諦めたことはたくさんあるけど、まだ行ける気がする
──10曲目"mmm"(読み:ハミング)は、ここ3年ほどのコロナ禍の記録のような曲ですね。曲として残したいという気持ちで書かれたのかなと思いますが。
日記というか、自分のはけ口みたいな。このときはコロナについて思うところを書かないと次にいけない、曲がかけないという感じだったんです。この曲は2年前に前作『最悪最愛』を出した時からあったんですけど、まだ渦中だったので生々しい傷跡を見せてしまう感じがして。私は前作に入れたいと話していたけれど、次第に「入れなくてもいいんじゃない?」という気持ちに変わっていったんです。それがやっといま瘡蓋になりつつあるというか。あの時こうだったねというものを付箋みたいにひとつアルバムに入れておいてもいいんじゃないか、というか。思い出すものになっている気がしたので、このタイミングで入れられた。曲順も、前作は入れるとしたらボーナス・トラックしかないだろうという感じだったんですけど、いまはアルバムのなかに入れられました。
──過ぎ去った恋を振り返るのと通じることかもしれませんね。こうした曲はジャーナリスティックな側面もあります。「やめちゃった総理の 体調は心配」("mmm"より)というのは、その後のこともあるから難しい題材ですが。
これを書いていた時は、私もまさかそうなるとは、という感じだったけど、それでつまり時期がわかるというか。いつ頃の曲というのが、ちゃんとわかる曲になってる気がします。いまも苦しい苦しい思いをしている人がいるのを知っているうえで、それをちゃんと忘れないために、こういう作品があるんじゃないかとか、あったことを忘れないという気持ちもあって、アルバムに入れているところもあります。聴く人と一緒に「しんどかったよね」と思えることが、いいのかな。この曲に関しては。
──世界中が共感することですからね。歌詞のなかにはライヴハウスのことも書かれていますが、こういう曲を歌えそうで歌えない状況があると思うので、曲にしたことは素晴らしいと思います。
書いている時も渦中だったので、暗い歌にしたくないというのがありました。自分が歌を歌っている意味をちゃんと入れたかったし、生で聴く意味も入れたかった。ライヴというものがなくなってしまうかもしれない。配信ライヴでいいじゃんみたいな風潮もあって、ライヴの意味があるんだよと気づいて欲しい。それを言葉にできるものとして置いておきたいというのがあって、自分自身も救いたい曲だったので、アルバムに入れられてよかったなと思います。

──1曲目の"大航海"は先日のライヴ(2023年12月10日 FMホール)で初めて聴いたのですが、「だいこうかい」というタイトルが「大航海」か「大後悔」なのか、どっちだろうとそのとき思ったんです。
両方入ってます。後悔をなくしていくようにと言われてきて、20代の頃は本当にそれを信じてやってきた気がするけど、無理なんだなと。後悔と共に生きていくしかないんだということをいま感じる。生ゴミみたいな話で、後悔した瞬間は水分もいっぱいあって体を埋め尽くすから、それをゼロにしたいと思うんだけど、だんだん水分が抜けてぺしゃんこになっていく。でもなくならない。だけど、その後悔があっても生きていけるというか、楽しいことをいっぱい自分の体のなかに詰めていける。ずっと下の方にカラッカラになった後悔みたいなものがあり続ける、あり続けたまま生きていく。たまにあの後悔をなんとかしたいと思う夜が来る、ということを30代になって知った感じもして。そういう全てを背負っていかなきゃいけない。もちろん忘れていくことはあるんだけど、水分が抜けただけで残っているものはある。そういう意味では、後悔していることはいっぱいありますね。
──後悔のフリーズドライですか。後悔のきっかけになりそうなワードが歌詞の後半に並んでいますが、そうした感情を推進力に航海していくんですね。
さっきの水分みたいな話は比喩ですけど、怒ったりとか感情的な振れ幅が少なくなっていくことが、とっても寂しくて。それのおかげで確かに後悔するようなことをしなくなっている自分もいるし、それが自分の人生としてはおもしろくないんじゃないかと。そういう歌でもありますよね。
──それこそ「未成線」の先にもっとなにかあるかもと?
そうなんですよ~。あったらいいんですけど。戻ることはできないので、先にあることをずっと探しています。自分がもうその先にいるということは理解しているんです。ゴールだったところ、終着駅だったところも後ろに見えているのに、戻れないことを知っているという感じなので。だからこそ、この感情を知っているし、まだなんとかなるんじゃないかという気持ちではありますね。まだこの気持ちを膨らませることができるんじゃないかと。まだ諦めていない。諦めたことはたくさんあるけど、まだ行ける気がする。
──最後の"いってらっしゃい"は、そうした思いを受けて歌ってらっしゃる気がします。
この並びはそういう意味合いはありますよね。"いってらっしゃい"は後悔はたくさんあるけれど最後の別れみたいなところなので、これ以上自分ができることはないという。もちろんアニメ『進撃の巨人』のタイアップというのもありますけど、これ以上この人と一緒にいることはできないなかで、自分が言える言葉ってなんだろうという曲なので、最後にこれを持ってきたかったというのはあります。
──最後にこの作品と同時に発売された「元カレかるた」誕生の経緯を教えていただけますか。「元カレ」との出来事や様々な思いをかるたに仕立てたもののようですね。
もともとは、自分が編集長をやっている雑誌『~生き抜く力と息抜く言葉』のおまけページのひとつとしてはじまりました。その雑誌を作っている人たちが、元カレの恨みをかるたにしてみようよと。雑誌の読者の方からの反応も良くて実際に形にしてみようということになったんです。これがあると、初対面の人とも話がはずんだりして仲良くなれるんですよ。ただし家族とやるのはお勧めしません(笑)。
