Kan Sano “Pマママ”
YouTubeで不思議なタイトルに誘われるようにMVを見て感動してしまった。ルーティナー(ルーティン=繰り返し行動をする人)と呼ばれる知的障害者が発する独特の音声にインスピレーションを得て、彼らの歌や話し声や生活音をループさせたり歌やピアノと重ねて作り上げた曲で、もとは昨年10月から今年の3月にかけて金沢21世紀美術館で開催された「lab. 5 ROUTINE RECORDS」展への出展作品。曲名はKan Sanoが訪問した福祉施設の壁に飾られていた短冊の「まっすぐみぎの生まれてきたんだよPマママ」という言葉(なんと謎めいて魅力的な響き)の一部だという。説明で枠が埋まってしまったが、共感覚的な「見立て」「置き換え」のマジックはもちろん、優しく温かい曲も歌もいい。展示の一部だったMVももちろん必見。
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KIRINJI 『STEPPIN' OUT』
いつも通り変幻自在でありつつしっかりと芯の通ったすばらしいアルバムだが、今回は「素敵な予感」( “指先ひとつで” “Rainy Runway” )や「必ずや上手くいくよ」( “説得” )を筆頭に未来志向の前向きな言葉が並び、メロディやサウンドも明るく力強いものが多いのが面白い。僕の感覚とはかなり違うけれど、歌詞以上に雄弁に高揚感を表現した “Runner's High” のコーダには感服した。韓国のバンドSE SO NEONを迎えた “ほのめかし” とともに、良曲揃いのアルバムにあっても白眉だと思う。エレクトロニック・ポップに乗せて老いと死に思いを馳せる “不恰好な星座” は亡くなった元YMOのふたりへのはなむけか。 “I ♡ 歌舞伎町” で若者を見つめる目線と同様に50代ならではの感慨であり、その正直さが好感を誘う。
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クレイジーケンバンド 『世界』
ドラマー交替の影響か、バンドに徹し切ったサウンドといい、横山剣のメロディの冴えといい、薫り高い異国情緒といい、感触はいつも以上にフレッシュ。 “東方旅館 - Oriental Hotel -” の圧巻のストーリーテリングから “夜は千の目を持つ” の唐突な「ドゥ・スポーツプラザ」まで、バズに夢中な業界の趨勢もどこ吹く風……というわけでもなかろうが、J-POP史上最高級の想像力がハイコンテクストに躍動している。「無限の大事業」( “宇宙ダイバー” )、「セシルカット」( “レコードの日” )、「限りなく漆黒(くろ)に近いブルー」( “観光” )といった歌詞の断片、“Sweet Soul Train” のビートに “マンダリン・パレス” のタイトルなど、歴史を消化したアタマとカラダが諸要素を聴き手の耳と心に引っかけ、そこから「世界」を広げていく。
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