9割の空想や妄想に、ちょっとだけ“本当”を混ぜる

──曲作りはmotokiさんお一人で?
motoki:そうです。ギターを持って作ることもあれば、散歩中や本を読みながらアイデアが浮かぶこともあります。
──メロディーと歌詞、どちらから先に作りますか?
motoki:メロディーが100%先ですね。リフから作ることもあります。歌詞は後付けで、メロディーに自然に収まるように書いています。9割の意味がない中に、ちょっとだけ“本当”を混ぜている感覚です。その時の自分がかっこいいと思うものや、空想や妄想をイメージとして混ぜる感じで作ってますね。
──サポート・メンバーには曲作りのどの段階で参加してもらうんでしょうか。
motoki:曲の原型ができたら「こういう曲をやりたい」と伝えて、まずは自由に演奏してもらっています。その中で自分が思っていたよりグッとくるフレーズがあれば採用していますね。せっかく参加してもらっているので、それぞれの色が入ったらいいなと。
──バンドとソロで、表現の違いはありますか?
motoki:ソロでは陰の部分が出やすくて素に近い感覚。バンドでは何をやってもいいというか、表現できる幅もぐっと広がるし、足し算より掛け算みたいな感覚でやってるところがありますね。陽の部分が出ていると思います。バンドだとどんな嘘をついても「メンバーみんなで作った」という共犯関係で責任が分散される安心感がありますね(笑)。
──セカンド・アルバム『Catch Me If You Can』についてうかがいます。まず、このタイトルはどうやって付けましたか?
motoki:先に「鬼さんこちら手の鳴る方へ」というタイトルが自分の中であったんです。それを英語にすると「Catch Me If You Can」という言葉が自分の感覚に一番近いなと思ってつけました。子供の頃の遊びって大人になるとしなくなるじゃないですか。あの頃から少し距離ができてしまった今、横文字にすることでその距離感含めいちばんしっくりきたんです。
──他の曲の歌詞でも「もういいかい?」「もういいよ」と入っていたり、子供遊びの要素が散りばめられていますよね。
motoki:童謡が好きなのと、言葉を聞いただけで幼少期に戻れるような共有しやすい言葉を使いたいと思ったんです。
──“鬼さんこちら手の鳴る方へ”のMVも、イメージを共有しやすいと感じました。
motoki:このMVは、同じレーベル〈Lemon House Inc.〉に所属するoono yuuki bandの、“Barei”という曲のMVがきっかけです。その映像では1人の男性ダンサーがいろんな場所で踊っているんですけど、そのダンサーの彼がうちの店に遊びに来ていたときに「motokiくんの曲で踊るなら“鬼さんこちら”がいい」と言っていたんです。レーベルからもコンテンポラリーダンスで完結するMVにしたいという提案をされて、彼の話になったんですが、“鬼さんこちら”の繰り返すギターの音を踏まえて、力強さとしなやかさを表現できるコンテンポラリーダンサー横山彰乃さんを推薦されて。僕は女性が踊る発想がなかったので目から鱗で。実際に横山さんの映像を観て「これはすごいものができる」と思いました。
──子供のころに感じていた「うまく言葉にはできないけどなんとなく怖い感覚」を思い出させるような映像でした。この雰囲気の着想はどこから?
motoki:MVと並行してアルバム・タイトルを考えている中に、「古杣(ふるそま)」という言葉も候補にありました。古杣というのは昔から高知に伝わる音の妖怪で、怪音現象はこの妖怪の仕業とされていたんです。以前から「音の妖怪ってかっこいいな」と思っていて、今回MVに取り入れることにしたんです。衣装や踊りも含めて、自分の想像を超えた仕上がりにびっくりしました。この曲の歌詞は、幼少期の帰り道や夕暮れ時のすこし寂しい感じだったり、うまく言葉にできない不安だったりのイメージなんですけど、そういうところともリンクしたビデオになりました。
──なるほど、妖怪がモチーフなんですね。
motoki:衣装も、最初はナマハゲとか神様のようなイメージで、悪さはしないけど畏怖がある、神々しい存在を意識して作りました。地域を限定せず、どこの国の人が見ても「うちにも似たようなのいる」って思ってもらえるとうれしいです。
撮ってくれた映像作家の代田栄介さん、踊ってくれたダンサーの横山彰乃さん、かっこいい衣装を作ってくれたKiwako Yoshieさん、所属しているLemon House Inc.のみんなで作り上げた作品であって、僕は絵を描くために用意されたパレットの絵の具のひとつだと思ってます。僕の作品というよりも、みんなで作り上げた合作ですね。