黒木渚 『器器回回』
所属事務所を離れると発表してから約1年、独立後初の作品集。昨年10月にリリースしたアンセミックな “独立上昇曲 第一番” 以来配信してきたシングル3曲をすべて収録している。バンド・サウンドを軸にしつつもこだわらない硬質かつ闊達なアレンジが、沈みつつも豊かな色彩を呈している。 “Gatsby” ではキャッチーなサビから「ギャッツビー駆け落ちしてよ/アートと心中したい」というドキドキするような願望まで叫ぶように歌い、もうひとつの新曲である表題曲ではカ行の連打とユーモラスな掛け言葉で音響的快楽をもたらしながら人間の機械化を皮肉る。彼女の小説にも通じる味わいの全5曲。自己と他者、人間と自然、ひいては世界へ、宇宙へと思索の翼は広がりっぱなし。角だらけで不器用なヒューマニストの「らしすぎる」再出発だ。
半崎美子 『うた弁 4 you』
テーマは手紙。サイン会で耳を傾ける観客の話から、あるいはラジオ番組に届いた手紙から受け取った人々の思いを「わたしというフィルターを通して歌にしている」と常々話す「ショッピングモールの歌姫」からの返信のような8曲である。 “途” は若き日の自分に宛てた今の半崎からの手紙で、故郷を遠く離れた我が子に語りかける “雪の消印” は彼女の両親の心が重なるよう。 “この文字が乾く前に” では手紙を書くという営みそのものを歌う。 “涙の記憶” “星を伝って” はファンへのメッセージだ。包容力のある特徴的な歌声を含め、「発信」より難しいと言われることもある「受信」に稀有な力を発揮する半崎ならではの表現であり、ズバリ曲名そのままに地球を気遣う “地球へ” でのゴスペル・クワイアとの歌の交歓にも、それは表れている。
lyrical school 『NEW WORLD e.p.』
今年2月のライヴでリリスクが「共学」になったことを知ったときにはびっくり(驚愕)した。ラップ・グループとして完成度を上げる一方でコア化していたともいえる前体制をあえてリセットしたわけでもないとは思うが、前々体制にあったアイドル然としたキュートさを軽く取り戻しつつ、男声のアクセントやRachel、BBY NABEの起用でリリスク流の「アイドルラップ」(今も標榜しているのかは不明)をアップデートしている。単純な回帰にはしないのがさすがだ。新旧をつなぐアンカーがminanというのがまた長年のリスナーには感慨深い。男女混成グループにはそれなりの難しさもあるかもしれないが、作家陣は大いに刺激を受けるだろうし、可能性は大きく広がっている。初めての景色を見せてくれることを期待したい。