Jónsi 『First Light』
LABEL : Myndstream
前作『Obsidian』(2021年)ではアンビエント・ミュージックを軸にしたサウンドを採用したヨンシーだが、本作ではオーケストレーターにニコ・ミューリーを迎えることで、ストリングス・サウンドを中心としたポストクラシカル的な作品となった。これはシガー・ロスが『Átta』(2023年)にロンドン・コンテンポラリー・オーケストラを招いていたこととパラレルのように思える。『First Light』はもともとビデオ・ゲームのサウンドトラックとして制作されていたらしいのだが、平和、希望、つながりを探求するようなプロジェクトになっていったようだ。乱れ続け、新たな戦中といっても過言ではない昨今の世界情勢に対するヨンシーのリアクションが、本作で聴けるオーケストラが産みだすオーガニックな美なのかもしれない。ヨンシーのソロ・ワークスは、2作目以降話題になることがあまりないものの、それぞれカラーが違っていて、その変遷は極めて興味深いので、このタイミングに聴き直すことをお勧めしたい。
Laurie Anderson 『Amelia』
LABEL : Nonesuch
ローリー・アンダーソンといえば、本人がヴァイオリンの弾き手であることや、クロノス・カルテットとのコラボ作『Landfall』(2018年)に象徴されるように、クラシック~現代音楽との繋がりがキャリアの節々で見てとれる。本作もその系譜であり、チェコを代表するオーケストラであるフィルハーモニー・ブルノや、yMusicの3人によるストリングス・ユニットであるトリンバック・トリオによるサウンドが要になっている。ギターにはマーク・リボック、ヴォーカルにはアノ―ニを招いており、このふたりも強烈な存在感でたびたび姿を現わせる。楽曲はほぼすべて3分以内で、1分以内のものもざらにある構成になっており、途切れることなく矢継ぎ早にサウンドが移り変わっていく様が極めて鮮烈な印象を持たせる。飛行機の音がたびたび現れるのは、本作が世界一周旅行中に消息を絶ったアメリカの女性飛行士、アメリア・イアハートがテーマになっているからだ。歌詞も彼女の送った電報や、飛行日誌をベースにしているので、それとサウンドが相まって素晴らしい作品となっている。
Ellen Reid 『Big Majestic』
LABEL : New Amsterdam Records
クラシック~現代音楽のフロントラインを拡張し続ける〈ニューアムステルダム〉だが、今回の連載で取り上げるのはエレン・リードの作品。彼女は以前紹介したisomonstrosityの一員だ。シンセサイザーとストリングスの絡みが美しいタイトル曲「Big Majestic」に象徴されるように、本作はどこかスピリチュアルなアンビエント・テイストのサウンドがメインだ。ブライアン・イーノやナラ・シネフロ、カマシ・ワシントンやフローティング・ポインツに影響されたことが大きな理由だろう。柔らかで陽性な雰囲気が全編を覆う、非常にポジティヴなレコードといえる。客演は極めて豪華で、クロノス・カルテット、シャバカ・ハッチングス、ジェームズ・マクヴィニー、リゼル、そしてyMusicのメンバーたちが集合している。ミックスとマスタリングを担当するのは、ヴァルゲイル・シグルズソンであり、安定の高品質を誇っている。