刺さらない人にはまったく刺さらないものになる。それでいいなと思うんです
──今作『酸いも甘いも、好きも嫌いも』にも、皆さんそれぞれのそういったメンタリティが反映されているのかもしれないですね。バラエティに富んだ8曲すべてが、思い切りのいいアプローチになっているのも印象に残りました。
佐々木:前作『Scarlight』でもお世話になった宮田'レフティ'リョウさんと、よりしっかりとタッグを組んだことも大きいですね。
木田:今回は8曲中6曲(編注)参加してもらってるからね。
佐々木:そうだね。レフティさんは僕らではなかなか思い浮かばないアイデアを瞬発的に出してくださるので、スピード感をもってクオリティの高いものが生まれるのがおもしろかったんです。今回はコライトしてみたり、一緒に考えたテーマで僕が曲作りをしてみたり、いままでとは作り方がガラッと変わった曲もあって。そういう新しい刺激をもらいつつ、僕らが「こういうことがやってみたい」と思ったときは「こういう音がいいんじゃない?」とすぐ提案してもらえたので、自分たちのやりたいことを具現化しやすくなりました。
編注
M1“一目惚れかき消して” / M2“lowkey” / M4“クッキーアンドクリーム" / M5“あいかぎ” / M6“Wet & Dry” / M7“泣きたくなるほど”は、宮田'レフティ'リョウと共同で編曲している.
──レフティさんはバンドにもDTMにもポップスにも精通している方なので、多彩なサウンドに挑戦するうえでかなり強い味方になってくださったのではないでしょうか。
佐々木:すごく引き出しが多い方なんですよね。いろんなものをいただけている感覚があったので、「まずはやってみればいいんじゃない?」精神になれたんです。あとは「自分の色」みたいなものはコライトによって崩れるわけではないと思えるようになったことも大きいと思います。実際いろんな作り方をしてみて、すごくおもしろかったんですよね。
木田:レフティさんはベースはもちろん、ドラムやキーボード、ギターも弾けるマルチプレイヤーなので、アレンジで「こういうギター・フレーズを入れたいんです」と相談すると、瞬時に「じゃあここの部分は他の楽器で支えよう」と提案してくれるんです。僕も前より自由にギター・フレーズを考えられるようになりました。
大野:あとレフティさんはすごくフレンドリーなんですよね。プロデューサーさんによっては先生っぽい方もいらっしゃるんですけど、レフティさんは僕らからの提案にも「おもしろそうだね、それやってみよう」と言ってくれたり、笑いもあったり。先輩っぽく接してくれたので、すごく楽しい制作現場でした。多分音源からもそういうニュアンスは伝わるのかなとも思うし、伝わっていたらいいなと思います。
──"Wet & Dry”はシンセがメインの楽曲で、音源ではベースとドラムは打ち込みとのことですが。
佐々木:ライヴでは僕もベースを弾かずに、ハンド・マイクの予定です。やってみたかったんですよね(笑)。
大野:(笑)。打ち込みのドラムに対して、意外とそんなに抵抗がなくて。もっと若い頃にそういう提案をされていたら受け入れられなかったかもしれないけど、音源としてすごくいいものができるならそれがいいなって。最近はそういう考え方がすごく増えました。
木田:とはいえこういうことをするのは、たまにだからいいんですよね(笑)。全部“Wet & Dry”みたいなことをするのは、ちょっと違うと思うし。
──リアクション ザ ブッタはバンドですからね。
木田:そうですね。"一目惚れかき消して"も当初、レフティさんから届いたアレンジのリズム隊は打ち込みだったんです。でもリード曲だし、ミュージック・ビデオには3人の演奏シーンを入れたかったから、ここは絶対に生楽器にしたいと申し出ました。
──リード曲の"一目惚れかき消して"はバンド・サウンドを打ち込みのように扱ったアレンジもおもしろいなと思いました。
佐々木:まず僕がデモをワンコーラス作って木田に送って、「ボカロPっぽい感じで基本のアレンジを作ってみてほしい」と頼んだんです。木田がアレンジしたものをレフティさんがさらにアレンジで磨いてくださってます。コライトのパターンと、こっちでデモを作ってから一緒にアレンジを考えるパターンは、違う良さがあるんです。どちらのやり方もお互いのセンスが混ざっているんだけど、それぞれ違う混ざり方をしてるなと感じます。
──歌詞は「もしかしたら恋人が浮気したらどうしよう」という思い込みで自分を苦しめている男性が主人公ですが、なぜこういうテーマになさったのでしょうか。
佐々木:自分の「心配性」という特性から生まれるストーリーを歌詞で書けたらなと思ったんです。いろんな歌詞を書いてみて、やっぱり自分の「地」みたいなものが出るほうが説得力があるものが書けるなと感じるんですよね。人に言ったら恥ずかしいような部分かもしれないですけど、歌だったらそういうこともさらけ出せるし、自分の地が出たものこそ歌にしたいし。自分としてもすんなり書けそうな題材だったので、今回かたちにしてみました。後輩のバンドマンに「この歌詞めっちゃわかります」と言ってもらったりしますね(笑)。あと「これぐらい思われるほど愛されたい」という女性のコメントも多くて、そういう目線もあるのかと意外でした。まあほとんどの方が嫌だな、煙たいなと思うんでしょうけど……。
──いやいや、そんなことは。
佐々木:でもそういうものだと思うんです。自分の根っこにある特性を題材にすると、刺さる人には刺さるし、刺さらない人にはまったく刺さらないものになる。それでいいなと思うんです。"一目惚れかき消して"はサウンドのおもしろさもあるので、そこで好きになってもらえる可能性もあるなとは思います。
──楽曲の世界観をわかりやすく表現しているミュージック・ビデオも、入り口となり得るのではないでしょうか。
佐々木:歌詞に沿ったお話をベースに、バンドのシーンとキャストさんおふたりのシーンで組み立てたミュージック・ビデオなんですけど……。
大野:佐々木さんの俳優デビュー作ですね。主人公の妄想の中の男を演じてるんですけど、その演技にかなり定評がありまして……(笑)。
木田:「城ヶ崎 蓮」っていう名前の役です(笑)。
佐々木:その場で誰かが言いはじめた名前ね(笑)。ちょっとチャラい役だからどうしようかなと思っていたら、スタイリストさんが私物のサングラスを貸してくれて。これをかけることによって、恥ずかしさみたいなものが少し紛れました(笑)。かっこつけなきゃいけないし、監督にキャストさんの手を握るよう指示を受けたり、カメラに向かって「綺麗だね」と言わなきゃいけなかったり……カットがかかった後、監督がいちばん笑ってるっていう(笑)。でもおもしろかったです。俳優さんたちは本当にすごいなとあらためて思いました。
大野:俳優の道にも進んでいくビジョンもちょっと見えた?
佐々木:それはまったくない(笑)。
木田:「すっごい頑張ってかっこつけてた」ってスタッフから聞きました(笑)。でも撮影が終わる直前、借りていた服に佐々木がジュースを思いっきりこぼしたらしくて……。
佐々木:ちょっと調子が良くなってきた頃にこぼしちゃいましたね……。本当に何度も謝って……。
木田:本来買い取りのところ、スタイリストさんのお気遣いで「大丈夫だよ」と言っていただいて。現場は大爆笑だったらしいですけど、本人はすごく落ち込んで帰ったそうです(笑)。
佐々木:後日謝罪の文面を送りました……。