“猫メリ” って略すとおいしそうです(笑)
──アルバムの他の曲も真部さん聴いてみられました?
真部 : はい。友達の森夏彦が参加してますし( “猫とメリケンサック” )。やっぱり多彩だなと思いました。
──前作からすごくカラフルになったなと思います、僕も。
ももす : えー、本当ですか? 能力者になれるかな、ウフフ。
──単純に参加された人数が多いというのもあると思うんですけど。
ももす : それはあると思います。人と関わることも増えました。あと、前作から今作までの間にいろいろと挫折などもしたので、新しく再生したのがこういう曲たちだったのかなって思います。
── “エソア” や “6を撫でる” みたいなちょっと派手めのタイアップ曲が目立ちますが、よく聴くと大人っぽい曲が多くて、奥行きを感じました。
ももす : 棺桶のなかで最後に聴ける音楽にしたいなとは思いますね。
真部 : わ、笑っていいのか……。
ももす : 笑ってください。 “十二単と猫と宇宙。” であったり “UKINE” であったり。
真部 : あー、それいいですね。
──僕もその2曲には印をつけています。R&Bっぽいビートが新鮮でした。
ももす : そうですね、はい。
──前にインタビューしたときに「ファンクとかR&Bも好きだけど自分の曲にうまく反映できない」みたいなことをおっしゃっていましたが、うまくできるようになってきた?
ももす : はい。ちょっとずつ学んできたというか、いつの間にかできるようになっていたというか。大人になったんじゃないですかね。
──何か秘訣はあるんですか?
ももす : 大人になる秘訣ですか?
──大人になる秘訣でもいいですよ。
ももす : それは、やっぱり寝ることですね。寝れば歳とるんで。

──真部さんはアルバム全体を通してはどんな印象がありますか?
真部 : 僕のなかでは年齢不詳な感じがあるのと、そのときどきのモードの変化がやっぱり不思議な感じがしますね。 “十二単” には僕もちょっとびっくりしました。自分にないテイストのものを入れたいと思ったときに後回しにするのはすごくわかるんですけど……。
ももす : これは最後に作った曲なんです。
真部 : そうだったよね。でもやっちゃうんだ、という(笑)。歌わされてる感がないというか、ちゃんとアーティスティックに仕上げてるのは本当にさすがだなと思いました。ももすちゃんじゃない人がやったら、もっと曲と歌を乖離させるか、もしくは近づけてそれっぽくするかのどちらかだと思うんですけど、その中間のところでひとりのアーティストとして、自分の楽曲として仕上げてるのがすごい。
ももす : ありがとうございます。うれしい。
真部 : それはやっぱり曲を書いて歌ってる人の特権っていう気がします。
── “曖昧模糊” や “植物戦争” はわりと得意なタイプの曲じゃないですか?
ももす : “曖昧模糊” に関してはギターが得意ですね。セヴンス系のギターにちょっとペンタトニック調のリフを入れたりするのが得意なんで、制作するのは楽しかったです。歌詞に関しては、ん~……。
──「曖昧模糊」とか「酔生夢死」なんて、ももすさんの好きそうな言葉だなと思いながら聴きましたよ。
ももす : 自分の心ってレントゲン撮れないじゃないですか。なので、それを巧みに使って、こういう歌詞を書く病気も持ってるんだよ、って伝えられたかなって思います。
──病気?
ももす : はい、病気だと思います。曲を書くのって、わたしにとって病気なんですよね。
真部 : それはちょっと僕はわからないです(笑)。
ももす : えー? わからないですか?
真部 : 僕は曲を書くことが日常になかった人なので。
──真部さんは意識的に「曲を作るぞ」と思って作っている?
真部 : それがないとできないです、僕は。だからそういう意味で面白かったですね。
ももす : でも “曖昧模糊” は病気だけど “植物戦争” は治療として書いてるんですよ。 “曖昧模糊” では自分を慰める意味でギターを弾いたり、誰かの心の隙間に入りたいということを漠然と書いたりしてます。
──自分のなかにあるものをそのまま出す曲と、整頓して出す曲の違いみたいな感じですか?
