歌を歌うことも大切にしたいと思っているんですよ
──『未成線上』では"恋の色" "自販機の恋" "この退屈な日々を"と恋愛三部作が収録されています。これらは自然に恋愛ソングになっていったんですか。それとも恋愛をテーマとして書いていくんですか。タイアップという条件も関係しているかと思いますが。
この三部作では、"この退屈な日々を"がいまの自分の感覚にあっているなと思います。なんでもない日々を大切にしていこうという。でもそれって私が聴いてきたような恋愛ソングじゃないというか。自分のなかではいままで聴いてきた恋愛ソングを書きたいなというのはあるから、頭のなかをかき混ぜて沈殿していたあの頃の恋愛の気持ちを思い出したりとか。あの時の自分の感情を思い出すために映画とか漫画とか使って思い出すという作業をしましたね。
──今回は編曲に4組の方々が関わってしますが、それぞれどのように作業していったのでしょう?
先行配信シングル"自販機の恋"と"恋の色"はTHE CHARM PARKさんに編曲してもらいました。私、CHARMさんの曲が大好きで。以前「なにかあったら呼んでね」って言ってくださって。めちゃめちゃ優しい人だったので、いつかなにか作れたら良いなあと思っていたんです。"自販機の恋"は(一緒に作れたら)楽しそうだなと思って。CHARMさんの曲をいろいろ聴いてたらストリングスの曲もあって、あまりやらないらしいんですけど、ストリングスの積み方がおもしろくて。そのおもしろさがこの曲に合いそうと思って頼みました。スタジオでも本当に楽しくてお願いしてよかったなと。
──"大航海"を手がけた宮田"レフティ"リョウさんはバンドをやってらっしゃるんですよね。だからかバンド感のあるアレンジで新鮮です。
レフティさんは前からアレンジをお願いしていて、リフとかアレンジに想像もしなかった音やリズムを入れてくれる人。それを知っているので、"大航海"はロックでおもしろいものにしてくれるんじゃないかと思ってお願いしました。本人もプレイヤーでもあるので、その感じが出てますね。
──fox capture planはジャズ・ロック・ピアノのトリオ。ヒグチさんの歌もひときわ丁寧に感じました。
今回foxにアレンジしてもらった"この退屈な日々を"と"誰でもない街"は、私がピアノを弾いていないんですよ。それもあるような気がします。弾き語りで歌っている時はピアノと歌が一緒に動いていく感覚なのでバンドと私は別々だったんですけど、今回foxにアレンジしてもらったので、ピアノはバンドのなかに入っていて、歌が別というイメージ。それで、私という存在の強みが歌に偏ったというのはあると思います。
──これまでピアノを弾かずに歌うことを考えたことはなかったんですか。
この先もずっとピアノを弾き続けると思うんですけど、歌を歌うことも大切にしたいと思っているんですよ。前みたいに歌えなくなっていることもあるし。ただ大きい声を出して、とにかく見て欲しい!みたいな人間性じゃなくなってたりもしていて。そうなると自分の気持ちがどうであろうと出せる声を作らなくては、ということもあって、声の出し方を研究してたんです。それがやっとできるようになって。そういう最中の曲なので、声の出し方もストレートというか、優しい感じ、明るい感じになってると思います。これから増えていくような気がしますね。
──ヒグチさんはクラシック出身で、foxはジャズ系なのでコードのセンスとか違っておもしろいことになったのかなと思います。
全然違いますね。私からしたらとても自由な気がして。レコーディングしている時も、「こっちかな?」「やっぱりこっちか」みたいなことを何回もしながら弾いてる。それが見てても楽しくて。そんなにたくさん引き出しがあるんだって。クラシックは譜面があるので、昔は譜面がないということが理解できなかった(笑)。コード進行だけ書いてあって、しかもその通りに弾かないというか、ベースはこれでいくけど重ねる音はコードから離れててもいい。そんな自由度を感じられて楽しかったですね。
──"誰でもない街"のジャジーなアレンジは彼等らしいですね。
もともとジャジーな雰囲気で、とお願いしていたんですけど、foxのアイディアでサビのリズムが1番と2番で変えているんですよ。1番はエイトビートで2番はスウィングしてて。1曲のなかに遊び心がたくさんある感じ。そういうのも勉強になったんですよね。

──ひぐちけいさんは妹さんですね。姉妹での作業はどんな感じですか。
妹のアレンジの曲もたくさん聴いてきたので、ギターをメインにしたものが合いそうだなと思って。今回は"最後にひとつ"と"わがまま"を作った時に、妹がいままで作ってきたものの引き出しのなかでできそうと思ってお願いしました。妹が、どうなったら機嫌悪くなるとか、どういうことを言われたくないかわかるので、かえって言いづらいところもありますね(笑)。作業に時間かかっているときは、なにも言わずに待ってる方がいいんだなとか。知っているからこそ言わないこともありましたね。育った環境もあるかもしれないですが、好きなものが近くて。なのでとてもお気に入りのアレンジになりました。