Manchester Collective / Neon
LABEL : Bedroom Community
2016年に結成されたイングランドのアンサンブル、マンチェスター・コレクティヴの新作はミニマル・ミュージックに焦点を当てられている。ジュリアス・イーストマンやスティーヴ・ライヒの楽曲はもちろん、マーキュリー賞にノミネートされ、『ゲーム・オブ・スローンズ』のサントラに関わってもいるハンナ・ピールや、ホーリー・ハーンドンとのコラボレーションでも知られるベルリン拠点のヴォーカリスト / コンポーザー、Lyra Pramukの楽曲もそうだ。どの楽曲も何らかの音色が反復されることを意識されている。ジュリアス・イーストマンの再評価はもはや今の定番と言ってもいいので、ここはハンナ・ピールの楽曲に注目すると、彼女の組曲「Neon」はコレクティヴの演奏とエレクトロニック・ミュージック、フィールド・レコーディング(新宿駅のサンプルが使用されている)が慎ましやかに溶け合い、ミニマル・ミュージックに様々な要素を取り入れたポスト・ミニマル・ミュージックともいうべきサウンドを達成しており、このコレクティヴの底力を見せつけるものになっている。
Penguin café / Rain Before Seven...
LABEL : Erased Tapes
1つの楽器が1つのアルバムを導くこともある。バラフォン(西アフリカの木琴)をアーサー・ジェフスが手に入れたことが本作に通底しているポジティヴィティの源泉になっているらしい。本作の共同プロデューサーは〈イレーズド・テープス〉のレーベル・オーナーでもあるロバート・ラスなのだが、彼と話し合いの末、オプティミスティックなサウンドの方向性になったようだ。バラフォンだけではなく、メロディカやウクレレなども音色に加わり、どこかトロピカルな風合いを本作に呼び込んでいることが、「ポストクラシカル」という枠から彼らを解き放っているように思え、それこそ父・サイモン・ジェフスのプロジェクトであるペンギン・カフェ・オーケストラにも通じるようなサウンドになっている。また、先行曲でもあった「Find Your Feet」のようにビートが効いている楽曲もあり、その点も面白い。むろん、彼らのストリングスやピアノの美しさはこれまで通り健在であり、上述したサウンドと見事に溶け合っていて、彼らにとっての新機軸と言いたくなるような作品になっている。
Rob Moose / Inflorescence
LABEL : Masterworks
yMusicのヴァイオリニストであり、中心人物でもあるロブ・ムースの新作EPは5人の音楽家(ここではヴォーカリストといったほうがいいだろうか)とのコラボレーションで成り立っている。yMusicについては前回の連載でも触れたので詳細は割愛するが、簡単にいえば、現在の米ポピュラー・ミュージックにおけるクラシック~現代音楽の要素の中心となっているコレクティヴのひとつといえるだろう。特にロブ・ムースの貢献は著しいものがある。本作に客演しているブリタニー・ハワードが所属しているバンド、アラバマ・シェイクスの大傑作『サウンド・アンド・カラー』のストリングス・アレンジメントを担当していたのも彼だ。本作では、彼のストリングスに客演ミュージシャンのヴォーカルが乗っているという極めてシンプルな構成なのだが、そのシンプルさゆえに非常にユニークなサウンドになっている。特にストリングスはその在り方がどんどん変容してゆき、時間が経つたびに新たな表情を、非常に滑らかに見せてゆく。いわゆる歌の伴奏ではまったくなく、歌と拮抗するストリングスの在り方を追及している。これが本作の肝といえるだろう。