2025/06/01 19:00

胸を打つ“夕暮れ”の侘しさや寂しさ

2025年5月4日(日)〈高知市文化プラザかるぽーと〉にて

──ファースト・アルバム『motoki tanaka』と比べて、今作はディスコ・ファンクだったりサーフロックだったりと、サウンドの幅が広がりましたよね。

motoki:1枚目は自分の中で出したかった音楽が固まっていたんですけど、2枚目は1枚目に入れられなかったものや新しく出てきたものを入れたくて。やりたいことが多すぎたんです。アルバムはコンセプトを固めずに、日記のような自分の記録をまとめるようにして作っています。

──さまざまなジャンルが混ざり合いながらも、軸としてサイケデリックが通っているように感じました。

motoki:バンド編成での楽曲は、自分としてはポップスを作っているつもりなんですけど、同じ人間が作っているとどうしてもその人自身の色が全体に滲み出ると思うんですよね。サイケだったり童謡のようなイメージは、そうした自分の中にある要素なんだと思います。

──“くらげみたいよ”の後半の展開や、4曲目“環状7号線 -夜夜中-”から5曲目“環状7号線”への流れは、静と動のコントラストが効いていますね。

motoki:“くらげみたいよ”は静と動が同居するメリハリのある楽曲ですね。“環状7号線”は、先に“環状7号線”の方が完成していたんですが、レコーディングするにあたって「このアレンジだとレーベルからゴーサインが出ないかもしれない」と思って、“-夜夜中-”を後から作りました。原型となった“環状7号線”も、後からそっと「実は原型でこんな曲もあります」と聴いてもらったんですけど、やっぱりOKは出なくて……。それでも諦めずにこっそりレコーディングを続けて、改めて提出したら収録が決まったんです。最初の時よりも曲の雰囲気がだいぶ変わって、曲順も何度も組み直して、最終的に今の流れに落ち着きました。

motoki tanaka 「Catch Me If You Can」- teaser -
motoki tanaka 「Catch Me If You Can」- teaser -

──“こうもり”では、夕暮れ時の情景が描かれていますね。motokiさんにとって、夕暮れは特別な時間なのでしょうか?

motoki:1日の中でいちばん好きな時間です。住宅街を歩いていて夕飯の匂いが漂ってくるような、あの時間帯。1日の終わり。人生という長い尺で見ても、夕暮れは終わりに差しかかっているイメージがあって、そういう寂しさや侘しさに胸を打たれるんですよね。

──夕暮れにおいても、特に“人との別れ”に焦点が当たっているようにも感じました。

motoki:人との出会いって意外とよく覚えていなかったりして、逆に別れの方が強く印象に残っていることが多い気がするんですよね。ノスタルジーを感じるものが好きなんだと思います。


──アルバムのラストに収録された“月日は釣瓶落としのごとく過ぎゆく”も、人との別れがテーマになっていますね。

motoki:この曲のサビの「お別れの時はじゃあまたねって / 笑顔で手を振って」という歌詞には、アルバムの締めくくりであると同時に、次の出会いへとつながるような意味も込めています。空想や妄想の中にちょっとだけ“本当”を入れるという作業の中で、この曲は自分にとって“本当”の部分が強い曲です。

──ということはmotokiさんの実体験がもとになっていますか?

motoki:はい。幼少期の実体験をもとにしていて、僕は母方のおばあちゃん子だったんです。うちの親は転勤族だったので各地を転々としていたんですけど、高知に住んでいた頃は毎週のようにおばあちゃんが会いに来てくれて。毎週会っているしまた会えるのに、別れはいつも寂しかったんですよね。今になって、その時の寂しさを曲にできると思って書きました。自分にとって特別な一曲です。

──5月4日(日)に地元高知県で開催された、アルバム発売記念ライヴはどうでしたか?

motoki:地元という思い入れのある場所で、DJをしてくれたり出店してくれたり、友人たちと一緒につくりあげたイベントでした。来てくれたお客さんも愛に溢れている方ばかりで、地元ならではの自分の柔らかい部分が引き出されたように感じました。

今のチームは僕が高知に住んでいて、平野くんが東京、rickyが京都という遠距離恋愛みたいなバンドなのですが、昨年秋に行った東名阪のバンド・ツアーあたりから、バンドのまとまりがとても良くなってきた感覚があって。高知でのレコ発イベントでもその雰囲気はしっかり保たれていたのが嬉しかったです。

──来たる6月6日(金)には、八丁堀〈七針〉で東京公演がありますね。どんなステージにしたいですか?

motoki:高知でのあたたかい空気感をそのまま東京に持って来れたらと思います。〈七針〉はコンパクトな会場でお客さんとの距離も近いので、より一体感を感じられるステージになると思います。すごく楽しみですね。

左から 平野ヒラリー智之、motoki tanaka、senoo ricky

ディスコ・ファンクやサーフロック、やりたいことを詰め込んだセカンド・アルバム!


ライヴ情報


リリース記念ワンマンライブ
motoki tanaka〈Catch Me If You Can〉

日程:2025年6月6日(金)
出演:motoki tanaka(band set)
会場:八丁堀 七針
時間:開場 19:00 / 開演 19:30
料金:前売3,000円 / 当日 3,500円
チケット予約:七針 https://ftftftf.com/
主催:Lemon House Inc.

motoki tanaka のほかの作品はこちらから

PROFILE : motoki tanaka


ミュージシャン。ソロ、バンド編成で音楽活動を行っている。
2022年よりサポートメンバーを迎えてバンド編成にて活動開始。
同年のりんご音楽祭に出演。2023年12月に1st Album『motoki tanaka』をリリース、2024年1月にサブスクリプション 配信。アジアや欧州など世界各国のチャートを席巻する。以降東名阪ツアーや台湾ライブなど、各地を巡り活動を展開している。
ソロでは「情景の浮かぶ音楽」をテーマにした弾き語りのライブを展開する。

■Instagram : @motok1tanaka
■X : @motokitanaka

この記事の筆者
石川 幸穂

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この記事の編集者
石川 幸穂

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