Oneohtrix Point Never 『Again』
LABEL : WARP
OPNの半自伝的作品『Again』を特徴付ける音楽的要素としてよく挙げられるものに、彼が好んで聴いてきたポストロックや電子音響~エレクトロニカがあるが、この特集内でフォーカスしたいのはやはりノマド・アンサンブルとのコラボレーション、つまりクラシック~現代音楽の要素の大々的な導入だ。ここ数年のエレクトロニック・ミュージック・シーンを概観した時、アクトレス、マシュー・ハーバート、パウウェルといった先端的なエレクトロニック・ミュージシャンに共通するのが、クラシック~現代音楽とのコラボレーションだ。彼らはロンドン・コンテンポラリー・オーケストラとのコラボ作をリリースし、そのどれもが傑作になっている。OPNもまた、『Again』でそこに名を連ねるべき作家になったと言っていい。ここにはOPNの特異とするニューエイジ的なエレクトロニック・ミュージックに、ロマン派的な旋律や、現代音楽的な響きが加えられている。OPNの創り出す独創的なサウンドスケープのパレットに、また新たな色彩が広がった。
Peter Broderick & Ensemble O 『Give It to the Sky』
LABEL : ERASED TAPES RECORDS
ピーター・ブロデリックのアーサー・ラッセルへの尊敬の念は本物である。彼はかねがね自身のサウンドへのアーサー・ラッセルの影響を口にしてきたが、それだけではなく以前、アーサー・ラッセルのカバー集『Peter Broderick & Friends Play Arthur Russell』という作品もリリースしている。そしてここに来て、アーサーの作品『Tower of Meaning』をフランスのアンサンブル、Ensemble Oとコラボすることで再構築してみせた。本作はもともと『浜辺のアインシュタイン』で有名な演劇監督、ロバート・ウィルソンがエウリピデスの『メディア』を上演する際の音楽として作曲され、指揮者はジュリアス・イーストマンだったが、途中で頓挫してしまった。そこで作られた楽曲にピーター・ブロデリックが補足し、現代の作品として蘇らせたものとなっている。各楽曲で同様のメロディーラインをテンポや音色のバリエーションで構築してゆくアンサンブルの中で、ピーター・ブロデリックのヴォーカルを聴ける瞬間もあり、時代を越えた2人の音楽家がサウンドの中で邂逅している様を見るのは感動的だ。このようなバトンの美しい受け渡しが、音楽史ではたまに見られる。
Roger Eno 『The Skies, they shift like chords…』
LABEL : DEUTSCHE GRAMMOPHON
ロジャー・イーノが世界最古のクラシック・レーベルである〈ドイツ・グラモフォン〉からソロ作品をリリースしていることは、もしかしたらあまり知られていないかもしれない。兄であるブライアン・イーノとのコラボ作『Mixing Colours』を同レーベルからリリースしたのち、レーベル・デビュー作である『The Turning Year』を2022年に発表した。〈ドイツ・グラモフォン〉は歴史が長いレーベルではあるが、ある種の伝統主義に陥ることはなく、ロジャー・イーノのような純クラシック的な音楽家以外にも門戸を開いてくれる。彼の音楽性はポストクラシカル色が強く、例えば本連載でも扱っているレーベル〈イレーズド・テープス〉等からリリースされていてもおかしくない。ピアノ、ストリングス、クラリネット、シンセサイザー、ギター、コーラスといった音色を巧みに使い分けて配置し、しかしあくまでシンプルに各音色の響きを大切に扱う。ある種の実験性やエッジよりも西洋的な美を丹念に磨き上げてゆく彫刻のような成熟したサウンドがここにはある。
OTOTOYでの配信購入はコチラへ(ハイレゾ配信)
OTOTOYでの配信購入はコチラへ(ロスレス配信)