Bucket Banquet Bisの色が濃く出た作品にしたい
──先行配信曲の"現文 | 虎視眈々と"は昨年10月のフリーライヴ〈Hello, My Name Is〉で新曲として披露した曲で、つまり1年ちかく前からあった曲。そこからアルバムの構想はどのように考えていきましたか?
金井:"虎視眈々と"は、宮本武蔵の『五輪書』をテーマに「自分たちはいまが勝負」「一本一本のライヴが勝負だし、後がないつもりでやるくらいがちょうどいいよね」という、自分に対して思っていたことを書いた曲なんです。それがおそらくみんな的にもしっくりきて、「この曲いいよね」というチーム全体の手応えに繋がった。そこから「これを"ライヴに欠かせない曲"以上のものにしたい」という欲求が生まれて、「この曲をどう膨らませようか」と考えていったんですけど、僕のなかで急に現文の教科書のイメージが浮かんできて。自分は歌詞を書く上で現文の教科書から結構インスパイアされていたし、"17 (until the day I die)"という青春を歌った曲もあったので、アルバムのテーマはそこから。アルバムのテーマは青春で、学校をテーマに歌詞を書きたい、自分たちの好きな音楽ジャンルのひとつであるエモに焦点を当てたアルバムで、"虎視眈々と"ではじまり"17 (until the day I die)"に集約される流れにしたい──というアウトラインを、自分からメンバーに提案しました。
柿沼:フリーライヴでは新曲を3曲やったので、他2曲も当然アルバムに入るものだと思っていたんですけど、金井のなかでコンセプトが見えてきた時に、その2曲は違うという話になって。そこから他の新曲を作っていく流れだったので、非常に痺れるタイムスケジュールで、「間に合うか?」という感じもありつつ。
金井:その時点ではアルバムのテーマは僕の頭のなかにしかないので、3曲くらいパッと書き下ろして「このラインで行きたい」とみんなに伝えてました。そこから「エレキギターは歪んでいること」とか、アルバムを作る上での約束事も見えてきて。
──ギターはやっぱり歪んでいてほしかったですか?
金井:僕自身は音楽ジャンルにそんなにこだわりはないんですけど、柿沼はやっぱりロックギタリストなので。自分のポテンシャルやキャラクター、好きなものを踏まえて、どうロックバンド然としていられるか……という変遷はこれまでの作品でもありましたが、今回のアルバムでも「いままでBIGMAMAが広げてきた風呂敷のなかで、今回の作品はどう陣取るの?」という自問自答やジャッジがあって。その過程を経て、「歪んだエレキギターが鳴っている作品にしたいよね」という方向性になっていきました。(歪んだギターは)いま流行っている音楽のなかで鳴っていない音なので、世間に逆行している自覚はあります。「いや、でも、プライドを持ってそれをやるよね」という感覚は、制作を進めながらだんだん強くなっていきました。
──で、アルバムのきっかけになった2曲("現文 | 虎視眈々と" / "17 (until the day I die)")は、どちらもビスさんが作曲に携わっていると。
金井:作曲のスキルを持っている人間だということはもちろん(新ドラマーを決める)オーディションの時点で知っていたんですけど、彼の作る曲に光るものがあると知ったのは後になってからで。本当に、彼を選んだ僕らのセンスが最高だったという話に尽きると思う。
柿沼:BIGMAMAのアルバムは作品ごとに色が違いますけど、今回のアルバムはビスくんが入ってからはじめてのアルバムなので、やっぱり彼の色が濃く出た作品にしたいなと。新生BIGMAMAとして新しい感覚を持って、僕らが未来に進むためには、まずここからはじめないといけない。その上で、聴いた人が「この先ずっと、BIGMAMAと一緒に未来を歩んでいきたい」と思うものを作らなきゃいけないと思っていたし、そういうアルバムを作ることができたと思っています。

──"虎視眈々と"は、新体制初のアルバムのオープニングにふさわしい曲ですよね。いまの5人で、改めてBIGMAMAの王道に挑む感じ。
金井:僕は「BIGMAMAで週刊少年ジャンプ原作アニメの主題歌をやりたい」という欲求をずっと持っているんですけど、この曲にはそういうポテンシャルがあると思ってます。
柿沼:フリーライヴで新曲をやろうと決めたあとに、デモの試聴会をチームのみんなでやったんですけど、この曲はデモの段階から、バイオリニストのいるロックバンドとしての強みが分かりやすく出ていたと思います。だけど、いまの環境に来なかったらできていなかった曲だろうなと思う。「こういうのがBIGMAMAでしょ」と背中を押してもらえた感覚があって。
金井:たくさんある曲のなかから「これを進めていきましょう」という曲を選ぶのってセンスがいると思うんですけど、そのジャッジを本人たちだけでするのは意外と難しいんです。長くバンドを続けているといろいろな音楽を好きになってしまうし、いろいろなことができるようになってしまう。だから「背中を押してもらう」ということが実は重要で、最近は特に「作りたいものだけ作って、あとは客観的に選んでもらう」という感覚でいます。
──歌詞は、リズムに対する言葉のはめ方が気持ちいいですね。サビのこのメロディに〈虎視眈々と〉という歌詞を当てた時点で勝利ですよ。
金井:筆が踊っているなと自分でも思います。作詞も作曲も自分でやると、「曲も歌詞も自分が書いたものだから」と責任感が生まれて、良くも悪くも言葉が重くなるんですよ。だけど、作詞や楽曲提供のお仕事をさせていただく時もそうですけど、他の人が書いたメロディには、より自由に言葉を乗せられる。この曲はふたり(作曲のビス、柿沼)からカッコいいトラックをもらって、遊ぶような感覚で歌詞を書けたんですよね。
──"17 (until the day I die)"はどのように生まれた曲ですか?
柿沼:ビスくんのデモのなかにあった曲なんですけど、「イントロでギターとバイオリンがユニゾンしている」とか、彼の思うBIGMAMAの良さをイメージしながら作ってくれた曲らしく。ツーコーラス以降はみんなで作っていったんですけど、「それいいね」「おもしろいね」と言いながら作っていったらどんどん要素が増していって、最終的にものすごく壮大な曲になりました。
──この曲は全員が自分らしさマックスで出力しているから、柿沼さんのギターソロはガッツポーズしたくなる感じだし、金井さんの歌詞も濃い。「ここは金井さんのパンチラインが炸裂しているな」と思った箇所に線を引いていったら、線だらけになってしまいました。
金井:この曲も自分の作曲じゃないから、筆がめちゃめちゃ踊っているんですよ。だからおおよそ10曲分のパンチラインが詰まっていると思うし、僕の技術の結晶が渋滞している感覚はあるし……「これを伝えたい」という部分をちゃんと作って導いてあげることが作詞のセオリー的には正しかったりするから、この歌詞がいいか悪いかは分からないです。だけどこの曲に関しては、破綻してもいいからパンチラインを揃える、自分の中で感度の高い言葉を絶えず打ち込んでいくことに答えがある気がしました。
