワークが生み出す消えることのない青春性、強烈な疾走感もチャーミングなポップネスも持ち合わせた多彩な曲調──スリー・ピースという編成のシンプルさから溢れ出すnolalaというバンドの生命力、その強さを実感できる素晴らしいアルバムである。そして、このアルバムは「人生」を描いている。生きることの悲しさと喜び、「自分」という存在の弱さと強さ。それら受け入れるからこそ生まれる人生に対しての尊厳が楽曲には深く刻まれ、時としてそれは、この音楽を聴く誰かへのメッセージとして気高く発光している。千陽(Gt / Vo)、美寿々(Ba / Vo)、ひな(Dr / Cho)の3人に、結成8年目にして届けられたこの決定的な1作に込めた思いを聞いた。
取材・文 : 天野史彬
写真 : 梁瀬玉実
「いろんな私」がいるアルバムになった
──例えばいまから10年後にnolalaに出会った人がこの『i my me mine』というアルバムを手に取った時に、この作品を通してnolalaというバンドがどういうふうに生きてきたのかを生々しく知ることができるし、10年後でもきっとダイレクトに伝わるものがある──そんなファースト・フル・アルバムだと思いました。本作を作り上げていまどのようなお気持ちか、おひとりずつ教えてください。まずはひなさんからお願いします。
ひな(Dr / Cho):これは『i my me mine』というタイトルにも込めた気持ちでもあるんですけど、「いろんな私」がいるアルバムになったなと思います。この3人の人生……なんて言ったら重すぎるかもしれないけど、生活をかけて作った作品です。「これがnolalaだ」と言えるようなアルバムになったと思います。
──千陽さんはいかがですか?
千陽(Gt / Vo):私がnolalaをはじめたのは25歳で、いまの時代で考えると遅めなんです。いまは10代でデビューするミュージシャンが多いじゃないですか。でも私たちはそういうバンドではなかったし、だからこそ、他のバンドと同じようにやってはいけなくて。いろんなことを考えながら戦略を立ててやっていこうとしていたんですよね。ファースト・フル・アルバムを出すことも、そのなかの目標のひとつとしてあったんです。でも、なかなか思うように物事は進まなくて。フル・アルバムを出すことも夢のままで終わってしまうのかなと思っていたなかで、こうして実現できたのは……録り終えたいまでも夢心地というか、凄いことだなと思います。だからこそ、これで終わりじゃなくて、ここからしっかりと結果を出さないといけないというプレッシャーもあります。
──美寿々さんはいかがでしょうか。
美寿々(Ba / Vo):この5月でバンドは8年目に入るんですけど、私たちがいままで積み上げてきたこと、頑張ってきたことが詰め込まれたアルバムだと思いますし、それと同じくらい、新しい一面もあるアルバムなんです。個人的なことで言うと、いままでと違うベースを持ってレコーディングした曲があったり、私がギターを弾いて入れてみた曲もある。そういう意味ではいままでよりも1段上がった印象のある作品なので、「こんなこともできるんやで」という部分も含んだファースト・フル・アルバムになったと思います。
──ひなさんがおっしゃっていた、「人生や生活をかけた作品である」という部分は、アルバムを聴いていると凄く伝わってきます。皆さんにとって、nolalaというバンドをやることは何故、人生や生活をかけ得るものになったのだと思いますか?
