いちばん変わったのがギターへの関心
──今回、とくに新鮮に感じたのが、石井マサユキさんのエレキ・ギターとのデュエット曲 “チョコレートコスモス” や、こちらはアコースティックですが “幕開けのアルペジオ” などのギター中心の曲でした。やっぱり鍵盤のイメージが強いので。
今回、いちばん変わったのがギターへの関心かと思います。2023年にイノトモさんにギターを習いはじめたんですよ。
──シンガー・ソングライターのイノトモさん。ギターを教えていらっしゃるんですね。
昔から興味はあって、たびたびやってみるんですけど、手が小さいので押さえにくいし、指は痛いしで、何度も挫折してきたんです。でも今回はいいかげん、ちゃんとやってみようと。というのも(キーボードで作曲する)自分に飽きるじゃないですか(笑)。だいたいどうなるか見えてるし、手癖みたいなのもあるし。ギターで弾き語りしたら、違った自分に会えるんじゃないかっていう期待があって、頑張ってみようっていう気になったんですね。ただ、自分でYouTube見ながらやったり健太郎さんに習ったりしてもナアナアになってやめちゃいそうなので、ちゃんとお金を払って習いにいこうと思って、イノトモさんのギター講座に参加しました。
──個人レッスンですか?
いや、ファンの方に混じって、5人ぐらいで受けてました。2023年の7月から11月まで5か月間、月に1回かな。毎月、課題曲があって、コードを教えてもらいながら、みんなで一緒に弾いて歌うんですよ。唱歌の “浜辺の歌” とか、イノトモさんの曲とか、受講生たちが好きなくるりの曲とか。最後は発表会で、いままでやってきた曲でもいいし、好きな曲でもいいということで、すでに作ってあった “Silent Pop” をギターで弾き語ってみました。そのときはまだ歌詞がなくて、発表会のために歌詞を書いたんです(笑)。
──おお、〆切が(笑)。
そしたら「やらなくていいことなのに やらずにはいられない」という言葉が出てきて、ギターで弾くとフォーキーな言葉が出てくるのかもしれない、と感じたり(笑)。ますますギターへの興味が湧きました。ビギナーズ・ラックというのか、意外にうまくいったので味を占めたという。 “幕開けのアルペジオ” も、まだギターで作曲はできないので、ギターのことを思い浮かべながらキーボードで作って、ライヴでは一度ギターで弾き語りしています。
──ということは “幕開けのアルペジオ” のギターは朝日さん?
いや、録音までは無理なので、健太郎さんにお願いしました。キーボードで作った曲だから「こんな弾き方はギターではできない」って言われて。なので変則チューニングでやってるんですよ。
──まさに「幕開け」の曲なんですね。
もう一曲の “チョコレートコスモス” は最後に作った曲で、まだギターでは曲が作れないからキーボードで作ったんですが、このまま録音しても変わり映えがしないな、と思って健太郎さんに「これもギターにならない?」って聞いたら「そもそもギターでこういう曲は作らない」って言われてしまって。半音階ずつベースが下がっていく、鍵盤的な曲なので。ギターでやるなら、ギター1本だけで成り立つようにした方がいいという健太郎さんの提案で、石井マサユキさんに連絡したんですよ。今年の2月に。
──え! つい先日じゃないですか。
そうなんです(笑)。「歌詞はまだなので、できたら送ります」とデモを送って、マサユキさんから「こんなアレンジでどうですか?」と返ってきたのと、わたしの歌詞ができたのが同時だったんですけど、いい感じに組み合わさりました。もともと健太郎さんのリクエストはジュリアン・ラージだったんですよ。コーシャス・クレイのアルバム(『Karpeh』)に、ジュリアン・ラージがフィーチャリングされている“Another Half”という曲があって、それみたいに弾いてほしいと。それをマサユキさんに伝えたら、「なんとジュリアン・ラージですか! だいぶハードル上がりました」って言いながら返してきたのがこれ。この演奏の裏にはジュリアン・ラージがいるんです(笑)。
上記に出てくる“Another Half”(7曲目)とともに、ジュリアン・ラージは11曲目の“Unfinished House”にも参加。2023年リリース。
──ジュリアン・ラージを希望した側として、聴いてみていかがでした?
すごいです。超えましたね。もう、「ずるい! マサユキさんがひとりでぜんぶ持ってっちゃったね」って(笑)。いままでの苦労がこの曲でぜんぶ覆されちゃったぐらいの、力のあるプレイです。
──すごくインパクトありますよ。
デュオだから良かった、面白かったっていうのもあって。コーシャス・クレイとジュリアン・ラージもYouTubeではデュオでやっているんですよ。オファーするときは、アルバムの音じゃなくてそっちを送ってて。それもすばらしいんですけど、「アレンジができた」ってマサユキさんから音もらったとき、思わず笑っちゃったぐらいにすごかったです。歌も、ギターの録音のとき同じ空間で一緒に歌ってて、最後にダビングし直してはいるんですけど。
──同じ場所で一緒にやっているようなライヴ感があるのはそのせいなんですね。
ヴォーカルをダビングするときも、ギターの音をモニターから出しながら録りました。目の前にあるものをマサユキさんだと思って、歌いかけるようにレコーディングして。健太郎さんのアイデアです。
──この曲はアルバムのクライマックスという感じがしました。 “ささやかな連続” は資料には「80’sライクなポップ・ロック」とありますね。僕はすごくファンキーに感じましたが……。
これも元ネタがあって、レミ・ウルフの “Buzz Me In” という曲ですね。エレキ・ギターがキャッキャッて鳴ってる80’sライクなアップビートの曲で、高校生時代を思い出して胸が熱くなって、「こういうのやりたい!」と思って。この曲は健太郎さんにギター弾いてもらってるんですけど、「BOØWYみたいなギター」ってリクエストしました。
“Buzz Me In”は本作の12曲目に収録、リリースは2021年
──健太郎さんがBOØWY!(笑)
彼のなかでは布袋寅泰さんはたぶん表現できないので、何か違うものに置き換えてやってると思うんですけど。これを作るときPSY・Sとかも引っ張り出してきました。レミ・ウルフのはメジャー・スケールのすっごい明るい曲なんですけど、リズムから組んでいって、弾いてたら偶然マイナー調になって。後半がYMOみたいに展開するのは、健太郎さんが歌詞の「マジック」という言葉に影響されてそういうアレンジになったそうです。