GEZAN with Million Wish Collective 『あのち』
ライヴをともにしてきたMillion Wish Collectiveとともに、GEZANは複数の人間のそれぞれ異なる声と打楽器を重ねて混沌を作り出し、巨大なエネルギーを放つ。プリミティヴで祝祭的なその響きは、マヒトゥ・ザ・ピーポーが多大な示唆を受けたアイヌのウポポや盆踊りにも通じるし、バリ島のケチャやピグミーの合唱やブルガリアン・ヴォイスなど、各地の合唱と舞踊の伝統をも彷彿とさせる。反戦歌集とも言えるが、繰り返し登場する「JUST SAY NO」というフレーズは「ならぬことはならぬものです」のような確信的な力強さに満ち、歌詞は──そのさまざまな意味での「強さ」にもかかわらず──ときに音にまで還元されて聴き取れないことも多い。「ありとあらゆる現象はメッセージ」(“JUST LOVE”)と肝に銘じるべき、文句なしの傑作。
BananaLemon 『BESTY』
恥ずかしながら初めて聴いたのだが、2016年結成とキャリアは短くない。メンバーはそれぞれ異なるナショナル・ルーツを持ち、幾度かの異動を経て2021年から今の3人編成になっている。ずっとインディペンデントで活動し、STY、Lauren Kaori、NA.ZU.NA、山田康人といった売れっ子作家とコラボしてきた彼女たちの1st EPが本作だ。Shogen率いるUNI-Qreativesのプロデュースで、麦野優衣、D&Hらも参加。曲もいいし、歌もダンスも力感とキレを兼ね備えていて、明快なかっこよさを持っている。唯一の新曲である “BESTY”(他の4曲は昨年配信)はタイトル通りの友情ソングで感動的だ。K-POPの系譜とはまた違ったガール・クラッシュの先駆者として「Grown and independent」(“BESTY”)の矜持を見せつけてもらいたい。
君島大空 『映帶する煙』
彼自身のライヴは未見だが、サイドマンとしての演奏は何度も聴いたことがある。作品も折にふれて聴いてきたが、この1stフル・アルバムには納得すると同時に期待以上の手ごたえを感じた。「合奏形態」の仲間である西田修大、新井和輝、石若駿が参加しているが、意外にバンドっぽくなくて、アンビエンスとテクスチャーにものすごく気を配って録音、ミックスされたことがわかる。その音像は華奢な歌声ともあいまってとても官能的で、ときおり現れる人なつっこいメロディには耳輪をくすぐられているかのよう。真ん中に配された “19℃” “都合” の2曲が強いアクセントになり、終盤に向けて上がっていく体温は最後の “No heavenly” で沸点に達する。なんとドラマチックなアルバム。『あのち』と同様、2023年の最重要作のひとつだろう。
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