千陽:ぶっちゃけ、nolalaである理由はないのかもしれないです。でも、私は変に負けず嫌いだし、そのくせに飽き性(笑)。なので、こうやって長くバンドを続けることができたことが、自分にとっては凄いことだなと思うし……それに、周りには「やりたいことがないから、なんとなく大学に行く」とか「なんとなく働く」みたいな人生を送っている人も多かったなかで、自分で「音楽をやりたい」と思えて、それを続けることができたのも、凄いことだなと思うんですよね。
──そうですね。
千陽:その選択をすることで「一般的」と言われる人生から離れた生活をすることになったし、そのことを馬鹿にされることもありますけど、それでも、「私は君たちにはないものをもっているし、君たちにはない時間を過ごしてきたんだ」ということをしっかりと伝えて、理解してもらって、見返すまでは、やっぱり、辞められないなと思います。
美寿々:私はいまになって振り返って、「ああ、人生かかってたんや」と気づいた感じですね。音楽が好きで、歌うことが好きで、バンド活動が好きで、もちろん売れるための戦略とかは大変やけど、そういうこともひっくるめて、やりたいことを楽しみながら活動してきた。で、気づいたら「人生、かけちゃってたな」っていう(笑)。でも、そうやってきたからには、キリのいいところまでバンドをやって「楽しかった、お疲れ様~」と辞めていくようなことはしたくないし、周りから「やっと辞めたか」みたいなことを変に思われないように、ちゃんと「私たちにしか経験できないことを経験してきたよ」と言えるような、財産を手に入れたいなと思うようになりました。
ひな:私は、昔から普通に音楽をやらせてもらえる環境にいたし、音楽しか続けることができなかったから、続けているんですけど……nolalaでなきゃいけない理由は、千陽ちゃんの曲が好きだからです。それだけです。

──千陽さんが作る曲の、どんな部分に惹かれますか?
ひな:「〇〇っぽい」みたいなことを言われたことがないんです、nolalaって。その唯一無二なところが好きです。
美寿々:私は、もう本能的に好きです(笑)。悪く言えば今時の感じではないのかもしれないですけど、でも例えば、みんなで車に乗っている時に好きな曲のプレイリストを流すと、(千陽の選ぶ曲は)「同じ音楽を通ってる!」と思うんです。HYの悲しい曲とか、大塚愛の悲しい曲とか(笑)。そうやって私と同じような大好きな曲を吸収したうえで出てきているのが千陽ちゃんの曲なので、理由もないくらい好きです。
──おふたりの意見に対して、千陽さんご本人はいかがですか。
千陽:そうですね……「このバンドの曲、あれっぽいよね」みたいに見えることを、私はあまりよしとしていない、という部分はあると思います。「あれっぽい」と言われるものの方が売れやすいと思うんですけどね。でも、自分がいままでブレずに信じて聴いてきたもの、大切にしてきたもの、そういうものを吸収したなかで出てきたので最大限、nolalaらしさを出したいなとは思っています。
──過去のインタビューを読む限り、結成当初、千陽さんのなかにスリー・ピース・バンドというスタイルへのこだわりはそこまでなかったそうですけど、nolalaとしての活動を続けてきたことで気づいた、スリー・ピース・バンドという表現スタイルの魅力などはありますか?
千陽:スリー・ピース・バンドは世に溢れていますけど、そのなかでも、私たちはツイン・ヴォーカルで、しかも3人全員がコーラスをできる。それによる爆発力があると思うんですよね。もうひとりリード・ギターがいると、むしろ映えないスタイルだなと思うんです。シンプルな曲のなかで声を引き立たせることができるのは、この編成のよさだと思います。もしも結成の時にリード・ギターがもうひとりいたら、「コーラスもう1本入れよう」とは思わなかったと思う。
──nolalaの曲のコーラ・スワークは素晴らしいなと思うんですけど、裏を返せば、コーラスへのこだわりが開花したのは、スリー・ピースだったからということですよね。
千陽:元々、私はリード・ギターがある曲ばかり聴いていたから、自分で曲を作る時も頭のなかでリード・ギターが鳴っている曲を作ることが多くて。それをスリー・ピースにしようと思うと、どうしてもサウンド的に物足りなくなってしまうんですよね。でも、かといってリード・ギターを入れるという選択肢があったかというと、それもなくて。「スリー・ピースという形のままでどうやってサウンドに厚みを出すか?」と考えた時に、「声」という楽器を使えばいいんじゃないかという考えに至ったんです。それよって、「ガールズ・バンド」とか「ツイン・ヴォーカル」とか「スリー・ピース」とか、そういう括りに入れられてしまうことから外れるための武器が増えればいいなとも思ったし。これもやっぱり、他のバンドと被らないようにしたからこそ行き着いたことだったのかなと思います。
