「そもそも人って矛盾してるよね?」というスタンスで歌詞を書きたかった
──例えば6曲目に配置された"休息充電"のような、突き抜けてポップな曲も、アルバムの全体像のなかで浮いてはいない。そうした楽曲の配置やバランス感覚みたいなものを見たときにも、この『NOW I SAY』というアルバムはとても優れた作品のように感じます。
藤本:"休息充電"の編曲はAPAZZIさんにやっていただいたんです。J-POP的な手法と言うか、僕らだけでは絶対にできないことがされている曲ではあるんですけど、こういう曲がアルバムのなかで浮かないのも、「音」の部分がすごく大きいのかなと思います。僕らって、根本的にインディーズ・ミュージックが好きなわりに、ずっと音自体はハイファイなんですよね。真ん中と上の音が強調されている曲が昔から多くて。そういう自分たちが昔から持っていた要素が、いい意味で働いたのかなと思う。
アラタニ:そうね。でも、「浮いてない」と思ってもらえたのは嬉しいね。"休息充電"の扱いはすごく考えた部分なので。アルバムの曲が揃って、この子("休息充電")をどう落とし込もうかと考えたときに、他のシングル曲を次に並べてもポジティヴな感じが続きすぎるというか、しっくりこなかったんですよね。それで、"休息充電"の次に"In dreams"というインタールードを入れてみたんです。そして、"Dive"につながっていく。この並びにしたことによって、"休息充電"はシングルとして聴いたときとアルバムの流れで聴いたときの印象が変わるものになったんじゃないかと思うんですよね。
──確かに、シングル曲として聴いたときと印象はかなり違いました。今作に収録された"In you"、"In dreams"、"In me"という3曲のイントロ、インタールード、アウトロ的な立ち位置の楽曲は、もはや「独立した1曲」として扱っていいのでは? と思うほどの名曲感がありますよね。これらの楽曲の制作に関してはどのように考えられていたんですか?
アラタニ:サポート・メンバーで、キーボードを弾いてくれているやさしささんが一緒に曲を作っているときに持ってきてくれたメロディがすごくよくて。それが"In you"と"In me"の原型だったんです。そのメロディを聴いたときに「これをアルバムの頭と終わりに入れよう」という話になりました。中盤に入れた"In dreams"は、"休息充電"を聴いたあとのクールダウンという役割を担う曲で、この曲に関してはデモ段階のものをそのまま採用しています。この曲に関しても、やさしささんと話し合いながら、ゼロからガッツリと作っていきました。
──これらの楽曲があることで、アルバムに通底する物語が生まれているような印象もあります。
アラタニ:そこは藤本くんの素晴らしいセンスですね。藤本くんが書いたこの3曲の歌詞を見たとき、やさしささん、泣いてたもんね?
藤本:泣くんですよ、あの人は(笑)。……これらの曲の歌詞は最後に書いたんですけど、こういう曲たちがこのアルバムには絶対に必要だと思って。これは音楽というよりは内省的な話になってくるんですけど、今回のアルバムに収録された他の曲を見たときに、歌詞に関しては「素晴らしい比喩表現がある」みたいなものではないんです。どちらかといえば、本当に日記みたいなものと言うか、私小説的なものが並んでいる。そんなアルバムの結びになるものをちゃんと歌詞にしようと思って、この3曲の歌詞は書きました。

──歌詞は日記的な側面も強いということですが、なにを歌いたいのか、なにを言葉にしたいのか、という点で、このアルバムを制作されるうえで考えられたことはありますか?
藤本:多くの人がパッと受け取ったときに「なんだこれは?」とならず、それでもちゃんと自分の哲学が詰め込まれていて、メロディと一緒に聴いた人に入っていく。そんな歌詞を書きたいと思っていました。例えば12曲目"ながいおわかれ"の歌詞も、別に難しい言葉を使って書いているわけではないんですけど、自分なりの哲学というか、書きたいことはあって。恋愛的な別れでも、死別でも、距離的な問題で会えなくなってしまった関係でも、どんな形であれ「別れ」と言えるものってたくさんあると思うんです。でも、自分や相手の内側に存在や記憶が残っていれば、それは「別れ」ではないんじゃないか? ということを思ったんです。ガワの部分で見たら別れはありふれていることだと思うけど、人の内面的なものとして見たら、別れはないんじゃないかと思って。そういうことを「自分はこう思うんすよね」くらいの感じで、考察が必要にならないくらいの距離感で言葉にしていきたい、という思いがあったんです。
──音楽を作ることは、どうしたって自分自身の哲学に向き合うことになるのだろうと思いますが、今作の制作においては、特にそれが強かったですか?
藤本:そう思います。アルバムのタイトルは『NOW I SAY』なんですけど、「これがいま言いたいことです!」というニュアンスというよりは、そのときそのときに思ったことをバーッと言っている、という感覚なんですよね。そういう言葉の書き方に向き合ったときに改めて思ったのは、「人間はとにかく矛盾をはらみまくっている」ということだったんです。それはリアルタイムでダブル・スタンダードがあるというより、過去の自分といまの自分が言っていることは全然違う、みたいなことで。人は成長もするし変化もするし、「2年前の自分と言っていること違うくない?」と自分で気づく、みたいなことは歌詞を書いているとすごく多い。そういう部分も含めて「いま私はこう思っています」ということを、アルバムのタイトルにしたかった。「あのときの自分はこう思っていて、違うときの自分はこう思っていました」みたいな感じで、「そもそも人って矛盾してるよね?」というスタンスで歌詞を書きたかった。
──自分自身の矛盾を、無理やり矯正しようとはせず、むしろ矛盾を受け入れたうえで言葉を書いていった。
藤本:自分が好きなバンドを聴いていて、「え、前はこう言ってたじゃん」みたいなことを感じる瞬間って正直あったんです。でもよく考えてみれば、そもそも人は変化していくんだから、矛盾していくものだよな、と。表現もそういうものだよねって。それはこのアルバムを作っているなかでの大きな気づきだったと思います。