ももす : 整頓なんてできないです。部屋は、めっちゃお風呂掃除もするし、シンク掃除もするし、掃除機も毎日かけるけど、心はまったく掃除できてないですね。そのまま曲を書いてる感じです。
──そうすると、治療と症状の違いはどこにあるんでしょうか。
ももす : “曖昧模糊” はたぶん、病気なのに病気でないって嘘をついてる曲だと思うんです。
──あー、だんだんわかってきました。
ももす : “植物戦争” は虚無感や鬱屈を多角的に見て書いた曲です。
──客観性が入っているということですね。
ももす : はい。あと、人間のいまの暮らし? 毎日、電車に乗ったり、バスに乗ったり、車に乗ったりっていうことに関する「よく考えたらそれって何の意味があるんだろう?」とか、「でも、それによって心が動かされることもあるしな」とか、機械と人間との関係を歌いたかったのもありますね。
真部 : すごい。隠し味をいっぱい効かせてるんですね(笑)。
ももす : 恥ずかしい! まじめに言っちゃった。

──まじめに話してくださってありがたいです。一方、 “犬飼いたい” は思ったことを素直に歌ったように聞こえました。
ももす : わたしは猫派なんですけど、「猫派にとっていちばん合理的なのは、散歩してる犬を見ることであるな」って、これを書いて思いました。
──飼うのは非合理的だと。
ももす : 非合理的ですね。猫も困ると思うし。正直に言うと、見かけたときは「飼いたい」と思ったんですけど、家に帰って「やっぱよくないな」と思いました。世の中、散歩してる犬がいっぱいいるから、見ればいいんです。
──「でも家には猫が2匹いるから」と歌っていますね。
ももす : 実家に猫を連れて帰省していたときに書いたんです。また東京の家に戻ってきたので、いまは1匹です。
──ご実家に猫がいるんですね。
ももす : わたしが東京で飼っているのを家族がSNSで見て、影響されて飼いはじめたんです。
──猫を好きになったきっかけは?
ももす : 小学生のとき、夜10時過ぎとかでもひとりで近所をふらついてたんですよ。そのときについてきてくれたのが猫だったので、それからずっと猫派です。
──ちなみに真部さんは犬派と猫派、どっちですか。
真部 : 両方ですね。子どものときペットを飼えなかったので、動物を慈しむ心が……(笑)。けっこう動物に好かれるので「かわいいな」と。
──この曲と “UKINE” “宵待花” “十二単と猫と宇宙。” は堀越亮さんのストリングス・アレンジがムードを膨らませていますね。
ももす : 切ない感じをより出してくれるというか。マイナー・キーのしんしんと雨が降るような表現を、ストリングスで書いていただけました。ストリングスはプロになってから入れるようになったんですけど、奥行きが生まれるから面白いなって思います。
──ギターの弓木英梨乃さんとは前作でも一緒にやっていましたが、今回も多くの曲に参加されていますね。
ももす : はい。 “エソア” と “6を撫でる” と “僕のなかの悲しみ” と。わたしが世の中でいちばん好きなギタリストです。
──どういうところが好きですか?
ももす : 全部。見た目から、性格から、ギターを弾く姿から、音色から、アレンジから、フレーズからすべて。人として大好きです。
──彼女が入ると曲がどんなふうに変わる感じがしますか?
ももす : 新しい風が吹くような……わたしのアレンジをサ〜ッとさらって、そこに何かとてもかっこいいものを、銅像みたいなものをバーンって置かれる感じです。勲章かな。
──おいしくるメロンパンのナカシマさんにアレンジを委ねた “猫とメリケンサック” はどうでした?
ももす : 楽しかったです。けっこう前に作った曲で、今回、アルバムにどうしても入れたいってなって、ナカシマくんに直接連絡したら「いいよ」って返事をくれたので、引き続きまたやっていただきました。
── “猫とメリケンサック” というタイトルが強烈ですね。かわいいものと物騒なものの組み合わせで。
ももす : 本当ですか? でも “猫メリ” って略すとおいしそうです(笑)。
