果歩 『まばゆい』
新潟県出身、東京で活動するシンガーソングライターの4作めのEP。3年前にインタビューしたときのヒリヒリ感を思うと格段にたくましさを増した。これは僕だけだと思うが、8曲の流れからは魚の生活のイメージが浮かぶ。 “朝” で水草茂る棲家から顔を出して “pool” で浮上していき、 “ゆるり” (「ゆるりといこうよ/くるり逃避行」の押韻がポップ)と “きらきらひかる” (サビ直前の言葉が印象に残る歌唱に感心)のタイアップ2曲ではいきいきと水面から跳ね上がってみせる。 “センチメンタルガール” を経て再び潜りはじめ、感覚が呼び起こす記憶を弾き語った “残春、向暑のなかで” でまた棲家に戻っていく。 “海” や “せかいのひと” で描かれる、かすかなやるせなさ混じりの恋を祝福したい。それは成熟の証だと思うから。
番匠谷紗衣 “honey”
2018年に19歳でメジャー・デビューした経験もある人だが、僕はこの曲で初めて聴いた(名前は知っていた)。R&Bフレイヴァーのシンガーソングライター然とした曲で、音域が上がるほどにハスキー要素を増していく歌声がとにかくすばらしい。サビ前の「変わってく」からひと溜めを経てのサビの「ふたりの」に続くくだり、アウトするピッチとひとり多重ハーモニーが心地よく耳をくすぐる。宇多田ヒカルは言うまでもなく、初老リスナーとしては横山剣や前川清、森進一さえ彷彿とする。この曲を収めたアルバムまたはEPも準備されていると思うが、次はどんな聴かせ方をしてくれるのか期待したい。X(旧Twitter)のプロフィールに “音楽と福祉を融合させたフェス「Fill RECO FES 2022」主催” とあり、活動のあり方にも興味津々。
Lamp 『一夜のペーソス』
Lampを理想のバンドに挙げる若いミュージシャンに複数会ったことがある。時間をかけて良質な音楽を紡ぎ、熱心なリスナーとの誠実な関係を大切にする真にインディペンデントな活動は長年、敬慕を集めているが、近年の海外でのファン急増により、産業化せずインテグリティを保ったまま「ブレイク」したのは嬉しい驚きだった。5年半ぶり9作めのアルバムは74分36秒の大作で、フォーク・ロック、MPB、R&Bなどなど音楽性の幅は広いが高い統一感を備えた精緻な20曲のポップ・ソングが、同じ部屋で目の前で演奏しているような独特の音像ともあいまって、聴く者を夢幻の世界へと誘う。あくまでアルバムとしてつくられた作品だとは思うが、同時にひとつひとつの曲は単曲での鑑賞にも耐える「立ち方」をしてもいる。
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