Rakhi Singh 『Purnima』
LABEL : CANTALOUPE MUSIC
ラキ・シンは、前回の連載記事でも取り上げたマンチェスター・コレクティヴの設立者として知られているが、ソロのヴァイオリニストとしてもアクティヴに活躍している。ヴァイオリニストとしての客演を挙げるだけでも、フィーバー・レイ、ヴェッセル、クラーク、ビョーク、リアム・ギャラガー等と越境的な活動を展開している。そんなラキ・シンのデビュー作が本作だ。レーベルは、現在のインディー・クラシックのベースを作り上げたと言っても過言ではない〈カンタロープ・レーベル〉。『Purnima』の作曲にも、このレーベルの設立者であるバング・オン・ア・カンの一員である、マイケル・ゴードンとジュリア・ウルフが関わっている。本作の中で特にレコメンドしたい楽曲はそのジュリア・ウルフ作曲のもので、ダイナミックで分厚いヴァイオリンをエレクトロニクスと絡めながら編み上げたドローンを、16分を越える長尺で展開させていく、圧倒的な迫力を持ったサウンドが持ち味だ。この曲を聴けばバング・オン・ア・カンがなぜインディー・クラシックの頂点に君臨し続けられているのかがよくわかるし、ジュリア・ウルフの求めるサウンドをモノにしたラキ・シンの実力を知ることができる。
Lucy Railton 『Corner Dancer』
LABEL : MODERN LOVE
デビュー作『Paradise 94』での達成はもちろん、個人的にはイギリスで最も先端的なエレクトロニック・ミュージシャンのひとりであるベアトリス・ディロンやピアニスト~オルガニストであるキット・ダウンズ、アンビエント・ミュージックの先端にいるカリ・マローン、そして前述したローレル・ヘイローとのコラボが印象に残っている。ルーシー・レイルトンはクラシック~現代音楽のみならずエレクトロニック・ミュージックのフィールドでチェロという楽器のポテンシャルを引き出す俊英として存在しており、その成果は上記のような形でしっかりと現れている。彼女と似たケースの存在だと、今や劇伴作家として有名になっているチェリスト、ヒドゥル・グドナドッティルがいるが、どこかルーシーを彼女に重ねられる。そんな彼女の新作は前作『Paradise 94』に続き、〈モダン・ラヴ〉からのリリースとなっている。『Corner Dancer』では前作よりさらにチェロとエレクトロニクスの融合という点で高度な達成を成し遂げている。音色やテクスチャーをプロセッシングしたり、電子音やベースを付け加えたりすることで、未知の音色やコンポジションを追及してみせ、彼女の音楽的なレベルはまた一段上にあがった。
Moritz von Oswald 『Silencio』
LABEL : TRESOR
ベルリンを拠点に活動しているヴォーカル・アンサンブル、ヴォーカルコンソート・ベルリンが参加している本作のインスピレーション源に、モーリッツ・フォン・オズワルドはクセナキス、ヴァレーズ、リゲティを挙げている。特にリゲティが挙げられている点については、筆者個人としては『ルクス・エテルナ』をはじめとしたリゲティの声楽が好きなこともあり、エレクトロニクスと声楽の同居をコンセプトにしている本作の参照として相応しいと納得させられた。シンセサイザーによって組み立てられたサウンドはクセナキスの「音の雲」を意識している部分や、ヴァレーズ的なパーカッションを思わせる部分があり、それらがヴォーカルコンソート・ベルリンのヴォーカリゼーションと見事にマッチしていて、ある意味では20世紀に現代音楽が追及したものの先をモーリッツ・フォン・オズワルドが提示しているような気にすらさせられるものだった。彼の継承意識が垣間見えるじつに興味深い作品と言っていいだろうし、そんな作品がこれほどの完成度を誇るのはさすがというしかない。